2013年4月4日木曜日

街なか居住のすすめ:4


大都市圏では急速に都心回帰が進んでいます。


バブル経済崩壊後、地価の下落と企業保有地の大量放出等により、利便性の高い都心部において、比較的安価な住宅の大量供給がなされ、都心居住者が増加しています。
このグラフは東京のものですが、恒常的に人口減少し続けていた状況が一変し、近年は人口が増加し続けている事が確認できます。
特にその傾向は都心部程顕著となっています。



近年、高齢者の運転免許返納が急増しています。
以前は身分証明証として、車に乗らなくても運転免許証を持ち続ける人が多かったのですが、身分証明証となる運転経歴証明書を発行するようになってから、急速に運転免許証を返納する方が増えだしました。しかし、公共交通機関が充実していない地方都市では車への依存は深まり続けており、なかなか免許証を手放すことはできません。しかし、これからもどんどん高齢化が進む中、いつまでも安全に運転できるわけではありませんので、車に依存し続けるにも限界があります。




戦後急速に人口流入がおこり、早くから郊外住宅地開発を進めていた大都市圏では、オールドニュータウン問題が顕在化しています。
ニュータウンの街びらき時に一斉に入居した人々が一斉に高齢化し、郊外住宅地の高齢化問題が深刻化しています。郊外住宅地の高齢化によって購買力が低下し、核となる大型店舗の撤退が相次いでいます。核となる大型店舗が撤退してしまうと、商店等がほとんどない郊外住宅地では車に乗らないと生活が成り立たなくなります。このようにして買い物弱者が発生し、自らの力によって環境を立て直すことが出来る人は住まいの場を移すなどし、それができない人が取り残されるようになるなどして、郊外住宅地が限界集落化するような例も出始めています。

このような背景が、大都市圏における都心回帰を加速させているのではないかと考えられます。



2013年4月3日水曜日

街なか居住のすすめ:3

街なかの人口が減少し、郊外の人口が増加する人口移動現象をドーナツ化現象と言います。
ドーナツ化は次のような段階を経て進んでいます。

まず、郊外住宅団地開発等に伴って、郊外や国道沿いに大型店舗等が出店します。
公共交通機関が充実していないので、郊外住宅地居住者の買い物や通勤は、車に依存する生活スタイルが一般化します。
すると、中心市街地の通勤者向けに街なかの駐車場需要が旺盛になります。
街なかの居住者減少による需要減退と、郊外の大型店舗との競合により、街なかの店舗が減少していき、街なかがいわゆるシャッター街とも言われる状況になっていきます。
シャッター街化することで、ますます街なか居住の魅力が低下していき、店舗跡地等が駐車場になっていきます。
その事が、さらに居住者減少に拍車をかけ、街なかの店舗減少を誘引します。
この悪循環がどんどん進み、街なかの空洞化が加速度的に進んでいるのが現状です。
この過程において、車への依存度は深まり続けています。


このままでは、歩いて暮らせる街が失われてしまいます。
現在、高齢社会が急速に進んでおり、車が運転できないと暮らしていけないという状況は、非常に危険だと言えます。

2013年4月2日火曜日

街なか居住のすすめ:2


地方都市では、近年急速に街なかの衰退が進んでいます。
鳥取市では平成15年から平成19年の4年間に、なんと2ha以上も街なか、いわゆる中心市街地における空地と駐車場の面積が増えています。その後の調査でも、このスピードはさらに加速している状況です。


また、昭和40年代には鳥取市人口の約20%を占めていた街なかの人口は、平成18年には6%まで減少しました。
このように、街なかの衰退が、加速度的に進んでいるのが、日本の多くの地方都市を取り巻く原状ですが、県庁所在地の中でも最も人口が少ない行政の一つである鳥取市では、最も先鋭的に状況が進んでいると考えられます。

2013年4月1日月曜日

街なか居住のすすめ:1

先日、鳥取市でシンポジウムが開催されました。
そこで行った基調講演の内容を、公開していきたいと思います。




2013年2月21日木曜日

コーポラティブを考える

以前、「住宅新報」という業界新聞で、コーポラティブハウスに関する特集が組まれたときに、キューブの取り組みについて説明したことがあります。
弊社の考え方を分り易くまとめて頂いているので、改めてご紹介いたします。


