2022年8月10日水曜日

コーポラティブ方式の今とこれからの視点

 NPOコーポラティブハウス全国推進協議会(略称:コープ協)がコーポラティブハウス50周年記念イベント「コーポラティブのこれまでとこれから」という連続シンポジウム(全6回)を開催しております。8月6日に開催された第6回シンポジウムでお話した「コーポラティブハウス いま、これから」の内容を紹介させていただきます。多数発表者がおり、10分程度と、かなり限られた時間の中での発表だったので、非常に駆け足の紹介になっておりますことを予めご了承ください。

 連続シンポジウム「コーポラティブのこれまでとこれから」

前回は、今までの私共の取り組み全般の概要をご紹介させていただきましたが、今回は個別の事業毎に、私共がどのように事業を構築しているか、その枠組みについてご紹介させていただきたいと思います。

 株式会社キューブが最初に取り組んだコーポラティブハウスは「スクウェア六甲」です。

スクウェア六甲は震災で被災した従前長屋4件の等価交換による共同化事業です。

竣工は1999年2月。立地は震災で大きな被害を受けたJR六甲道から徒歩5分。一つ西側のブロックからは震災復興の大規模な区画整理事業が行われています。

敷地面積は257㎡で近隣商業地域。鉄筋コンクリート造の地上8階建てで住宅11戸、店舗1戸からなる建物です。

 従前土地評価額は約200万円/坪で、募集価格は平均坪単価約165万円で、取得目安価格が約2600万円~4500万円の事業です。

事業の枠組みとしては従前長屋の共同建て替え事業です。

本事業では当該地に継続して居住を希望する地主は等価交換により相当の床を取得し、転出を希望する地主は土地売却費として約3000万円を取得しました。

次に取り組んだコーポラティブハウスは「塚口コーポラティブハウス」です。

「塚口コーポラティブハウス」は関西初のスケルトン定期借地権事業です。

定期借地権の等価交換により、地主は資金投下0で年間収益約1000万円を確保する事業となりました。

竣工は2000年6月。立地は阪急塚口駅から徒歩4分、敷地面積は約660㎡あります。

第一種中高層住居専用地区にあり、鉄筋コンクリート造地上6階建て、住宅11戸店舗1戸の建物です。

土地評価の1/2を超える権利金を設定することにより、立体買換えの特例により権利金を等価交換し、72坪の店舗床を無償取得、地代収入約22万円/月の収益性を生み出しました。

募集価格は平均坪単価約125万円(権利金含む)で、取得目安価格が約2600万円~3300万円で、地代は戸当たり約2万円/月となっています。

 このプロジェクトの特徴的な事業の枠組みは、弊社の顧問会計士と共同開発した定期借地の等価交換です。

本事業で地主は1階に約240㎡の診療所の床を無償で取得されました。

診療所は月額坪1万円程度で貸し出され、月額70万円以上の収入が見込まれます。

本事業では地代収入として月額20万円程度が得られるので、併せて投下資金0で年間1000万円を超える収益が確保できます。

入居者は管理会社に管理業務を委託しており、地代徴収等の業務は管理会社の業務となる為、地主は出納管理の必要もありません。

 「シェヌーア御影」は従前地権者4戸の共有地で、2戸の権利解消し、2戸と等価交換事業を行いました。1フロア1戸又は2戸の計画とし、独立性及び開放性を確保するようにプランニングしています。

竣工は2002年6月で阪急御影駅徒歩5分の立地。敷地面積は約326㎡です。

第二種中高層住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上8階建てで住宅10戸の計画となっています。

土地価格は坪単価約150万円で、取得目安価格は3500万円から7200万円、坪単価約170万円でした。

この事業では、先代が建てた老朽化賃貸マンションの、相続で発生した親族の共有関係を事業を通じて解消しています。

本事業で当該地に継続して居住を希望する地主は相当の床を取得し、転出を希望する地主は土地売却費として約4000万円を取得されました。

等価交換事業において、交換差金は売却資金の2割を超えない範囲で取得することができますが、譲渡所得として課税されます。また、床取得にあたっては追加資金を入れることも可能です。


「 デュプレックス宝塚千種」は極端な変形地における事業です。

4m接道の旗竿敷地で北側斜面に中庭型のメゾネット及びトリプレット住戸を並列して計画しました。

竣工は2002年3月。立地は阪急今津線小林駅徒歩1分で、約562㎡の敷地面積です。

第一種低層住居専用地域で、鉄筋コンクリート造地上2階地下1階建ての住宅6戸です。

土地価格は坪単価約40万円で、取得目安価格は約4000万円で坪単価約140万円でした。


 見ての通り、接道4mで北斜面の旗竿敷地で、駅に近く閑静な住宅地に位置しますが、非常に土地利用の難しい土地です。

ここに、各住戸に中庭を設けることにより、独立性と開放性の高い住宅を実現しました。

竣工写真を見ていただくと、住戸の独立性と開放性をご確認いただけると思います。

 「アンビエンテ北野」は北野町山本通都市景観形成地域内の事業です。

2項道路に約8mしか接道しない、約526㎡の東西に細長い変形敷地でした。

竣工は2004年5月で新神戸駅から徒歩5分に位置します。

第二種中高層住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上4階建てで住宅8戸事務所1戸の計画です。この事務所1戸は株式会社キューブが事務所として利用しています。

