2014年1月7日火曜日

コーポラティブハウスに関する識者の見方

昨日ご紹介した「住宅新報」の記事において、日本マンション学会会長の小林秀樹氏に、コーポラティブハウスに関するコメントを寄せて頂いたので、ご紹介いたします。


コーディネーターは「指揮者」 
能力次第で居住者満足度を左右

コーポラティブ住宅のメリットとデメリット、そしてその特有の住宅取得・供給形態がどのような可能性を秘めているのか。住宅政策・都市問題に詳しい小林秀樹千葉大学教授に聞いた。

識者の見方

―コーポラティブ住宅は通常の分譲・賃貸に比べ居住者の満足度が格段に高まるとされるが。

「設計・施工面、価格の透明性の確保といった面から、一般に満足度は高まるのは確かだ。ただしコーディネーターの能力に(事業の成否が)左右される点に注意が必要だ。がこの点も、熟練のコーディネーターが実施すれば、ほとんど気になるデメリットにはならない」

―完成までに時間がかかる、建設費が割高になりやすいのが若干の難点だとの指摘もあるが。

「時間がかかることと建設費の問題は、注文建設では当たり前のことだと認識するべき問題。仮に転売する際の値付け(流通価格)では、個別設計して費用が アップした分は評価されにくいのが普通(車にオプションを付けても中古時の評価アップはわずかであるのと同じ)。しかし、標準設計程度または同等以上には 評価されるため、不利と言うほどのことではない。コーディネーターが最初の段階で、『自由設計した建築費のアップ分は中古段階では評価されにくい』ことを 伝えて事業を進めれば、不満はほとんど聞かれない」

―コーディネーターの役割については?

「コーポラティブには、ユーザー主導型とコーディネーター主導型がある。実績の9割以上は後者。前者のユーザーが主導し、コーディネーターが調整役にとどまる例は希であるとともに、ユーザー同士の合意形成も大変になる」

「コーディネーター主導型は、簡易型コーポラティブとも呼ばれ、手軽にコーポラティブ住宅の自由設計メリットを享受したい人々に歓迎される。この場合の コーディネーターは、事業を円滑に遂行するための全責任を担う『指揮者』。その能力が高ければ、自然に居住者満足度も高まり、建物のでき上がりもよくな る」

―コーポラティブ住宅の可能性についてはどうか。

「今後は、マンションの自主建て替えや密集地の共同建て替えなど、コーポラティブ住宅のノウハウが必要になる場面が多くなる。このため、広い意味でコーポ ラティブ住宅への期待は高まる。それだけに、十分な経験とノウハウを身に付けたコーディネーターに対する期待は大きい」

2014年1月6日月曜日

あけましておめでとうございます。

あけましておめでとうございます。
本年も、どうぞよろしくお願いします。

2011年の年初に、業界紙の「住宅新報」でコーポラティブハウスに関する特集記事が組まれました。この記事中で、キューブの考え方を分り易くまとめて頂いているので、改めてご紹介致します。


論点 コーポラティブを考える

コーディネーター その役割は・・・   円滑な事業のために

コーポラティブハウスを実際に実現するには様々なやり方・方法があるが、入居者となる参加者の考えを集約しながら、集合住宅づくり事業としてい かに円滑に進め、個々の希望を実現していけるかは、全体を取りまとめて調整するコーディネーターの手腕いかんにかかっている。コーディネーターはコーポラ ティブ事業に具体的にどうかかわるべきなのか。関西でのコーポラティブ住宅の第一人者として評価の高いキューブ(神戸市)社長の天宅毅氏が語った。

”ティーチャーにあらず”

■”矛先”になる

「キューブでは、最もスムーズに事業を進められると考えられる案をコーディネーターとしてまず提示する。それに基づいて『参加者の意見を反映して進める』 というやり方をとっている。そうすることで、全参加者がゼロから勉強してスキームを構築していくのではなく、コーディネーターの経験を踏み台にして積み上 げていく方法を取ることができる。(従来コーポラティブでは当然と考えられてきた)直接的な討議は一切行わないで参加者から提案があるときはすべてコー ディネーターにぶつける。」

「よい提案であれば、コーディネーターがそれを全参加者に改めて提案し、参加者の了解を踏まえたうえで事業に反映していく。他の参加者の不利益 や将来的なトラブルにつながると考えられるものについては、その旨をコーディネーターと提案者が納得するまで話し合い、納得に至った場合にその経緯を匿名 で全参加者に報告する」

「参加者全員が共有すべきは、どんな意見があり、どう説明されたかという事実であって、誰が意見を言ったかではない。こうすることで『(意見の 提案者が)細かい人』と思われる心配もなく何回でも質問することができ、内容がコーディネーターから参加者に告知されることで理解内容を全員で共有でき る」