論点 コーポラティブを考える

コーディネーター その役割は・・・   円滑な事業のために


コーポラティブハウスを実際に実現するには様々なやり方・方法があるが、入居者となる参加者の考えを集約しながら、集合住宅づくり事業としていかに円滑に進め、個々の希望を実現していけるかは、全体を取りまとめて調整するコーディネーターの手腕いかんにかかっている。コーディネーターはコーポラティブ事業に具体的にどうかかわるべきなのか。関西でのコーポラティブ住宅の第一人者として評価の高いキューブ(神戸市)社長の天宅毅氏が語った。

”ティーチャーにあらず”

■”矛先”になる


「キューブでは、最もスムーズに事業を進められると考えられる案をコーディネーターとしてまず提示する。それに基づいて『参加者の意見を反映して進める』というやり方をとっている。そうすることで、全参加者がゼロから勉強してスキームを構築していくのではなく、コーディネーターの経験を踏み台にして積み上げていく方法を取ることができる。(従来コーポラティブでは当然と考えられてきた)直接的な討議は一切行わないで参加者から提案があるときはすべてコーディネーターにぶつける。」

「よい提案であれば、コーディネーターがそれを全参加者に改めて提案し、参加者の了解を踏まえたうえで事業に反映していく。他の参加者の不利益や将来的なトラブルにつながると考えられるものについては、その旨をコーディネーターと提案者が納得するまで話し合い、納得に至った場合にその経緯を匿名で全参加者に報告する」

「参加者全員が共有すべきは、どんな意見があり、どう説明されたかという事実であって、誰が意見を言ったかではない。こうすることで『(意見の提案者が)細かい人』と思われる心配もなく何回でも質問することができ、内容がコーディネーターから参加者に告知されることで理解内容を全員で共有できる」

「(コーディネーターが発信する)広報はすべてメールなどで行うため、時間配分に応じて読むことができるし、自らが提案した内容も正確に広報されているかチェックできる。必要であれば、提案内容を整理して参加者に多数決を仰ぐこともできる。参加者に求められる手間は、広報物に目を通すことだけ。これだけで議論を十分積み上げていくことができる。コーディネーターは”ティーチャー"ではなく、あくまでもコーディネーター(調整役)。それに徹することでこそ円滑な事業運営が可能となる」

■自由設計への考え

「設計図は平面図だけではなく、壁面の形状を表した展開図や仕様表、設備図といった具合に複数の図面で表現されるし、それらはすべてモノクロであるため、専門家でなければ図面だけから正確に空間の具体的なイメージを持つことは不可能に近い。設計者のスケッチパースは演出意図が過剰に表現される傾向があり、完成した際にイメージした演出と異なっていても、修整するには時間と費用がかかり、品質も低下する。そこで、設計内容が最終案に近づいてきた時点で各住戸ごとにCGを作成し、イメージと合致しているか確認する」

「この時点でイメージと異なる場合は、設計変更を行うが、すでに工事がすんでしまった場合(の変更)と異なり、無駄なコストはかからず、品質低下にもつながらない。工事環境を整えることが(施工の)監理を向上させ、良質な品質の建物づくりにつながる」

「メンテナンス性に問題があると考えられるもの、評価が確定していない新商品や新工法は基本的に採用せず、建物(の維持管理)が安価に長持ちすることを前提に考えることが重要。集合住宅の社会性(都市を形づくる1つのインフラとしての性質)を踏まえ、特に共用部に関しては、デザイン性よりもメンテナンス性を重視した設計を行う(社会インフラとしての耐久性の確保=丈夫で長持ちし環境にも優しい住宅づくり)」

コーディネーター選びは・・・
      ・・・責任と「覚悟」をもって


自由設計ができるコーポラティブ住宅でも、もちろんそれが際限なくできるわけではない。当然ながら、拠出できる予算などを考慮しながら計画することが重要になってくる。ほうっておけば、知らぬ間に資金が膨らんだということも起こりえるからだ。だからこそコーディネーターの役割が重要になる。