土地価格は坪単価約60万円で、募集価格は平均坪単価が約150万円で、取得目安価格が約2600万円から5100万円でした。

 この土地は神戸は北野町の異人館街の真っ只中に位置する、42条2項道路に8mしか接道しない極端に東西横長の変形地でした。

そこに、1フロア1戸から3戸を配置し、前面道路から来る許容容積160%をほぼ使い切る、土地のポテンシャルを100%引き出すプランニングを行いました。

 

このプロジェクトでの取り組みは業界紙でも紹介されました。

「帝塚山イクス」は関電不動産開発との共同事業です。

高級住宅地として知られる帝塚山中一丁目における事業でした。

竣工は2005年8月。阪堺電車姫松駅徒歩5分の612㎡の敷地です。

準住居地域の聖天山風致地区に、鉄筋コンクリート造地上5階建て住宅9戸の計画です。

土地価格坪単価110万円で、募集価格平均約185万円で取得目安価格は約4400万円から7800万円でした。

このプロジェクトも業界紙に紹介されました。

レスタジア南田辺は老朽化木賃住宅の建替え事業です。

事業を通じて複雑な権利関係を整理しました。

竣工は2006年11月。JR鶴ケ丘駅徒歩8分の立地の約614㎡の敷地です。

第二種住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上8階建てで住宅15戸を計画しました。

土地価格は坪単価約100万円で、募集価格は平均坪単価約150万円で取得目安価格は3200万円から4300万円でした。

長居公園を南に直接面する絶好の立地でありながら、従前は戦後まもなく建てられた老朽化木賃住宅でした。

敷地内には建物が7棟建っており、底地は先代所有で相続登記されないまま二次相続が発生しており、遺産分割協議に基づく分筆も未済で、建物の多くは地主親族法人所有となっているものの建物表示登記未済。一部地主親族が土地建物共に所有している部分があるものの、建物表示登記未済という非常に複雑な状況でした。

このように複雑な権利関係を事業によって整理しました。

本事業で借地権を有する地主法人と底地権者である地主は、それぞれ賃貸住戸と居住用住戸を取得し、転出を希望する地主は土地売却費を取得しました。

事業を通じて個々に分離処分することが困難だった複雑な権利関係を整理し、老朽化により収益を生むことが困難な状況に陥っていた賃貸住戸は収益を生む住戸に生まれ変わりました。

「宇多野コーポラティブハウス」は京都方式(木造テラスハウス×スケルトン定借)で事業化したプロジェクトです。

環境共生をコンセプトに、一団地申請で従前地盤面を保全し既存樹木を活用、持続可能性を持った現代版京町屋の創造を目指しました。

京福宇多野駅徒歩5分の立地の敷地面積約1409㎡。

第一種低層住居専用地域に木造一部鉄筋コンクリート造地上2から3階建て住宅を13戸計画しました。

権利金で賃貸住戸を建設し、地代とあわせて月額50万円程度の収益を生む事業を構築しました。募集価格は坪単価95万円で取得目安価格は約2300万円から2800万円でした。

約35mもの長さのアプローチを持つ旗竿敷地に隣接する御陵と緑を連坦し、緑豊かな自然を確保、既存樹木を出来る限り生かし、生態系と緑の保全を図りました。

周山街道沿いの緑地帯を活かし、沿道の喧騒を遮断し、緑に囲まれた環境を実現しました。

建物は一団地申請により分棟化し、各住戸はダブルウォール(壁二枚:柱二本)により独立性を確保しました。

「ル・パッサージュ北野」は狭小地での事業です。

近隣商業地域の約140㎡しかない敷地に鉄筋コンクリート造地上9階建ての住宅7戸という、都心の狭小地における計画です。1フロア1戸を基本とし、利便性と良好な住環境の両立を目指しました。

土地価格は坪単価約190万円で、募集価格は平均坪単価約163万円の事業でした。

「内淡路町ハウス」は老朽化した印刷会社ビルの等価交換による建て替え事業です。

天満橋徒歩8分の約4040㎡の商業地域の敷地に、鉄筋コンクリート造地上13階建て住宅24戸、事務所1戸を計画しました。

土地価格は坪単価175万円で募集価格は平均坪単価約150万円でした。
 

オーナー個人と会社が所有する印刷会社ビルが老朽化。印刷業の業態変化により、かつて印刷機の置かれていたスペースが遊休スペース化し、メンテナンスも先送りにされていました。

本事業では立体買換えの特例を用い、従前ビル所有者は資金投下をせずに印刷会社として必要なスペースを最新仕様の事務所・倉庫として確保、余剰スペースは賃貸住戸として収益を生むストックに変換、最上階にバリアフリーのオーナー住戸を取得しました。

「ペイサージュ宝塚寿楽荘」は高低差のある邸宅跡地の計画です。戦前に建築された従前邸宅の、地域の景観形成の一部ともなっている巨石の石積擁壁を生かし、環境共生を目指した庭園住宅として計画しました。

