2022年8月10日水曜日

コーポラティブ方式の今とこれからの視点

 NPOコーポラティブハウス全国推進協議会(略称:コープ協)がコーポラティブハウス50周年記念イベント「コーポラティブのこれまでとこれから」という連続シンポジウム(全6回)を開催しております。8月6日に開催された第6回シンポジウムでお話した「コーポラティブハウス いま、これから」の内容を紹介させていただきます。多数発表者がおり、10分程度と、かなり限られた時間の中での発表だったので、非常に駆け足の紹介になっておりますことを予めご了承ください。

 連続シンポジウム「コーポラティブのこれまでとこれから」

前回は、今までの私共の取り組み全般の概要をご紹介させていただきましたが、今回は個別の事業毎に、私共がどのように事業を構築しているか、その枠組みについてご紹介させていただきたいと思います。

 株式会社キューブが最初に取り組んだコーポラティブハウスは「スクウェア六甲」です。

スクウェア六甲は震災で被災した従前長屋4件の等価交換による共同化事業です。

竣工は1999年2月。立地は震災で大きな被害を受けたJR六甲道から徒歩5分。一つ西側のブロックからは震災復興の大規模な区画整理事業が行われています。

敷地面積は257㎡で近隣商業地域。鉄筋コンクリート造の地上8階建てで住宅11戸、店舗1戸からなる建物です。

 従前土地評価額は約200万円/坪で、募集価格は平均坪単価約165万円で、取得目安価格が約2600万円~4500万円の事業です。

事業の枠組みとしては従前長屋の共同建て替え事業です。

本事業では当該地に継続して居住を希望する地主は等価交換により相当の床を取得し、転出を希望する地主は土地売却費として約3000万円を取得しました。

次に取り組んだコーポラティブハウスは「塚口コーポラティブハウス」です。

「塚口コーポラティブハウス」は関西初のスケルトン定期借地権事業です。

定期借地権の等価交換により、地主は資金投下0で年間収益約1000万円を確保する事業となりました。

竣工は2000年6月。立地は阪急塚口駅から徒歩4分、敷地面積は約660㎡あります。

第一種中高層住居専用地区にあり、鉄筋コンクリート造地上6階建て、住宅11戸店舗1戸の建物です。

土地評価の1/2を超える権利金を設定することにより、立体買換えの特例により権利金を等価交換し、72坪の店舗床を無償取得、地代収入約22万円/月の収益性を生み出しました。

募集価格は平均坪単価約125万円(権利金含む)で、取得目安価格が約2600万円~3300万円で、地代は戸当たり約2万円/月となっています。

 このプロジェクトの特徴的な事業の枠組みは、弊社の顧問会計士と共同開発した定期借地の等価交換です。

本事業で地主は1階に約240㎡の診療所の床を無償で取得されました。

診療所は月額坪1万円程度で貸し出され、月額70万円以上の収入が見込まれます。

本事業では地代収入として月額20万円程度が得られるので、併せて投下資金0で年間1000万円を超える収益が確保できます。

入居者は管理会社に管理業務を委託しており、地代徴収等の業務は管理会社の業務となる為、地主は出納管理の必要もありません。

 「シェヌーア御影」は従前地権者4戸の共有地で、2戸の権利解消し、2戸と等価交換事業を行いました。1フロア1戸又は2戸の計画とし、独立性及び開放性を確保するようにプランニングしています。

竣工は2002年6月で阪急御影駅徒歩5分の立地。敷地面積は約326㎡です。

第二種中高層住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上8階建てで住宅10戸の計画となっています。

土地価格は坪単価約150万円で、取得目安価格は3500万円から7200万円、坪単価約170万円でした。

この事業では、先代が建てた老朽化賃貸マンションの、相続で発生した親族の共有関係を事業を通じて解消しています。

本事業で当該地に継続して居住を希望する地主は相当の床を取得し、転出を希望する地主は土地売却費として約4000万円を取得されました。

等価交換事業において、交換差金は売却資金の2割を超えない範囲で取得することができますが、譲渡所得として課税されます。また、床取得にあたっては追加資金を入れることも可能です。


「 デュプレックス宝塚千種」は極端な変形地における事業です。

4m接道の旗竿敷地で北側斜面に中庭型のメゾネット及びトリプレット住戸を並列して計画しました。

竣工は2002年3月。立地は阪急今津線小林駅徒歩1分で、約562㎡の敷地面積です。

第一種低層住居専用地域で、鉄筋コンクリート造地上2階地下1階建ての住宅6戸です。

土地価格は坪単価約40万円で、取得目安価格は約4000万円で坪単価約140万円でした。


 見ての通り、接道4mで北斜面の旗竿敷地で、駅に近く閑静な住宅地に位置しますが、非常に土地利用の難しい土地です。

ここに、各住戸に中庭を設けることにより、独立性と開放性の高い住宅を実現しました。

竣工写真を見ていただくと、住戸の独立性と開放性をご確認いただけると思います。

 「アンビエンテ北野」は北野町山本通都市景観形成地域内の事業です。

2項道路に約8mしか接道しない、約526㎡の東西に細長い変形敷地でした。

竣工は2004年5月で新神戸駅から徒歩5分に位置します。

第二種中高層住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上4階建てで住宅8戸事務所1戸の計画です。この事務所1戸は株式会社キューブが事務所として利用しています。

土地価格は坪単価約60万円で、募集価格は平均坪単価が約150万円で、取得目安価格が約2600万円から5100万円でした。

 この土地は神戸は北野町の異人館街の真っ只中に位置する、42条2項道路に8mしか接道しない極端に東西横長の変形地でした。

そこに、1フロア1戸から3戸を配置し、前面道路から来る許容容積160%をほぼ使い切る、土地のポテンシャルを100%引き出すプランニングを行いました。

 

