2012年7月11日水曜日

リノベーションについて:3

以上の内容を踏まえてリノベーションを行った賃貸マンションの実例を紹介します。


神戸は北野町にある昭和47年築のマンションの一室のリノベーションです。
このマンションが建設された当時、ファミリーニーズが旺盛で、主要な住宅ニーズはファミリー層でした。この住戸の専有面積は55㎡程度ですが、とにかく家族で住むことができるように、小さな個室に分割されていました。

長年所有者は分譲貸で賃貸経営をしてきましたが、クロスの貼り替えや、畳の入れ替えをする程度では、近年入居者が見つからなくなってきました。
そのような状況を踏まえて、入居していた賃貸人が解約になり、空室になっても手を入れず、入居希望者が現れた時点で全面リフォームをするように所有者は考えていましたが、半年経っても入居希望者があらわれず、弊社に相談に来られました。

北野町周辺は住宅地として人気があり、この物件が苦戦しているのは需要とのミスマッチにあると考えられました。
そこで周辺の賃貸不動産業者にヒアリング調査を行い、市場動向を踏まえ、1.投資対効果の極限化、2.持続的な相対的競争力の維持、3.メンテナンスコストの削減の観点からリノベーション提案を行いました。

賃貸市場分析をする中で、ターゲット像を新婚夫婦や単身者に絞り込むことにしました。

世帯人数の減少により部屋数志向からゆとり志向へとニーズが変化しています。
さらにエリア的に新築の競合物件が多く、同じような内容であれば築古物件は築浅物件に負けてしまい、築古物件間の価格競争に巻き込まれてしまいます。
また、ニーズが多様化する中で、最大公約数的なニーズに応えるのではなく、少数派ではあるが確実に存在する特定の強いニーズに直接応えることが持続的な相対的競争力を持つことにつながると考えました。

以上の事を踏まえて、下記内容の改修提案を行いました。

・インテリアへの関心の強い顧客にアピールできる改修を考えます。
・このマーケットは中古賃貸における空白領域となっています。
・新築物件と競争するのではなく、古い建物だからこそ活かせる雰囲気を重視して改修を行います。このような視点で改修された住戸は非常に少なく、強い競争力を持つことができます。
・具体的な想定ニーズに直接応えることを意識し、ニッチマーケットを確実に掴むことを目指します。
・広めの1LDK+Nとし、最低限の間仕切りで可変性を持たせます。
・ホテルのスイートルームライクなプランニングを行い、充実した収納により、すっきりとした住み方ができるように配慮します。
・古くなっていたキッチンと浴室は入れ替えます
・玄関から直接中が一望できるプランは避けられるので、一望できない計画とします。
・洗面化粧台等水回りの雰囲気は重要なので、デザイン性の高いものを選択します。
・収納は充実する傾向にあるので、ゆとりある収納を設けます。
・キッチン、洗面への給湯はニーズが高いので給湯できるようにします。
・デザイン性の高い家具が映える器としての住戸が求められているので、器自身の意匠性は強く出ず、インテリアの背景となるように配慮したデザインとします。
・デザイン性とメンテナンス性の両立を目指し、Pタイルの床、AEP塗装壁によりデザイン性を高めつつ、メンテナンスが低廉に行うことができるように改造します。


以上の提案により実現する、具体的な空間イメージをCGで作成し、プレゼンテーションを行いました。その結果、所有者が提案内容を了承し、リノベーションを行うことになりました。

基本的には提案内容は全面的に採用していただけました。
玄関から直接中が一望できるプランは人気がないので扉を設けましたが、デザイン性の高さと明るさを演出する為に、フロストガラスを入れた天井までの背の高い扉を採用しました。

収納量を十分確保するために、リビングダイニングには天井までの扉付きの収納と、電話代を設置しました。


寝室とリビングの間は天井高さまでの背の高い建具で仕切りました。
少しでも空間を広く感じることができるように、厚手のワーロン紙を挟み込み光を通す障子のような建具を天井から吊おろし、出来る限りメンテナンスが必要ないように配慮しました。
従前の天井はすべて取り払い、コンクリート面のままとし、天井の高さとコンクリートの素材感によってデザイン性を演出するとともにメンテナンスがいらないように配慮しています。


外壁面の内壁には構造用合板にオイルステインを施しました。
仕上げを安価におさえると共に、メンテナンスが簡単に行えるように配慮しています。
ウォークインクロゼットへの入り口の扉は枠無の吊構造とし、デザイン性を演出するとともに、コスト削減を行いました。


隣接住戸との戸境壁は白色のAEP塗装とし、デザイン性を高めつつ、日焼けしにくく、汚れた場合でも上塗りすることで簡単に対処できるように配慮しました。
天井には配線ダクトを設置し、入居者の住み方や好みに応じて照明を設置することができるようにしました。


洗面化粧台は一般的なマンションで採用されているものではなく、デザイン性の高い陶器製のシンプルなものにしました。この洗面化粧台は当初コストが安いだけでなく、扉のあるものに比べて壊れる可能性が低いのでメンテナンスコスト低減に繋がります。


便器に関しては、従前のものがそのまま使えたので、清掃のみ行いました。
トイレの壁面や既存パイプは、AEP塗装を行いました。


老朽化した浴槽が設置されていたので撤去し、ユニットバスを設置しました。


以上のリノベーションを、約300万円で行いました。
築30年以上を経過し、当初のまま利用されていた水回りをすべて撤去し、スケルトン状態から全面リノベーションを行ったことを考えれば高くないのではないでしょうか。
このリノベーションを行った結果、従前状況では家賃6万5千円で半年以上入居者が決まらなかった所、リノベーション後は家賃10万円で速やかに入居者が決定しました。














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