阪急宝塚南口駅から徒歩7分の約696㎡の敷地で、第一種低層住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上3階地下1階の住宅8戸を計画しました。

土地価格は坪単価約45万円で、募集価格は坪単価約161万円の事業でした。

以上ご紹介させていただいたのは、キューブで手掛けてきた事業の一部です。

すべての事業において、事業毎に創意工夫し、地主の意向、土地の状況、地形、規模、市場環境その他、あらゆることを踏まえ、その土地に最もふさわしい活用方法を実現する手法として、コーポラティブ方式を利用してきました。コーポラティブハウスは、その事業の仕組みから、前例のない全く新しい取り組みを進めるには非常に適した方式だと思います。現在も新規のプロジェクトに取り組んでおり、その可能性はまだまだ残されていると感じています。

今後とも、コーポラティブハウスから得られた知見を活かし、さらなる大きな可能性を見つけていきたいと考えています。






 

 






2022年7月1日金曜日

コーポラティブハウス いま、これから

 NPOコーポラティブハウス全国推進協議会(略称:コープ協)がコーポラティブハウス50周年記念イベント「コーポラティブのこれまでとこれから」という連続シンポジウム(全6回)を開催しております。6月28日に開催された第5回シンポジウムでお話した「コーポラティブハウス いま、これから」の内容を紹介させていただきます。10分程度と、かなり限られた時間の中での発表だったので、非常に駆け足の紹介になっておりますことを予めご了承ください。


 株式会社キューブは、阪神・淡路大震災からスタートしました。

阪神・淡路大震災を機に創設したキューブが最初に手掛けたのは、築23年で被災した階段室型5階建て総戸数50戸の公社分譲マンション。キューブが再建に向けたコンサルティングおよび設計監理を行い、事業協力者を公募して新築分譲マンション「ディセット渦が森」総戸数72戸に建て替えました。 

このプロジェクトでは、当初建替えに反対していた方々も全員参加して建替え事業を進めることができましたが、この事業を通じて分譲共同住宅における合意形成の困難さと、合意形成を得るための手法を学びました。

次に関わったのは、同じく阪神・淡路大震災で倒壊した5軒長屋。コーポラティブ方式を活用して10戸の共同住宅「スクウェア六甲」に再建しました。

従前長屋の地権者は60歳代~80歳代で、新規参加者は20歳代~50歳代。この事業を通じて幅広い層に自由設計ニーズがある事を確認し、コーポラティブ方式の持つ可能性を発見しました。

スクウェア六甲の事業を通じて発見したコーポラティブハウスの可能性拡大に向けて、今までに様々な切り口で事業展開を行ってきました。

その一つに、「スケルトン定借」があります。

旧建設省で開発され、首都圏でいくつもの実績を積みつつあった「スケルトン定借」の事業を関西でも広めようと、住宅金融公庫主催の事業提案コンペがありました。そのコンペに参加し、採択されたことで関西初のスケルトン定期借地権プロジェクト「塚口コーポラティブハウス」を手掛けることになりました。

このコンペでは、地主が事業者を採択するという事で、顧問会計士と共同で開発した、定期借地権の等価交換を採用し、1階診療所床を地主が無償取得できる提案を行いました。

このプロジェクトを通じて、スケルトン定借の事を深く理解することが出来、スケルトン定借が、震災で明らかになった集合住宅の宿命とも言える問題(=合意形成の難しさ)を解消する可能性を持っている事に気付かされました。