このプロジェクトでの取り組みは業界紙でも紹介されました。

「帝塚山イクス」は関電不動産開発との共同事業です。

高級住宅地として知られる帝塚山中一丁目における事業でした。

竣工は2005年8月。阪堺電車姫松駅徒歩5分の612㎡の敷地です。

準住居地域の聖天山風致地区に、鉄筋コンクリート造地上5階建て住宅9戸の計画です。

土地価格坪単価110万円で、募集価格平均約185万円で取得目安価格は約4400万円から7800万円でした。

このプロジェクトも業界紙に紹介されました。

レスタジア南田辺は老朽化木賃住宅の建替え事業です。

事業を通じて複雑な権利関係を整理しました。

竣工は2006年11月。JR鶴ケ丘駅徒歩8分の立地の約614㎡の敷地です。

第二種住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上8階建てで住宅15戸を計画しました。

土地価格は坪単価約100万円で、募集価格は平均坪単価約150万円で取得目安価格は3200万円から4300万円でした。

長居公園を南に直接面する絶好の立地でありながら、従前は戦後まもなく建てられた老朽化木賃住宅でした。

敷地内には建物が7棟建っており、底地は先代所有で相続登記されないまま二次相続が発生しており、遺産分割協議に基づく分筆も未済で、建物の多くは地主親族法人所有となっているものの建物表示登記未済。一部地主親族が土地建物共に所有している部分があるものの、建物表示登記未済という非常に複雑な状況でした。

このように複雑な権利関係を事業によって整理しました。

本事業で借地権を有する地主法人と底地権者である地主は、それぞれ賃貸住戸と居住用住戸を取得し、転出を希望する地主は土地売却費を取得しました。

事業を通じて個々に分離処分することが困難だった複雑な権利関係を整理し、老朽化により収益を生むことが困難な状況に陥っていた賃貸住戸は収益を生む住戸に生まれ変わりました。

「宇多野コーポラティブハウス」は京都方式(木造テラスハウス×スケルトン定借)で事業化したプロジェクトです。

環境共生をコンセプトに、一団地申請で従前地盤面を保全し既存樹木を活用、持続可能性を持った現代版京町屋の創造を目指しました。

京福宇多野駅徒歩5分の立地の敷地面積約1409㎡。

第一種低層住居専用地域に木造一部鉄筋コンクリート造地上2から3階建て住宅を13戸計画しました。

権利金で賃貸住戸を建設し、地代とあわせて月額50万円程度の収益を生む事業を構築しました。募集価格は坪単価95万円で取得目安価格は約2300万円から2800万円でした。

約35mもの長さのアプローチを持つ旗竿敷地に隣接する御陵と緑を連坦し、緑豊かな自然を確保、既存樹木を出来る限り生かし、生態系と緑の保全を図りました。

周山街道沿いの緑地帯を活かし、沿道の喧騒を遮断し、緑に囲まれた環境を実現しました。

建物は一団地申請により分棟化し、各住戸はダブルウォール(壁二枚:柱二本)により独立性を確保しました。

「ル・パッサージュ北野」は狭小地での事業です。

近隣商業地域の約140㎡しかない敷地に鉄筋コンクリート造地上9階建ての住宅7戸という、都心の狭小地における計画です。1フロア1戸を基本とし、利便性と良好な住環境の両立を目指しました。

土地価格は坪単価約190万円で、募集価格は平均坪単価約163万円の事業でした。

「内淡路町ハウス」は老朽化した印刷会社ビルの等価交換による建て替え事業です。

天満橋徒歩8分の約4040㎡の商業地域の敷地に、鉄筋コンクリート造地上13階建て住宅24戸、事務所1戸を計画しました。

土地価格は坪単価175万円で募集価格は平均坪単価約150万円でした。
 

オーナー個人と会社が所有する印刷会社ビルが老朽化。印刷業の業態変化により、かつて印刷機の置かれていたスペースが遊休スペース化し、メンテナンスも先送りにされていました。

本事業では立体買換えの特例を用い、従前ビル所有者は資金投下をせずに印刷会社として必要なスペースを最新仕様の事務所・倉庫として確保、余剰スペースは賃貸住戸として収益を生むストックに変換、最上階にバリアフリーのオーナー住戸を取得しました。

「ペイサージュ宝塚寿楽荘」は高低差のある邸宅跡地の計画です。戦前に建築された従前邸宅の、地域の景観形成の一部ともなっている巨石の石積擁壁を生かし、環境共生を目指した庭園住宅として計画しました。

阪急宝塚南口駅から徒歩7分の約696㎡の敷地で、第一種低層住居専用地域に鉄筋コンクリート造地上3階地下1階の住宅8戸を計画しました。

土地価格は坪単価約45万円で、募集価格は坪単価約161万円の事業でした。

以上ご紹介させていただいたのは、キューブで手掛けてきた事業の一部です。

すべての事業において、事業毎に創意工夫し、地主の意向、土地の状況、地形、規模、市場環境その他、あらゆることを踏まえ、その土地に最もふさわしい活用方法を実現する手法として、コーポラティブ方式を利用してきました。コーポラティブハウスは、その事業の仕組みから、前例のない全く新しい取り組みを進めるには非常に適した方式だと思います。現在も新規のプロジェクトに取り組んでおり、その可能性はまだまだ残されていると感じています。

今後とも、コーポラティブハウスから得られた知見を活かし、さらなる大きな可能性を見つけていきたいと考えています。