2012年7月3日火曜日

今までの取り組み(ベルヴィ御影城ノ前)

ベルヴィ御影城ノ前 西側外観


高級住宅地である阪急御影駅前で土地を取得するということで、ディベロッパーから設計の依頼がありました。
阪急御影駅周辺は、非常に人気の高い高級住宅地ですが、一般的なディベロッパー事業に適した規模の土地が少ないため、マンション供給はあまりされていませんでした。
その結果、マーケティングリサーチを行っても、実際の地域の実力を判断することは難しい状況でした。
そんな状況の中で、キューブはシェヌーア御影(御影コーポラティブハウス)を事業化していたので、募集時の顧客動向が参考になるだろうと考えられたようです。



ベルヴィ御影城ノ前 南側外観



計画地周辺のマンション供給が少ないため、マーケティングリサーチの結果は供給実績のある地域を含んだ広域のものになり、本当の実力とは乖離しがちです。御影コーポラティブハウスの参加者募集を行う際にも同じようなジレンマがあり、阪急御影駅周辺という希少性により、少々総額が高くなっても、専有面積を70㎡~80㎡程度確保し、ゆったりと住むことができる広さの企画が地域性に合致するだろうと仮説を立てました。そして仮説に基づいて募集スタート時の事業内容を想定し、参加者募集をはじめました。募集活動の中で、実際に参加を検討される方の希望にできる限り沿う形で調整を重ね、結果的には70㎡~140㎡程度の専有面積となりました。


外観夜景

住戸間調整の過程において60㎡程度の専有面積の住戸を想定したこともあり、実際にチラシを作成して配布も行ったのですが、結果的には反応は弱く、逆にそのチラシによって広い住戸の希望者が見つかる状況でした。
阪急御影駅周辺は、非常に人気のあるエリアなので、自ずから単価は高くなってしまいます。当時の社会状況的に高額商品は厳しかったので、住戸単位を小さく抑えることで価格総額を抑えようというのが一般的な考え方でした。しかしそのようにすることで、周辺地域でも動いている価格に総額を抑えることができたとしても、今度は広さが狭くなってしまいます。そうなると、高いだけで狭い商品だと受け止められかねません。


地階のエントランスアプローチ

御影コーポラティブハウスでは、実際の募集を通じて、さらに高額になっても広い住戸を希望されている方々がおられるという周辺地域の実力がわかり、それに応じて計画内容を変更することで、参加検討者の希望に対応し事業化することができました。一般的な分譲マンションのように、当初の仮説のままで設計内容を確定していたら、高額になっても広い住戸を希望する方々に事業参加していただくことはできなかったと思います。



地階のエントランスホール


一般的に分譲マンションはマーケティングリサーチの結果を踏まえて計画されます。
本プロジェクトでも、マーケティングリサーチの結果を踏まえて、販売会社が提案していたのは、1住戸単位を60㎡台の小さめに抑えて、1住戸単位の販売価格を抑えるという事でした。
しかし、マーケティングリサーチの結果として上がってくるのは、過去の販売結果との相対的比較でしかありません。しかし、不動産はすべて個々に立地条件や建物条件が異なるので、単純に相対比較することはできません。たとえ、それを数値化して評価しようとしても、実際に購入者が判断する基準は総合的なものなので、そのようは評価は参考にはなり得ても、それ以上のものではありません。


地階エレベーターホールのオブジェ


圧倒的に需要が旺盛な時代であれば、過去の販売で成功した結果に沿って企画することが、最も事業リスク低減に繋がったと思います。柳の下のドジョウを取りに行く作戦です。しかし、既に時代はストックが世帯数を上回っている状況です。過去において柳の下のドジョウは良くとれたかもしれませんが、過去の事業によってドジョウがいなくなっているかもしれません。逆に過去の販売状況に基づくマーケティングは過去に供給されていない需要を予測することはできません。横で大きなウナギが泳いでいても、それに気づくことはできないのです。今までの分譲マンションは、ほとんどが過去の販売結果に基づいて商品企画をするために、同じような商品ばっかりを供給してきたため、最も大きなボリュームゾーンと考えれらるドジョウが、逆に枯渇するような状況が生まれてきているように感じます。不動産市場におけるマーケティングリサーチは、潜在的需要をはかるものではなく、既に失われた需要を追跡しているだけに過ぎないことを認識する必要があると思います。