 もう一つが「等価交換」の活用です。

「等価交換」を活用して、規模や諸条件にとらわれず、様々な地主ニーズに応えることのできるコーポラティブハウスの可能性を、様々な事業で探ってきました。

まずは、老朽化した事務所ビルを等価交換で建替えた「内淡路町ハウス」

そして複雑な権利関係の木賃アパート群を権利変換により整理した「レスタジオ南田辺」

4人兄弟共有の老朽賃貸マンションを等価交換で整理した「シェヌーア御影」

戦前建築の親族共有の邸宅を、立派な巨石の既存擁壁を活かしつつ等価交換で共同化した「ペイサージュ宝塚寿楽荘」等々

などを事業化しました。


また、「狭小地・変形地」にも積極的に関わってきました。

規模や諸条件にとらわれず、狭小地・変形地にも積極的に関わることで、様々な地主ニーズに応えることのできるコーポラティブハウスの可能性を探ってきました。

まず、北斜面の典型的な旗竿敷地に計画したRC造テラスハウス「デュプレックス宝塚千種」

42条2項道路に約8m接道、奥行き約50mの変形地に計画した「アンビエンテ北野」 

容積率400%で42坪の土地に計画した「ル・パッサージュ北野」

「ル・パッサージュ北野」とハンター坂を挟んで対に建つ「リブレ北野」

などを事業化してきました。


 そして、「ディベロッパーとの共同事業」にも取り組みました。

「帝塚山イクス」では、関西電力の子会社である関電不動産開発が土地を先行取得、コーポラティブ方式で事業化しました。

さらに様々なアイデアを組み合わせたプロジェクト、「スケルトン定借×一団地テラスハウス」を事業化しました。

新たに始まった住宅性能評価制度が、構造種別によらず、同等の性能を確保するための客観的指標を示すものである事から、木造集合住宅の可能性を発見しました。

また、定期借地の原契約に維持管理ルールを導入することで、京都市が原則民間事業では認めていなかった一団地の認定を受けることに成功し、事業化しました。

 このプロジェクト「宇多野コーポラティブハウス」は長期優良住宅先導的モデル事業に採択され、グッドデザイン賞も受賞しました。

コーポラティブハウスの事業で得られた知見を、一般分譲事業へも展開しています。

まずは、「一般分譲事業×一団地テラスハウス」です。

宇多野コーポラティブハウスを見たディベロッパー(ゼロコーポレーション)から声をかけられ、美観地区の嵯峨二尊院門前院町で「華り宮嵯峨二尊院」を事業化しました。

この分譲一団地テラスハウスは、顧問弁護士と共同で開発した、区分所有法を活用する事で建物の維持管理ルールを法的に担保する手法を取り入れています。

この事業を通じて、京都で建売住宅を購入する従来の地元中心の顧客層とは異なる、全国規模の顧客層を開拓することができました。


 そして「テラスハウスの再評価」を行っています。

建物を区分所有、土地を共有とすることで区分所有法の対象物とし、従来のテラスハウスで課題となっていた問題を解消することが出来ることを発見しました。

また、管理規約の法的位置付けを明確化し、中古流動性を向上させることで、様々な民間ディベロッパーが関心を示し、共同事業を行いました。

神東地所と事業化した「ラテラッセ須磨大手町」ではグッドデザイン賞を受賞しました。

ダイワハウスと「ディーテラス雲雀ケ丘」を事業化しました。

ゼロコーポレーションとは「華り宮嵯峨二尊院」に引き続き、「ルーシアコート宝塚清荒神駅前東館/西館」を事業化しました。東館では宝塚市では初となる民間事業での一団地認定を取っています。

近藤建設工業とは「メロディーハイム守口suite」を事業化しました。


 京阪電鉄不動産と取り組んだ「神戸ハウス北野」では人間サイズのまちづくり賞奨励賞を受賞しました。

地域の歴史的風致が不可逆的に失われるとマンション建設反対の住民運動がおこっていた北野町で、「華り宮嵯峨二尊院」のような計画であれば受け入れ可能という地域住民の声を受け、神戸市の協力の元、分譲一団地テラスハウスとして事業化しました。

このプロジェクトにおいて企画・設計監理・販売に関わることで、様々な潜在的ニーズを発見することができました。


 最新では「神戸北野コーポラティブハウス」に取り組んでいます。

当プロジェクトでは、当初約100㎡程度の住戸11戸、約1億円前後の取得目安価格で参加者募集をスタートさせたのですが、結局約160㎡~約340㎡、1.5億~3億円程度の住戸になり、弊社で取り組むコーポラティブハウスとしては初めて、全戸1億円超えの住戸で構成されるコーポラティブハウスとなりました。この事業を通じて、このような高額価格帯においても、コーポラティブハウスニーズが間違いなく存在することを確信することができました。

日本の住宅産業は閉塞感に覆われて久しいと言われています。

その背景には、空き家問題、人口減少、多様化、建築費高騰など様々な問題があります。

そんな時代であるからこそ、潜在的な社会ニーズに沿って調整し、具体的な事業として顕在化させる柔軟性を持つ事業「コーポラティブハウス」の可能性があると感じています。

そして、その可能性は、日本の住宅産業において、「破壊的イノベーション」を生み出す可能性があると感じています。私共は破壊的イノベーションを生み出すべく、今後もコーポラティブハウスに取り組んでいきたいと考えています。


 




 


2022年3月20日日曜日

定期借地権で実現できる豊かな住生活

 先日開催された、定期借地推進協議会、「二地域居住×定期借地」をテーマとしたシンポジウムで講演した内容を紹介します。

【オンライン開催】不動産・地域活性化シンポジウム2022「二地域居住×定期借地権」~豊かな住生活の実現を進めるために~ - お知らせ - 定期借地権推進協議会 (teikishakuchi.com)

 本日は、定期借地権で実現できる豊かな住生活というテーマでお話させていただきたいと思います。

 本日のテーマであります二地域居住を実現するためには、都心部及び郊外、双方の魅力を、より上げていく必要があるのではないかと考えておりまして、それには定期借地権が有効なのではないかと考えております。

 近年でも、私共は定期借地を活用した事業を行っておりまして、その実例を通して、そこから派生して色々な事がわかってきました。それらの事をご紹介させて頂いたり、現在考えている事をご紹介させて頂いたりさせていただければと考えております。どうぞよろしくお願い致します。

定期借地権の可能性を様々に考えているのですが、その中で、今回は3つのテーマに基づいてお話させていただきたいと考えております。

一つは京都の事例です。一団地申請を活用して魅力ある街並みを構築したいと考えていたのですが、その一団地認定を得るために、環境を将来的に担保する方法として定期借地権を活用できるのではないかと考え、京都市と協議して、京都市では今まで前例の無かった民間事業の一団地認定での事業を実現したのが、宇多野コーポラティブハウスというプロジェクトです。このプロジェクトを通して、定期借地権の可能性に気付かされると共に、区分所有法の活用がさらに拡大できるのではないか、テラスハウスは今まで考えられていた以上の可能性を持っているのではないかと思い至ることができました。