コーディネーターは建築や空間設計のプロであるばかりか、事業が成功するために全体の収支・採算を見極めて計画を進行していく役割を担っているため、ローン計画などの資金プランづくりや税制などにも通じているうえ、それらに詳しい専門家などとのネットワークをもっているケースが多い。その面でも「プロ」として助言する立場にあるからだ。

つまり、そうした能力を備えているコーディネーターであるかどうかを見極めることが参加者には求められるわけだが、その見極めの手段としてまず考えられるのがコーディネーターのそれまでの実績を見ることだ。

それによって、どれだけのことを期待でき、どれだけ任せられるかといったコーディネーターの質・レベルをある程度つかめるし、どれだけ真摯に情報開示に応じるかによって、事業者としての社会的な姿勢と責任感もつかむことができる。

もちろん、コーディネーターがコーポラティブ事業に取り組むのは初めてというケースもある。その場合も含め、計画を進める際の姿勢から判断することも大きな手がかりになりえる。端から自分の意見を押し通そうとするコーディネーターや、参加者の意見を一から十まで取り入れることに終始するコーディネーターは避けたほうが無難だ。

前者は、設計の専門家であることを自信に、自分の描いた”理想”をコーポラティブを借りて実現しようとするきらいがあるし、後者は逆に参加者が満足すればそれだけで事業が円滑に運ぶと思っている「ひと任せ的」な傾向が見え隠れする。この場合、前者を、参加者不在の「自己満足型」、後者をすべてを押しつけるだけの「参加者依拠型」あるいは「放任型」と呼ぶ専門かもいる。

政治学者、竹井隆人氏は、「デザイナー(建築家・設計家)が始めるから、日本のコーポラティブではそうした問題が起こりがち」だとしたうえで、特に後者について「完全な責任放棄」だと言い切り、どちらにしても「結局、余計なモノを追加したりして価格が高くなってしまう」と指摘する。

こうしたことから、コーポラティブの第一歩は、コーディネーター選びからといっても過言ではないだろう。

しかし、熟練し信頼できるコーディネーターがあったとしても、任せきりにしてはいけない。自分にあった住まいをつくるということは、取りも直さず自身の責任の範囲内でできることをしていく自立した行為であるからだ。その覚悟が必要なのは言うまでもない。それがあってこそ、資金計画でつまづくこともないし、本当に納得できる住まいづくりができる。


事業参加に向けて・・・要諦は「長短所の見極め」
コーポラティブで「本当の満足」を得るために

コーポラティブには、メリットも多いが、やり方次第ではそれがデメリットへと転化してしまう可能性が多分にある。逆にいえば、デメリットをメリットに変えてしまえば、非常に有効な住宅取得・供給手段になり得る。それには、まずそれらを理解したうえで事業に参加することが重要になる。

自由設計で”納得”  資金フローも格段に透明化
―メリット―

■「自由設計」


コーポラティブ住宅の最大のメリットの1つとして上げられるのが、「自由設計ができる」という点だ。コーポラティブ参加者(入居者)は、自身が描く現在・将来のライフスタイルのあり方を想像、それにあわせて主に内部空間を形づくっていく。

現在普及しはじめてきた専用住戸自由設計対応の分譲マンションは着工後に販売しているため、躯体自体をいじったり、設備メーカーを変えるような設計変更などに対応し切れないといった制限がつくが、コーポラティブでは住戸単位で対応が可能だ。着工前の設計段階の変更であれば、そうした問題は霧散する。

さらに、「工事中に変更を行うため、間違いが生じたり工事の品質低下につながるのでは」「請負契約後の変更でその分のコストが定価ベースでほぼまるまる純増となるのでは」といった懸念に対しても、①着工前に設計完了するため、間違いが生じないよう監理を徹底しさえすれば品質低下を防げるし、逆に品質向上につながる②設計変更後の請負契約なので、変更コストは発注価格ベースでの差額だけ―など不具合はない。

■「納得の価格」

分譲マンションでは通常、現地以外の場所でモデルルームを開設するが、その経費は数千万にのぼる。実際に建つ建物とは関係ないばかりか、販売終了後は解体撤去破棄されるので撤去コストもかかる。これにテレビCMなど大量の広告を打てばどうか。「あの手この手で売ろうとするあまり、販売経費がますますかさむ傾向にある」という。