「(コーディネーターが発信する)広報はすべてメールなどで行うため、時間配分に応じて読むことができるし、自らが提案した内容も正確に広報さ れているかチェックできる。必要であれば、提案内容を整理して参加者に多数決を仰ぐこともできる。参加者に求められる手間は、広報物に目を通すことだけ。 これだけで議論を十分積み上げていくことができる。コーディネーターは”ティーチャー"ではなく、あくまでもコーディネーター(調整役)。それに徹するこ とでこそ円滑な事業運営が可能となる」

■自由設計への考え

「設計図は平面図だけではなく、壁面の形状を表した展開図や仕様表、設備図といった具合に複数の図面で表現されるし、それらはすべてモノクロであるため、 専門家でなければ図面だけから正確に空間の具体的なイメージを持つことは不可能に近い。設計者のスケッチパースは演出意図が過剰に表現される傾向があり、 完成した際にイメージした演出と異なっていても、修整するには時間と費用がかかり、品質も低下する。そこで、設計内容が最終案に近づいてきた時点で各住戸 ごとにCGを作成し、イメージと合致しているか確認する」

「この時点でイメージと異なる場合は、設計変更を行うが、すでに工事がすんでしまった場合(の変更)と異なり、無駄なコストはかからず、品質低下にもつながらない。工事環境を整えることが(施工の)監理を向上させ、良質な品質の建物づくりにつながる」

「メンテナンス性に問題があると考えられるもの、評価が確定していない新商品や新工法は基本的に採用せず、建物(野維持管理)が安価に長持ちす ることを前提に考えることが重要。集合住宅の社会性(都市を形づくる1つのインフラとしての性質)を踏まえ、特に共用部に関しては、デザイン性よりもメン テナンス性を重視した設計を行う(社会インフラとしての耐久性の確保=丈夫で長持ちし環境にも優しい住宅づくり)」

コーディネーター選びは・・・
      ・・・責任と「覚悟」をもって

自由設計ができるコーポラティブ住宅でも、もちろんそれが際限なくできるわけではない。当然ながら、拠出できる予算などを考慮しながら計画すること が重要になってくる。ほうっておけば、知らぬ間に資金が膨らんだということも起こりえるからだ。だからこそコーディネーターの役割が重要になる。

コーディネーターは建築や空間設計のプロであるばかりか、事業が成功するために全体の収支・採算を見極めて計画を進行していく役割を担っているた め、ローン計画などの資金プランづくりや税制などにも通じているうえ、それらに詳しい専門家などとのネットワークをもっているケースが多い。その面でも 「プロ」として助言する立場にあるからだ。

つまり、そうした能力を備えているコーディネーターであるかどうかを見極めることが参加者には求められるわけだが、その見極めの手段としてまず考えられるのがコーディネーターのそれまでの実績を見ることだ。

それによって、どれだけのことを期待でき、どれだけ任せられるかといったコーディネーターの質・レベルをある程度つかめるし、どれだけ真摯に情報開示に応じるかによって、事業者としての社会的な姿勢と責任感もつかむことができる。

もちろん、コーディネーターがコーポラティブ事業に取り組むのは初めてというケースもある。その場合も含め、計画を進める際の姿勢から判断すること も大きな手がかりになりえる。橋から自分の意見を押し通そうとするコーディネーターや、参加者の意見を一から十まで取り入れることに終始するコーディネー ターは避けたほうが無難だ。

前者は、設計の専門家であることを自信に、自分の描いた”理想”をコーポラティブを借りて実現しようとするきらいがあるし、後者は逆に参加者が満足 すればそれだけで事業が円滑に運ぶと思っている「ひと任せ的」な傾向が見え隠れする。この場合、前者を、参加者不在の「自己満足型」、後者をすべてを押し つけるだけの「参加者依拠型」あるいは「放任型」と呼ぶ専門かもいる。

政治学者、竹井隆人氏は、「デザイナー(建築家・設計家)が始めるから、日本のコーポラティブではそうした問題が起こりがち」だとし たうえで、特に後者について「完全な責任放棄」だと言い切り、どちらにしても「結局、余計なモノを追加したりして価格が高くなってしまう」と指摘する。
こうしたことから、コーポラティブの第一歩は、コーディネーター選びからといっても過言ではないだろう。

しかし、熟練し信頼できるコーディネーターがあったとしても、任せきりにしてはいけない。自分にあった住まいをつくるということは、取りも直さず自 身の責任の範囲内でできることをしていく自立した行為であるからだ。その覚悟が必要なのは言うまでもない。それがあってこそ、資金計画でつまづくこともな いし、本当に納得できる住まいづくりができる。

事業参加に向けて・・・要諦は「長短所の見極め」

コーポラティブで「本当の満足」を得るために

コーポラティブには、メリットも多いが、やり方次第ではそれがデメリットへと転化してしまう可能性が多分にある。逆にいえば、デメリットをメリット に変えてしまえば、非常に有効な住宅取得・供給手段になり得る。それには、まずそれらを理解したうえで事業に参加することが重要になる。