二つ目は、具体の事業を通じて、景観コントロールそのものが物件の魅力向上につながるのではないかということで、具体的に京都及び神戸で実現した事業のご紹介をさせていただきます。このような方法を用いることによって中心市街地及び郊外共に魅力を向上させていく可能性があるのではないかと考えてます。

さらに三つ目は、これらの事業を踏まえて、公有地の有効活用につなげていけるのではないかと考えております。鳥取、神戸での取り組みを通じて、どのように定期借地権を活用すれば本来の地域の魅力を再生していくことができるのか等をご紹介させていただきます。

それでは、まずはじめに京都で手掛けた宇多野コーポラティブハウスの話をさせていただきます。

この物件は、京都市右京区にある仁和寺のすぐ近く、近傍には龍安寺や仁和寺等の古拙が点在している地域にあります。航空写真の赤線で示したところが敷地ですが、敷地の北側に隣接して天皇陵があり、地域は緑に恵まれた環境にあると言えます。ただ、この敷地形状を見てわかるように典型的な旗竿敷地で、接道は右側に伸びている竿の部分が東側道路に接面しているだけで、西南の国道162号線(通称:周山街道)は比較的広幅員の道路ですが、そちらとの間には5m程度の高低差があり、道路敷の法面部分が国有地で木々が生えており、敷地自体は直接周山街道には接面していませんでした。

地主からこの土地の有効活用について相談を受けましたが、この土地は400坪以上ある比較的大きな土地ですが、元々一軒家が建っており周りは庭でした。先代が亡くなられてから貸し出されたりしたこともあったんですが、その後長年そのまま放置されており、所有者の方が仕事の関係で遠方に居住されているということもあり、この土地はジャングル状態で長年放置、手つかずの状態になっており、固定資産税だけ払っている状態でした。

ただ、地主自身が近々定年を迎える状況で、子供たちに負の財産という形で残すのではなく、何か利益を生み出す資産として継承したいということで相談を受けました。当初は売却も考えましたが、この土地形状が示す通り土地利用の難しい土地なので値段がつかず、活用の方向に舵を切られたというふうに聞いております。

これが敷地図ですが、道路には東側に伸びている先の部分で接面しており、竿部分が総長36m程度あって幅員が4mを切っているということもあり、通常で考えれば一軒家しか建てることが出来ない、敷地規模を持て余す土地でした。周山街道に面しては紫の線で描いてあるところが国有地の法面で、道路敷ではあるけれど道路ではないので道路接面が認められない土地でした。

これが周山街道側からの写真ですが、市バスよりも高い所に土地があります。国が所有する道路敷の法面に非常に大きな高木が生えているのが確認できます。

これが東側の道路接面部分ですが、前の道路を歩いていても敷地がどこにあるのか気付かない、ややもすると通り過ぎてしまうような状態で、上の写真に赤い矢印で示している所だけが接道しており、そこから敷地方向を見たのが下の写真。奥の方のこんもりとした森のような所が計画地となります。

四重苦に苛まれた土地で、一つ目の厳しい条件としては旗竿敷地で接道条件が非常に厳しく、竿部分が長さ36mの幅員3.6mということで、現状のままでは従前住宅と同用途、同規模の建物しか建てられない、すなわち一軒家しか建てられない土地でした。

二つ目の厳しい条件として、敷地内に2m程度の高低差がありました。この土地の地盤面を加工する為には開発許認可が必要で、開発許認可に必要な接道要件を満たしていないので土地現況を生かした計画が求められました。

三つ目にこの地域は風致地区と景観条例の対象に指定されていて、非常に厳しい高さ制限があるとともに、風致地区の規制で隣り合う外壁の角度は直角でなければならない、斜めに壁をつなげてはいけないという規制がありました。

四つ目に、周山街道との高低差が大きいので、崖条例により崖の高さの2倍の水平距離まで建物を後退させる必要がありました。

事業化するにはこれらをクリアしていかなければならないということで、周山街道に対して敷地内で高さが下がっていく部分があったので、オレンジの部分まで通路を下げていけば、あと一息で周山街道に出ることができるということで、その部分の幅員が2m以上あれば周山街道を接道として認めるという判断を京都市にくだしてもらうことができました。

この事により、サブ動線として敷地を通り抜けることができる状況を確保することができました。

京都市としてはほとんど認めてこなかった一団地認定を認めてもらうにあたって、今回定期借地で事業をするということで、定期借地の原契約の中に、その後の増改築に関するルールを盛り込めば継続的に良好な土地活用が行われ、周辺環境との共生ができるということで、京都市に一団地認定を認めていただくことができました。一団地により建物を分棟化することにより敷地内の高低差を処理するように考えました。

このように分棟化することで、結果として建物が一つ一つが直角で構成された建物でありながら、斜めに配置するなどして、変形敷地にもかかわらず、敷地全体を利用して有効に活用する事ができました。建築確認上は4棟の建物を配置する形になっています。

