NPOコーポラティブハウス全国推進協議会(略称:コープ協)がコーポラティブハウス50周年記念イベント「コーポラティブのこれまでとこれから」という連続シンポジウム(全6回)を開催しております。6月28日に開催された第5回シンポジウムでお話した「コーポラティブハウス いま、これから」の内容を紹介させていただきます。10分程度と、かなり限られた時間の中での発表だったので、非常に駆け足の紹介になっておりますことを予めご了承ください。
株式会社キューブは、阪神・淡路大震災からスタートしました。
阪神・淡路大震災を機に創設したキューブが最初に手掛けたのは、築23年で被災した階段室型5階建て総戸数50戸の公社分譲マンション。キューブが再建に向けたコンサルティングおよび設計監理を行い、事業協力者を公募して新築分譲マンション「ディセット渦が森」総戸数72戸に建て替えました。
このプロジェクトでは、当初建替えに反対していた方々も全員参加して建替え事業を進めることができましたが、この事業を通じて分譲共同住宅における合意形成の困難さと、合意形成を得るための手法を学びました。
次に関わったのは、同じく阪神・淡路大震災で倒壊した5軒長屋。コーポラティブ方式を活用して10戸の共同住宅「スクウェア六甲」に再建しました。
従前長屋の地権者は60歳代~80歳代で、新規参加者は20歳代~50歳代。この事業を通じて幅広い層に自由設計ニーズがある事を確認し、コーポラティブ方式の持つ可能性を発見しました。
スクウェア六甲の事業を通じて発見したコーポラティブハウスの可能性拡大に向けて、今までに様々な切り口で事業展開を行ってきました。
その一つに、「スケルトン定借」があります。
旧建設省で開発され、首都圏でいくつもの実績を積みつつあった「スケルトン定借」の事業を関西でも広めようと、住宅金融公庫主催の事業提案コンペがありました。そのコンペに参加し、採択されたことで関西初のスケルトン定期借地権プロジェクト「塚口コーポラティブハウス」を手掛けることになりました。
このコンペでは、地主が事業者を採択するという事で、顧問会計士と共同で開発した、定期借地権の等価交換を採用し、1階診療所床を地主が無償取得できる提案を行いました。
このプロジェクトを通じて、スケルトン定借の事を深く理解することが出来、スケルトン定借が、震災で明らかになった集合住宅の宿命とも言える問題(=合意形成の難しさ)を解消する可能性を持っている事に気付かされました。
もう一つが「等価交換」の活用です。
「等価交換」を活用して、規模や諸条件にとらわれず、様々な地主ニーズに応えることのできるコーポラティブハウスの可能性を、様々な事業で探ってきました。
まずは、老朽化した事務所ビルを等価交換で建替えた「内淡路町ハウス」
そして複雑な権利関係の木賃アパート群を権利変換により整理した「レスタジオ南田辺」
4人兄弟共有の老朽賃貸マンションを等価交換で整理した「シェヌーア御影」
戦前建築の親族共有の邸宅を、立派な巨石の既存擁壁を活かしつつ等価交換で共同化した「ペイサージュ宝塚寿楽荘」等々
などを事業化しました。
また、「狭小地・変形地」にも積極的に関わってきました。
規模や諸条件にとらわれず、狭小地・変形地にも積極的に関わることで、様々な地主ニーズに応えることのできるコーポラティブハウスの可能性を探ってきました。
まず、北斜面の典型的な旗竿敷地に計画したRC造テラスハウス「デュプレックス宝塚千種」
42条2項道路に約8m接道、奥行き約50mの変形地に計画した「アンビエンテ北野」
容積率400%で42坪の土地に計画した「ル・パッサージュ北野」
「ル・パッサージュ北野」とハンター坂を挟んで対に建つ「リブレ北野」
などを事業化してきました。
そして、「ディベロッパーとの共同事業」にも取り組みました。