デベロッパーの利益が最低でも事業費の10%確保できなければ、その事業に対する与信が得られず、金融機関から融資を受けることができないという事情もあり、利益の確保が事業成立の前提になる。土地代と再販価格は市場で決定するため、結局は利益と販売経費を確保したうえで、残りの額で事業を組み立てていかざるを得ない。

これに対して、土地代、建築費、設計費など、建てるのに必要な費用の積み上げだけで事業を組み立てていくというのがコーポラティブハウスの基本的な事業化コストに対する考え方だ。

そこに居住しようという人が集まって、自分たちが居住するための家をつくる―そこには余分な販売宣伝費やデベロッパー利益などは発生しないし、入居者が主体となって工事や材料などすべてを発注するので資金フローが格段に透明化。このため価格形成にも納得できるようになる。

ただし、入居者は専門家ではない。契約行為や事業キャッシュフローの組み立てなど専門的知識を必要とする業務の実行には、それらの業務に通じた専門家の関与が不可欠になる。多くのコーポラティブの事業化例でコーディネーターが活躍するのは、このためだ。

■「コミュニティ形成」

マンションは引渡しが終わると区分所有者による管理組合が維持管理運営をしていかなければならないが、建物自体はメンテナンスフリーでは決してなく、10数年周期で修繕をしていかなければ良好な状況を維持し、長持ちさせることはできない。

しかし通常のマンションでは一般的に、当事者意識が希薄になりがちで、維持管理に最も重要であるべきコミュニティの不足が潜在的問題として以前から指摘され続けている。さらに、大規模修繕など高額の費用出費に対する合意形成が極めて困難で、それは阪神大震災の被災マンション復旧の際に大きくクローズアップされた。

コーポラティブの利点は、計画・建設段階から将来の入居者が事業参加者として、全員が当事者意識を持つとができるので、維持管理運営での合意形成を円滑に行えるようになる点にある。つまりコミュニティの事前形成だ。

自ら関与してつくりあげたマンションだけに、大事にしようという気持ちが働くし、愛着が強い分、部外者の侵入に対しての意識が働くため、ソフト面でのセキュリティー効果も大きい。警察庁の報告などでも「侵入者は人の目を最もこわがる」ことがわかっており、実際それが防犯にも大きな威力を発揮している。


「直接的な討議」は有効?
―デメリット―

■「合意形成の難しさ」


コーポラティブが持つメリットが、そのままデメリットになるケースがあるという場合も考えられる。その1つが「合意形成」。それまで見知らぬ者が多数集まった場合などは、集会を重ねるうち、ときには収拾がつかなくなって計画そのものが流れたりすることもあるという。そうなれば、メリットの1つでもある良好なコミュニティ形成以前の話になってしまう。

つまりメリットを生むはずの「直接的な討議」がデメリットを内包しているとみる関係者も少なくはない。

例えば、参加者間に対立が生じた場合、一方が妥協すると、意見が通った参加者は自分が正しかったと考える。次に対立が生じた場合、前回妥協した参加者は今回こそは受け入れて欲しいと当然考えるが、前回意見が通った参加者は、「自分が正しかった」と考えているので、今回も自分の意見を採用すべきだと主張する。論点のずれた意見にふり回され、議論が収束しなかったり、いったん結論が出ても、納得しない参加者の発言で振り出しに戻ってしまうこともある。これでは、「仲良くなる以上に、決定的な人間関係の溝をつくりかねない」という。

コミュニティ形成に「直接的討議」が必ずしも有効に働くわけではない。そのことを踏まえたうえで有効な手段も検討する必要がある。


コーディネーターは「指揮者」 能力次第で居住者満足度を左右

コーポラティブ住宅のメリットとデメリット、そしてその特有の住宅取得・供給形態がどのような可能性を秘めているのか。住宅政策・都市問題に詳しい小林秀樹千葉大学教授に聞いた。

識者の見方

―コーポラティブ住宅は通常の分譲・賃貸に比べ居住者の満足度が格段に高まるとされるが。

「設計・施工面、価格の透明性の確保といった面から、一般に満足度は高まるのは確かだ。ただしコーディネーターの能力に(事業の成否が)左右される点に注意が必要だ。がこの点も、熟練のコーディネーターが実施すれば、ほとんど気になるデメリットにはならない」