崖地に関しては、基礎を安息角まで根入れすることで崖に近い所まで敷地全体を活用する事ができるようにしました。具体的な手法としてはRC造の地下階を設置するなどして、安息角まで根入れする計画をしています。

このような条件を踏まえて計画したのが、こちらの絵のような配置です。真ん中の広場を囲むような形で4棟を配置し、北側の1棟は地主保有の賃貸住棟としました。

本プロジェクトは分譲事業として一般の方々に販売しているわけですから、このような技術的工夫を購入を検討する方々に説明してもあまり意味の無い事で、実際どのような環境で住むことができるのかという事の方が重要です。

そういう視点から、もう一度この計画の魅力を見直して、それをアピールすることにしました。この丸印が対応している者なんですが、

①北側に隣接する御陵と緑を連坦し、緑豊かな自然を確保しました。

②敷地内の高低差の生じている法面部分に主に大木が生えており、既存樹木を生かそうということで、それをそのまま法面の所に残し、それを避けるように住棟を配置しています。このように、生態系と緑の保全が図れるように計画しました。

③真ん中の広場を囲むように屋内駐車場を5台、屋外駐車場を2台確保し、

④旗竿の竿にあたるアプローチ形状がもたらす心理的バリアにより、街区の持つセキュリティを確保しつつ、地域にやさしく開かれた配置計画を行っていると説明しました。ここに用事のある人は特に問題なくこの通路を歩いて行けるわけですが、関係のない人が入っていこうとすると、中に入ったとたんに全住棟から見張られるような広場に出てしまうという事で、非常にセキュリティ効果が高いと考えております。

⑤大きな空地を囲むように配置することで各棟の独立性を確保しています。このように配置すれば近接距離で窓が見合うような事を避けることができます。

⑥各分譲住戸に緑豊かな専用庭を配置しました。全ての住戸が真ん中の広場とは反対側に専用庭があるわけですが、左側の南面が国所有地ののり面で、そこに生える大きな大木等をのぞむ形となり、各住戸に緑豊かな専用庭が配置できるような計画になりました。

⑦周山街道沿いの緑地帯を活かし、沿道の喧騒を遮断し、緑に囲まれた環境を実現しました。実際に住戸に入ると、どの窓からも緑の梢が見えるという、京都の都心部では考えられないような自然環境に恵まれた計画ができました。

⑧地域の街並みに溶け込む低層設置型で、既存地盤の高低に沿って分棟化して配置した計画を行いました。

この事業を事業的な視点から見ますと、敷地面積約1400㎡の所に賃貸住戸6戸を2500万円の資金投下で取得した形になります。

2500万円の資金投下で月額30万円以上の収入を得、月額の地代収入と合わせて年間500万円程度の収益を生むような事業にすることができました。

投資利回りとしては年間20%の利回りが確保でき、相続税対策としても有効な事業にすることが出来たのではないかと考えております。

これが生まれ変わった建物の入り口のアプローチ部分で、ここを入っていくにはかなり勇気がいります。見に行かれた方も、ここに入っていくのはなかなか勇気が必要だと皆さんおっしゃってます。そういう意味では実質的なセキュリティ効果はかなり高いものが得られたのではないかなと考えております。

これが中庭から見た写真です。

真ん中の広場を囲む部分に大木があるので、視線を遮る効果として生きております。

夜になればこんな感じ。

京都の宇多野という風光明媚な場所に位置しているので四季折々の変化を感じることができます。右上の写真は冬に積雪した時の情景、右下は春の情景ですが、実は真ん中の大木は桜の大木です。御室仁和寺は御室桜の有名な土地ですので、通常京都の桜のシーズンよりは半月ばかり桜の開花時期が遅れるわけですが、それらを全ての住戸から愛でることができる環境となっております。左側の写真が地下室を作った住棟の所で、法面を利用して周山街道に至る遊歩道の写真です。

このような事業でしたけれども、国土交通省長期優良住宅先導的モデル事業というのが当時募集されていまして、それに応募することで採択していただくことができまして、補助金も得て非常に良い事業になったのではないかと考えています。

ちなみにこの事業は同年のグッドデザイン賞も受賞しました。 

宇多野コーポラティブハウスを見学に来た京都のディベロッパーの社長には非常に気に入って頂きました。環境共生が一般に評価されるかどうかわからないので、コーポラティブハウスという先行募集型の事業でプロジェクトを手掛けたんですけれど、実際蓋を開けてみると、募集時期がリーマンショック直後で、どこも不動産屋が閑古鳥と言うときに、大勢の方々に関心を持っていただき、実際参加していただいた方々も京都大学や立命館大学の教授や准教授など学識経験者も多く非常にアカデミックな住民層になったわけですが、そういった潜在ニーズがあるという事をわかって、京都のディベロッパーが新たに取得した土地で同様の事業を構築することになりました。

それで手掛けることになったのが、京都の華り宮嵯峨二尊院で、こちらも宇多野と同じく風光明媚な場所にあります。

こちらは第一種低層住居専用地域、歴史的風土保存区域で第一種風致地区ということで、非常に多くの制約のある立地でした。

まわりは、このような古拙に囲まれた立地になります。

 