このことを、実際に御影コーポラティブハウスで参加者募集をしている際に実感しました。そして、御影コーポラティブハウスの参加者募集において、コーポラティブハウスであることにより潜在ニーズに応じて計画内容を調整することができたのは幸いでした。



ゆったりとした住戸玄関ホール


本プロジェクトでは、御影コーポラティブハウスにおける募集状況を踏まえて、80㎡~100㎡程度の、広めのタイプを中心とした構成にすることを提案いたしました。ディベロッパーはマーケティングリサーチの結果を踏まえた販売会社の提案を採用するか、直近の募集実績に基づくキューブの提案を採用するか、最後まで悩んでおられましたが、最終的にはキューブが提案した商品企画で事業化することになりました。


間接照明と大きな窓が特徴的なリビングダイニング

80㎡~100㎡程度と1住戸単位が大きくなったことで、全体の住宅戸数が11戸と、コンパクトなマンションになりました。事業規模が小さく、高額物件であるにもかかわらず、潤沢な販売経費はありませんでした。そんな中で、阪急御影駅の駅前ビルに小さな事務所を借り上げインフォメーションセンターとし、モデルルームは作らずに、標準仕様として採用している扉などを陳列し、パネル展示等で主要な仕様関係を確認してもらうことができるような状況で販売が始まりました。高額価格帯マンションとしては異例の販売の仕方であり、果たして購入層の方々に受け入れていただけるかどうかは未知数でした。

ツインボールの洗面室


結果的には、竣工までにすべての住戸が完売しました。
一般的な分譲マンションで取られているモデルルームを作らずに、マーケティングリサーチの結果とも反する商品企画で、事業としては成功したのです。
私どもが本事業に関与していなければ、間違いなく一般的な手法で事業化されたでしょうし、その場合、専有面積を60㎡台の小さめに抑えて、事業利益や建築関連コストを抑えてでも無理してモデルルームを作っていたことと思います。その結果がどうなったかはわかりません。
しかし、本事業の成功は、私どもにとって大きな自信と、可能性を感じさせてくれるものでした。


窓のある浴室


世間には、こんな地域は、まだまだいっぱい残されているのではないでしょうか?
売却しようとしている土地があり、そのエリアに住みたい人も居るにもかかわらず、今までそれを繋ぐ事業手法がなかったので住宅供給がなされていない良好な住環境の地域。
このような地域では供給が少ないので、マーケティングリサーチが頼りになりません。従って、仮説に基づいた事業構築しかできません。仮説が正解かどうかは実際に販売をしてみなければわかりません。良くモニター制度等で、購入希望者を集めて調査をしているものがありますが、謝礼目当てにモニターに参加するだけで本当は購入しない場合も多く、あまり参考になりません。そういう意味では、仮説に基づいて本当の募集活動ができ、募集状況に応じて計画内容を変更することができるコーポラティブハウスは、このような地域で事業化をすすめるにはピッタリだと思います。

メゾネット住戸の螺旋階段


本事業は、高額商品でありながら、モデルルームを作らない販売だったにもかかわらず、引渡の際にもめることも全くありませんでした。また、コーポラティブハウスにおける実績はあるものの、一般的なマンションではほとんど取り入れられることのなかったメゾネット等も取り入れましたが、好意的に受け止められました。今まで常識だと考えてきた販売手法に大きな疑問を感じるとともに、工夫次第でまだまだ可能性があるのではないかと感じました。今後は、その可能性を積極的に意識して、事業に取り組んでいくべきであると気付かされました。










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