―完成までに時間がかかる、建設費が割高になりやすいのが若干の難点だとの指摘もあるが。

「時間がかかることと建設費の問題は、注文建設では当たり前のことだと認識するべき問題。仮に転売する際の値付け(流通価格)では、個別設計して費用が アップした分は評価されにくいのが普通(車にオプションを付けても中古時の評価アップはわずかであるのと同じ)。しかし、標準設計程度または同等以上には 評価されるため、不利と言うほどのことではない。コーディネーターが最初の段階で、『自由設計した建築費のアップ分は中古段階では評価されにくい』ことを 伝えて事業を進めれば、不満はほとんど聞かれない」

―コーディネーターの役割については?

「コーポラティブには、ユーザー主導型とコーディネーター主導型がある。実績の9割以上は後者。前者のユーザーが主導し、コーディネーターが調整役にとどまる例は希であるとともに、ユーザー同士の合意形成も大変になる」

「コーディネーター主導型は、簡易型コーポラティブとも呼ばれ、手軽にコーポラティブ住宅の自由設計メリットを享受したい人々に歓迎される。この場合の コーディネーターは、事業を円滑に遂行するための全責任を担う『指揮者』。その能力が高ければ、自然に居住者満足度も高まり、建物のでき上がりもよくな る」

―コーポラティブ住宅の可能性についてはどうか。

「今後は、マンションの自主建て替えや密集地の共同建て替えなど、コーポラティブ住宅のノウハウが必要になる場面が多くなる。このため、広い意味でコーポ ラティブ住宅への期待は高まる。それだけに、十分な経験とノウハウを身に付けたコーディネーターに対する期待は大きい」

2012年12月20日木曜日

巽和夫先生を偲んで

2012年11月6日、京都大学名誉教授の巽和夫先生がお亡くなりになりました。
巽先生はスケルトン・インフィル型集合住宅や2段階供給方式を提唱されてきた方で、2005年には下記対談を させて頂きました。この対談が、宇多野コーポラティブハウスや、1000年住宅のコンセプトを考える上で、大きなヒントとなりました。
謹んでお悔やみ申し上げます。


特集・まちづくりの今後を考える - 新春特別座談会 -

2005年新春 特別座談会

日本を代表し世界に誇る町・京都。千二百年余りの歴史・文化の蓄積と独自の町並みが織りなす「京都ブランド」が人々を魅了する。その重要な構成要素である 「町家」を中心にした景観が、マンションなど高層建築によって急速に喪失しようとしている。地域経済との折り合いを付けながらそれをいかに保全するべき か。町家をはじめ住宅研究に造詣の深い京都大学名誉教授の巽和夫氏と、京都らしい住宅供給を続ける一方、町家再生にも取り組むデベロッパー、ゼロ・コーポ レーション社長の金城一守氏、関西でのコーポラティブハウス第一人者である都市コーディネーター、キューブ社長の天宅毅氏の三氏が、京都町家保全のあり方 を通してこれからの都市に何が求められるのか話し合った


出席者
・ 巽  和夫氏(京都大学名誉教授)
・ 金城 一守氏(ゼロ・コーポレーション社長)
・ 天宅  毅氏(キューブ社長)


京都ブーム

景観破壊に危機感
(巽)持続性あるマンションを
(天宅)


――最近メディアでは京都特集を組む番組や雑誌が増加し、一種の『京都ブーム』再来の様相を呈しています。その背景には京都の風情、あるいは『京都らしさ』を再評価する動きがあるようですが、この『らしさ』をいかに保全していくべきでしょうか。

(巽) 「おっしゃる通り、確かに『京都らしさ』を評価する動きは強まってきているようです。経済は安定成長路線に大きく転換し、その中で歴史・文化に裏 打ちされた京都の価値を見つめ直すという気運が盛り上がってきたことがその要因かもしれません。実際、そうした気運を受けて町家や町並み保全の動きが強 まっているのも事実。古い町家を再生・利用したり建物を『町家風』にしたりする例が増えています」「しかし一方ではマンションがずいぶん建ち、このままで は『京都(の町並み)が壊れていく』との危機感も高まった。適法建築でも建ってしまえば景観は明らかに壊れる。そして町並みに愛着を持つ住民との間で紛争 も絶えない。日本建築学会もこの現状を憂い、特別委員会を設置、対処に向けた方策(京都の都市景観の再生に関する提言=座談会・気になる言葉①参照)を取 りまとめ、市長にも提言しています」