風致地区だという事もあって、許容建蔽率が20%、許容容積率が50%と非常に条件の厳しい立地で、この写真の突き当りの緑の所が計画地になります。

これも開発不適地だったので道路を通して宅地開発することが非常に難しく、宇多野と同じような計画をしてくれないかという相談でしたが、ただこれは宇多野の様に定期借地ではなく所有権分譲でやってほしいとのオーダーでした。

宇多野は一団地認定をクリアする方法が定期借地の活用だったのが、違う形でクリアする必要があります。様々に検討した結果出てきたのが区分所有法で団地管理させるという方法でした。団地管理することで一団地認定をクリアすることができるのではないかと思い至り、事業を進めました。

計画したのが総12戸で、6棟の2戸1住宅が点在するような計画となっております。

これが出来上がった物件ですが、道路面からゲイテッド化することで開放的な住棟を分散配置しました。

広い敷地の中に、緑豊かな環境の中、住棟は分散配置されています。


 セキュリティーラインが外周にあるということもあり、非常に開放的な住戸となりました。

京都の街中で京都らしい風情のある住環境を得ようとしてもなかなか得ることができません。このやり方は、京都らしい風情のある住環境を得るための一つの方法を提示することができたのではないかと考えています。

この事業を進めていた時に、神戸は北野の異人館街の中でも同じような話がありました。当初マンション計画があがっていたのですが、地域で反対運動がおこっているということで、そのマンション計画自体は頓挫したのですけれどもその跡地をなんとかしてほしいという話になりました。

この赤線で囲んだところが敷地で、これもかなり変形土地ですけれども、先程と同様、総12戸で2戸1住宅6棟からなるテラスハウスを分散配置し、異人館街の街並みに合う街並みを作ればそれ自体が新たなる価値を生み出すのではないかという事で事業を進めました。

これが竣工写真ですが、ゲイテッド化することでセキュリティが確保でき、分散配置する間に緑を入れることによって地域の街並みと共生していく事ができると考えています。


 全体像はこんな感じ。


 自らの建物自体が、自らの景観の中に入り込んでくるというプロジェクトです。


 これらのプロジェクトを通じて、景観が価値を生み出す、景観そのものが分譲するときの価値としてみなされるということに気付きました。


 様々な事例を調べている中で、イギリスのレッチワース(ハワードの田園都市構想の最初の事例として有名な街です)が、100年以上経っても当初の街並みが維持されている事に着目しました。

日本のニュータウンの原型と言われていますけれども、あまりにも違うのは何でだろうと色々と調べていくと、レッチワースは第一田園都市会社の借地という形で当初から計画されていたことがわかりました。このことが一つのキーになっているのではないかと感じております。

もう一つ、日本でも祇園町南部地域が景観が維持されている事例として見つけることができました。こちらは都市計画地図なんですけれども、真ん中に横(東西)に走っているのが四条通りです。四条通りの北側も南側も四条通沿道は容積率600%ですが、そこから外れた所は容積率400%ということで商業地域が広く広がっています。

ところが、こちらの写真を見ていただくと、左側が四条通の北側、右側が四条通りの南側の航空写真ですが、この航空写真からも明らかなように全然雰囲気が違います。

街に入ると、こちらは同じ花見小路の四条通りの北側と南側の写真なんですが、北側はよくある繁華街のどこにでもある街、南側はいかにも京都らしい祇園の風情のある街になっています。

路地に入っていっても同じような違いがあります。何が違うかというと南側は八坂女紅場学園という学校法人の借地になっていることが違いとして挙げられます。

 


このあたりは平成14年に地区計画決定されましたが、はるか以前からこの街並みの違いはありました。平成14年の地区計画決定というのはこの街並みを保全するというよりも、むしろ残されている一部二項道路で建替えする時に中心後退することにより街並みが崩れないように緩和する方向で定められた地区計画だったと聞いております。

魅力的な居住環境を創出すれば、これらのように景観が価値を生み出すことも考えられます。

持続的に景観をコントロールする手法としては二つの方法が考えられます。

一つは借地権の活用、定期借地権でも良いのですが、借地権原契約に景観をコントロールするルールを盛り込むことによって景観をコントロールできるのではないかと思います。この場合建物に制限はありません。

もう一つに区分所有法を活用すれば団地管理規約に景観をコントロールするルールを盛り込むことが出来ます。ただしこの場合、コントロールできる対象は区分所有建物に限定されます。

以上のように、景観が価値を生み出す為には、持続可能な私権制限が必要なのではないかと考えております。

これらの知見を何らかの形で活用できないかなと考えていた所、鳥取市が中心市街地の再活性化に向けて市有地を活用して街中に人口を取り戻すプロジェクトを実行するという事で呼ばれました。

 鳥取市は、街中がどんどん駐車場化して人口減少に歯止めがかからず、郊外に大型店舗が出店したら、その周辺に住宅地が開発されて、そこから車で都心に出来た駐車場を利用して通勤するという生活スタイルが進んでいました。

このままでは、歩いて暮らせる街が失われてしまいます。高齢社会が進展していくと車が運転できなくなると暮らしていけない街になってしまうのではないかと、鳥取市は非常に危機感を募らせています。