自由設計で”納得”  資金フローも格段に透明化

―メリット―

■「自由設計」

コーポラティブ住宅の最大のメリットの1つとして上げられるのが、「自由設計ができる」という点だ。コーポラティブ参加者(入居者)は、自身が描く現在・将来のライフスタイルのあり方を想像、それにあわせて主に内部空間を形づくっていく。

現在普及しはじめてきた専用住戸自由設計対応の分譲マンションは着工後に販売しているため、躯体自体をいじったり、設備メーカーを変えるような設計 変更などに対応し切れないといった制限がつくが、コーポラティブでは住戸単位で対応が可能だ。着工前の設計段階の変更であれば、そうした問題は霧散する。

さらに、「工事中に変更を行うため、間違いが生じたり工事の品質低下につながるのでは」「請負契約後の変更でその分のコストが定価ベースでほぼまる まる純増となるのでは」といった懸念に対しても、①着工前に設計完了するため、間違いが生じないよう監理を徹底しさえすれば品質低下を防げるし、逆に品質 向上につながる②設計変更後の請負契約なので、変更コストは発注価格ベースでの差額だけ―など不具合はない。

■「納得の価格」

分譲マンションでは通常、現地以外の場所でモデルルームを開設するが、その経費は数千万にのぼる。実際に建つ建物とは関係ないばかりか、販売終了後は解体 撤去破棄されるので撤去コストもかかる。これにテレビCMなど大量の広告を打てばどうか。「あの手この手で売ろうとするあまり、販売経費がますますかさむ 傾向にある」という。

デベロッパーの利益が最低でも事業費の10%確保できなければ、その事業に対する与信が得られず、金融機関から融資を受けることができないという事 情もあり、利益の確保が事業成立の前提になる。土地代と再販価格は市場で決定するため、結局は利益と販売経費を確保したうえで、残りの額で事業を組み立て ていかざるを得ない。

これに対して、土地代、建築費、設計費など、建てるのに必要な費用の積み上げだけで事業を組み立てていくというのがコーポラティブハウスの基本的な事業化コストに対する考え方だ。

そこに居住しようという人が集まって、自分たちが居住するための家をつくる―そこには余分な販売宣伝費やデベロッパー利益などは発生しないし、入居者が主体となって工事や材料などすべてを発注するので資金フローが格段に透明化。このため価格形成にも納得できるようになる。

ただし、入居者は専門家ではない。契約行為や事業キャッシュフローの組み立てなど専門的知識を必要とする業務の実行には、それらの業務に通じた専門家の関与が不可欠になる。多くのコーポラティブの事業化例でコーディネーターが活躍するのは、このためだ。

■「コミュニティ形成」

マンションは引渡しが終わると区分所有者による管理組合が維持管理運営をしていかなければならないが、建物自体はメンテナンスフリーでは決してなく、10数年周期で修繕をしていかなければ良好な状況を維持し、長持ちさせることはできない。

しかし通常のマンションでは一般的に、当事者意識が希薄になりがちで、維持管理に最も重要であるべきコミュニティの不足が潜在的問題として以前から 指摘され続けている。さらに、大規模修繕など高額の費用出費に対する合意形成が極めて困難で、それは阪神大震災の被災マンション復旧の際に大きくクローズ アップされた。

コーポラティブの利点は、計画・建設段階から将来の入居者が事業参加者として、全員が当事者意識を持つとができるので、維持管理運営での合意形成を円滑に行えるようになる点にある。つまりコミュニティの事前形成だ。

自ら関与してつくりあげたマンションだけに、大事にしようという気持ちが働くし、愛着が強い分、部外者の侵入に対しての意識が働くため、ソフト面で のセキュリティー効果も大きい。警察庁の報告などでも「侵入者は人の目を最もこわがる」ことがわかっており、実際それが防犯にも大きな威力を発揮してい る。

「直接的な討議」は有効?

―デメリット―

■「合意形成の難しさ」

コーポラティブが持つメリットが、そのままデメリットになるケースがあるという場合も考えられる。その1つが「合意形成」。それまで見知らぬ者が多数集 まった場合などは、集会を重ねるうち、ときには収拾がつかなくなって計画そのものが流れたりすることもあるという。そうなれば、メリットの1つでもある良 好なコミュニティ形成以前の話になってしまう。

つまりメリットを生むはずの「直接的な討議」がデメリットを内包しているとみる関係者も少なくはない。

例えば、参加者間に対立が生じた場合、一方が妥協すると、意見が通った参加者は自分が正しかったと考える。次に対立が生じた場合、前回妥協した 参加者は今回こそは受け入れて欲しいと当然考えるが、前回意見が通った参加者は、「自分が正しかった」と考えているので、今回も自分の意見を採用すべきだ と主張する。論点のずれた意見にふり回され、議論が収束しなかったり、いったん結論が出ても、納得しない参加者の発言で振り出しに戻ってしまうこともあ る。これでは、「仲良くなる以上に、決定的な人間関係の溝をつくりかねない」という。

コミュニティ形成に「直接的討議」が必ずしも有効に働くわけではない。そのことを踏まえたうえで有効な手段も検討する必要がある。