―市側も景観保全に向けた条例やルール化による規制(京都都心部の新建築ルール、昨年四月施行=座談会・気になる言葉②参照)に踏み切った。

(巽) 「東西が河原町通りから堀川通、南北が主に五条通から御池通に囲まれた中心市街地に限っての適応で、その区域が饅頭の中身(餡)に例えられて『餡 子の規制』と呼ばれている。本来は市街地全域を対象とすべきですが、京都らしさを急速に保全するため(経済面で開発されやすい)中心市街地を対象にした」 「市にはジレンマがあるわけです。経済の活性化を図るには建築活動をある程度自由にして投資を呼び込んだ方がいいという考え方が根強い一方で、『京都らし さ』が残っているからこそ価値があるという考え方がある。まさに両極です。この狭間の中で身動きが取れず、その間にマンションが林立するようになった。今 回のルール化で市は、やっとこうした流れから転換する姿勢を打ち出した」

(天宅) 「阪神大震災で倒壊したマンションの再建に携わったが、その際、マンションが内包している『あやふやさ』を痛感した。多くの壊れたマンションの 再建が困難をきたしたようにマンションは日本の社会システムや居住環境にまだ十分なじんでいないということです」「西洋のように、ほとんど地震がないとこ ろでは、建築物は半永久的に存続する。その前提の中でマンションという居住形態が確立され、何の問題もなく住み続けてこれた。しかし、地震国・日本では同 様の前提は確立し得ないし、歴史的にも居住用の高層建築は造られてこなかった。にもかかわらずマンションはわりと簡単に受け入れられてきた。しかし、地震 で壊れたらお手上げ状態。未だマンションは日本の風土に合った持続性を獲得するに至っていないと思います」


――京都ではマンションは向かない。

(天宅) 「一概にはそうとも言い切れません。ただマンションを巡る紛争が多い理由は京都の歴史の集積に求められるのではないでしょうか。都市として千二 百年以上も持続的に活性する町というのは、それを可能にする仕組みが明らかに完成している」「町家はそれぞれが時代に非常に柔軟に対応しながら一つひとつ 更新を繰り返し全体として京都の町並みが形成されてきた。持続的に変化する仕組みが内蔵されているわけです。これに対して区分所有マンションの歴史は四十 年そこそこ。ハードで柔軟性にかける、すなわち持続性という観点からすると完成度の低い異物(=マンション)が突然現れるのだから、住民の抵抗感や危機感 は当然高いでしょう」「しかし持続性を持った計画、長期的に循環できる仕組みを持ったマンションであれば受け入れられるのではないか。そう考えて以前、御 所西のマンション事業コンペで『スケルトン定借』方式(座談会・気になる言葉③参照)によるマンション計画を提案したことがあります。尼崎・塚口で関西第 一号案件(二〇〇〇年竣工)を手掛けた経験から、この手法には持続性具体化への考えが凝縮されていると実感したからです」

(金城) 「二階建ての町家に住み景観に慣れ親しんできた住民におって、いきなり十階建ての大きな壁(マンション)が出現すれば『これはなんやねん』とな るのは当然です(笑)。逆に業者にとっては低層地域に適法にランドマークを建てられるわけですから、事業循環がすこぶるいい。」「独のケルン大聖堂は六百 年かけて建築し続け、市のランドマークとして景観に溶け込んでいる。しかし川向こうは都市計画上、高度利用が許されており超高層ビルの建築ラッシュ。これ で激しい景観論争が起こっているそうです。海外でもそうですし、(景観保全への)規制も日本よりずっと厳しい。日本ももう少し行政が関与してもいいと思い ます」