 そこで、鳥取市が所有していた市有地を定期借地で住宅分譲するモデル事業を行い、中心市街地の土地を所有している地主たちが同じように街中に人口を取り戻すような事業を行い街の活性化を進めていく呼び水となる働きかけをすることになりました。このモデル事業で事業化した住宅は戸建てですが、定期借地の原契約の中にルールを盛り込むことにより一団地認定を使い、コモンスペースを囲む配置で住む魅力を向上させる工夫をしています。

もう一つは、神戸市が市営住宅を集約化していく中で跡地活用を色々と模索している中で、神戸市からの調査業務の中で私共が提案しているものを紹介させていただきます。写真を見て頂いたらわかるように、神戸市のニュータウンもよくあるニュータウンでびっちりと家が建ち並んでいて、ニュータウン内に入ると非常に緑が少なく、せっかく郊外に来たのに、郊外の最大の魅力である緑を感じることが出来ません。

整備方針の方向性を考えるにあたり、ニュータウン集約化後の跡地活用の方向性を神戸市も全市的に模索している状況の中で、ニュータウンが構造的に抱える問題の解決に繋がる方針の立案が望まれています。

私共が分析したニュータウンの抱える課題をピックアップすると、高齢化や空き家・空き地、商業施設の撤退、人口減少、一代限りの街、交通不便、地域の明るい将来像が見えないということで、恒常的なニュータウン衰退傾向の予感があり、これによって人口流出が止まらないという状況になっていると思います。神戸市は日本の地方自治体で最も人口減少数の多い行政の一つであると言われています。

これをなんとかするには、職住分離型、人口増加時代、専業主婦時代につくられた街の姿からの転換が必要であるり、そのためには「住んで・働いて・憩う」地域生活の域内完結力の向上が必要ではないかと考えています。

このようにまとめて思い返すと、「住んで・働いて・憩う」地域生活というのは、実はレッチワースの計画には当初から入っていたものなんですね。ニュータウンというのはハワードの田園都市構想を渋沢栄一が日本に持ち帰ってきて展開したと言われていますが、実は日本のニュータウンは純粋な住宅地に特化しすぎていて、元々持っていた「住んで・働いて・憩う」という都市が本来潜在的に持っている都市の本質が、どこかで抜け落ちてしまったのではないかと感じております。

神戸市はかなり特徴的な行政で、神戸市内だけでも50団地・50万人、神戸市民150万人の内1/3にあたる人口がニュータウンに居住しておりますが、西区や北区に、オールドニュータウン問題を抱える地域は集中しており、昭和40年代頃を境にこの地域の状況はがらっとかわっています。

元々この地域というのは既存集落があって、多くの農業従事者が農業をされていました。

それを昭和40年代以後、ニュータウンがこの地域に作られ、産業団地も数多く作られました。しかし、これらすべてが従前の地域資源と背中合わせの併存になっていて、ここをつなぐ方法が、この地域の再活性化につながるのではないかと感じております。

そのような方法を今後見つけていかなければならないと考える中で、一つの方向性として我々が提案したのが、大都市近郊の自然に囲まれた生活、郊外暮らしを享受できる街と位置付けてはどうかという提案です。

一つの市営住宅集約化後に生まれる余剰地活用案として、低投資型開発による新自然型戸建て住宅を提案しております。

鉄筋コンクリート造の住棟が立ち並んでいると言っても元々丘陵地を開発しているので非常に法面が多いのが特徴で、今までは宅地開発をするディベロッパーに売却して、宅地造成して戸建て住宅として分譲されることが多かったのですが、そのような事業をするには造成コストがかかりすぎて事業性が見いだされない状況が生まれています。

そんな事業をするのではなく、元々の地形をそのまま生かした形で、低密度で農業なんかもできるようなファームタウン構想で地域の魅力を蘇らせていく事が出来るのではないかと考えています。

実際、神戸のニュータウンは三ノ宮から車で30分圏内の所がほとんどです。非常に街に近いのです。そんな所に、親自然的な居住地を生み出すことが出来れば、これらの街の魅力が蘇ってくるのではないかと考えています。

とにかくお金をかけて、開発敷地の隅から隅までを使ってびっしり小さく区画割をしてコンクリート擁壁だらけの街にするのではなく、既に育っている緑はそのまま残し、低密度にすることの方が結果的に商品としても価値が出てくるのではないでしょうか。

公有地を売却する際には鑑定価格を元にした価格になりますが、定期借地を活用すれば それにも縛られない事業計画ができるのではないかなと考えています。

そして50年以上の期間を設けて定期借地をすれば50年後の返還時期にはその時の社会状況に応じて、次の時代の地域活性化の種地としてこの土地を行政が再利用できるような流れに繋がれば良いのではないかという提案をしています。

このように、大きく三つの可能性が、定期借地の可能性を広げることに繋がるのではないかと感じております。そして、その事によって都心部、郊外共に魅力をアップすれば、実際に具体的に二地域居住を進めることに繋がるのではないかと考えております。

以上です。長時間にわたる視聴ありがとうございました。