「帝塚山イクス」では、関西電力の子会社である関電不動産開発が土地を先行取得、コーポラティブ方式で事業化しました。
さらに様々なアイデアを組み合わせたプロジェクト、「スケルトン定借×一団地テラスハウス」を事業化しました。
新たに始まった住宅性能評価制度が、構造種別によらず、同等の性能を確保するための客観的指標を示すものである事から、木造集合住宅の可能性を発見しました。
また、定期借地の原契約に維持管理ルールを導入することで、京都市が原則民間事業では認めていなかった一団地の認定を受けることに成功し、事業化しました。
このプロジェクト「宇多野コーポラティブハウス」は長期優良住宅先導的モデル事業に採択され、グッドデザイン賞も受賞しました。
コーポラティブハウスの事業で得られた知見を、一般分譲事業へも展開しています。
まずは、「一般分譲事業×一団地テラスハウス」です。
宇多野コーポラティブハウスを見たディベロッパー(ゼロコーポレーション)から声をかけられ、美観地区の嵯峨二尊院門前院町で「華り宮嵯峨二尊院」を事業化しました。
この分譲一団地テラスハウスは、顧問弁護士と共同で開発した、区分所有法を活用する事で建物の維持管理ルールを法的に担保する手法を取り入れています。
この事業を通じて、京都で建売住宅を購入する従来の地元中心の顧客層とは異なる、全国規模の顧客層を開拓することができました。
そして「テラスハウスの再評価」を行っています。
建物を区分所有、土地を共有とすることで区分所有法の対象物とし、従来のテラスハウスで課題となっていた問題を解消することが出来ることを発見しました。
また、管理規約の法的位置付けを明確化し、中古流動性を向上させることで、様々な民間ディベロッパーが関心を示し、共同事業を行いました。
神東地所と事業化した「ラテラッセ須磨大手町」ではグッドデザイン賞を受賞しました。
ダイワハウスと「ディーテラス雲雀ケ丘」を事業化しました。
ゼロコーポレーションとは「華り宮嵯峨二尊院」に引き続き、「ルーシアコート宝塚清荒神駅前東館/西館」を事業化しました。東館では宝塚市では初となる民間事業での一団地認定を取っています。
近藤建設工業とは「メロディーハイム守口suite」を事業化しました。
京阪電鉄不動産と取り組んだ「神戸ハウス北野」では人間サイズのまちづくり賞奨励賞を受賞しました。
地域の歴史的風致が不可逆的に失われるとマンション建設反対の住民運動がおこっていた北野町で、「華り宮嵯峨二尊院」のような計画であれば受け入れ可能という地域住民の声を受け、神戸市の協力の元、分譲一団地テラスハウスとして事業化しました。
このプロジェクトにおいて企画・設計監理・販売に関わることで、様々な潜在的ニーズを発見することができました。
最新では「神戸北野コーポラティブハウス」に取り組んでいます。
当プロジェクトでは、当初約100㎡程度の住戸11戸、約1億円前後の取得目安価格で参加者募集をスタートさせたのですが、結局約160㎡~約340㎡、1.5億~3億円程度の住戸になり、弊社で取り組むコーポラティブハウスとしては初めて、全戸1億円超えの住戸で構成されるコーポラティブハウスとなりました。この事業を通じて、このような高額価格帯においても、コーポラティブハウスニーズが間違いなく存在することを確信することができました。
日本の住宅産業は閉塞感に覆われて久しいと言われています。
その背景には、空き家問題、人口減少、多様化、建築費高騰など様々な問題があります。
そんな時代であるからこそ、潜在的な社会ニーズに沿って調整し、具体的な事業として顕在化させる柔軟性を持つ事業「コーポラティブハウス」の可能性があると感じています。
そして、その可能性は、日本の住宅産業において、「破壊的イノベーション」を生み出す可能性があると感じています。私共は破壊的イノベーションを生み出すべく、今後もコーポラティブハウスに取り組んでいきたいと考えています。