(天宅) 「その意味では私権制限を伴う新建築ルールの施行は画期的な試みだと評価できます」

(金城) 「京都は何と言ってもやはり町家でしょう。僕自身もいい町家には魅入れられる。住宅団地開発を手掛けているが、付近にいい町家があればそれを景 観形成に活用したり、思い切って所有し再生したりしてきました。町家の風情をつぶすのは忍びない」「十年ほど前に当時の助役の北里敏明さんが行政として町 家の再生に取り組まれた。その際、市民団体などと町家を研究するワーキンググループ『北里会』を立ち上げ、僕もそのメンバーに招かれたのですが、市民団体 や建築士会などとともに市の予算で町家の実態調査をしました。それまで町家の保存は僕を含め細々と続けられてきたが、やはり行政が動くと大きい。それを きっかけに町家の人気が高まり、一気に保全の気運が高まったのですから」

(巽) 「金城さんがおっしゃる通り、町家は京都を代表する建築物であり、かつ風景でもあります。その意味でも、行政が積極的に調査に乗り出したのは画期 的だった。これで町家を見つめ直す気運が高まり、住宅行政のあり方を含め都市づくりのあり方を(行政が)再考するきっかけにもなったし、古いものを再生 し、活用するという動きは京都だけでなく、あちこちでも広がるようになりましたから」


制限の是非

地域が独自政策を(金城) 実情に根ざす建築誘導も(巽)
―― ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は明治の日本の各都市を見て、それぞれの都市の表情がすべて違い、しかも美しいことに感嘆したそうです。江戸期の諸藩が 半ば独立しており、各地域の実情ごとに行政や都市計画を行ったためで、同様に地域の独自性の発揮は現在の都市づくりを進めるうえでも改めて考える必要があ るのではないでしょうか。
 

 (金城) 「その通りで、やはり地域がもう少し独自の政策を打ち出すべきでしょう。戸建開発の最前線にいる者の感覚として、今はどの業者が建てても似たよ うな住宅ばかりになり、これが増えていくと町や都市が持つ独自の『らしさ』はいずれ喪失するのではと感じています」「当社では、①耐震性が高い②維持管理 がきちんとできる仕組みの投入③丈夫で長持ちする耐久性の高い住宅④高齢化対応―といった(主に住宅性能表示制度=座談会・気になる言葉④参照=に対応し た)いくつかの項目を満たす住宅づくりを限られたコストの範囲内で行っている。程度の差こそあれ他社でも同様でしょう。例えば外壁を通気層のある二重構造 にする際、壁材は窒素系のものが良いということになり、結局どの業者も採用する。似たような住宅になるわけです。」「しかし京都独自のアイデンティティを 主張するのであれば、こうした技術上の流れにも『待った』を掛けないと。業者は常に競争しているのだから、住宅建築にも行政がなんらかの指針を示さなけれ ば、業者は動くわけありません」


――そうなれば全国一律の建築基準法のあり方も考えなければなりません。

(巽) 「地域の実情にあった建築を誘導できる内容を盛り込むことも一つの方策かも知れません。日本の住宅はかつて、今日のように材料が豊富ではなかった から、木と紙と瓦で造られていた。しかしそれでも地域性は色濃く出たわけです」「それぞれの地域に産する材料を使って、それぞれの土地の条件にあった構造 物とすることで、自ずと住宅と町のスタイルができあがる。その意味で、京都の『こだわり住宅』を一斉に造るといったコンセンサスが形成されれば、いずれ京 都らしさが面として表出される住宅づくりができるのではと楽観しています」

(金城) 「いっそのこと、京都全体を美観地区に指定したらどうか。例えば、屋根は瓦葺に統一しなければならないとか、庇を一定以上張り出させる、あるい は窓でも外から見えるところにはアルミではなく木を使えとかです。保全を真剣に考えるのであれば、こうした指導や規制は今後現実になるのではないかと思っ ています」

(巽) 「瓦一つとってもその種類・形態は土地土地によってまさに千差万別。今は違うがかつての家づくりには『頭(こうべ)八貫』という考えがあった。台 風被害を防ぐため屋根を重くする。高地では安芸瓦を使うが、重いかわりに一枚一枚が小さい。屋根葺き作業を効率化するためと、仮に風で飛ばされても小さい 方が葺き替えやすいし、風の吹く方向がだいたい決まっているから、風の流れやすい向きに葺く」「産地ごとの土で焼き、産地ごとの葺き方もあり、自ずと地域 の表情、風合いが出るわけです。京都全体を美観地区に指定するのは僕も賛成だが、そこには京都の歴史や伝統・文化が自然とにじみ出てくるような配慮、そし てそれによって全体の美観が形成されるという考え方も盛り込まなければならないでしょう」

経済との整合
全国同一ゆえに再評価(天宅) 保全・創造へ"不条理"さも(金城)

――町家の保全や再生を考えるうえで、経済性との折り合いをどうつけるか。


(天宅) 「京都は長い歴史の中でたびたび震災や大火にもあっている。しかしその都度、町として再生している事実に着目すれば、やはり『循環型』のまちづ くりの仕組みができていたといえるでしょう。これを繰り返して一千年超も都会であり続けた。町家のように一つひとつ独立して完結しているものであれば例え 倒壊してもすぐに修復できる。しかしマンションはそうはいかない」「かつて日本の都市が一つひとつ魅力を持ちえたのは、『そこで取れる土が安いからそこの 瓦を使う』といった土地ごとの経済原理が働き、都市それぞれの独自性を醸成することにつながったと考えられるのではないでしょうか。しかし今は流通経路が 格段に広がり、建材も高品質で安価なものが供給され、どこでも同じものが手に入り、結局同じ住宅ができあがる。全国一律なんです」「しかしそれが逆に『京 都らしさ』が再評価される要因になっているのではないか。京都しかないものに商品価値が見だされ始めている。高度経済成長の過程では新しく生み出されるも のに価値が見出されたが、成熟経済の下では、歴史性や物語性が経済価値を生み出す。京都が発信する商品やモノは、『京都ブランド』が強いものほど価値が高 まるのではないでしょうか。すると、さらに『らしさ』を求める動きが広まり、それが自ずと『京都づくり』につながる。好循環が現出されるわけです。今はそ の過渡期では」


――住宅産業・住宅市場に携わるプレイヤーはこれをどう捉えるべきか。

(金城) 「住宅市場で『京都らしさ』を残し新たに創るには、やはり行政の関与が必要でしょう。例えそれが業界にとって"不条理"な規制であってもです」

(天宅) 「おっしゃる通り"不条理さ"を強制できるのは公(行政)しかない。新建築ルールはまさに"不条理"そのもので、そこに土地を持っている人に とっては、仮に高層建築を建てれば高く売れたかもしれないのに、規制を受けることで土地の評価が実際にも下がっている。明らかに私権の制限です。しかし、 そこに踏み込んだことは評価に値する。それによって新しい価値=『歴史性が生み出す経済価値』が発露すると思っているからです」「開発者側にとって"不条 理さ"は、実はあまり大きな意味を持たない。プレイヤーにとって重要なことは『同じ土俵』(同一の競争条件)に上がるという点にあります。同じ条件が規制 によって整えられるのであれば、対等に勝負ができ不利にはならない」「逆にプレイヤーが最も嫌がるのは『抜け駆け』です。これまで違法建築が絶えなかった のは、その方が質は悪いが安くて広い商品が供給できたからです。だから抜け駆けする業者が多かった。競走上、同一条件ではなかったのです」

(金城) 「京都では今、違法建築は皆無です。行政が抜け駆けをさせない規制、つまり中間検査を徹底させたためです。検査を通らないと融資が付かない。現 状では開発条件のいい土地の仕入れ価格は一種のバブル状態だが、中間検査をきちんとやれば、たとえ地価が上がっても(最終価格を抑えるための手抜きなど) 違法建築はでてこない。これは非常にいいことです」

(天宅) 抜け駆け業者にとっては、文字通り"不条理"だったのでは(笑い)しかし、それで経済効果が落ちたのか。むしろ上がったのではないでしょうか。規制によって合法な建築物で勝負できる環境、つまり『同じ土俵』ができたに過ぎないからです」


――消費者からすればそれは至極当たり前。

(天宅) 「そうです。現在生きるものにとって、歴史はまさに"不条理"なものです。皆が共有できる価値観に基づいた"不条理"があっても構わないわけ で、その代わり抜け駆けを防止する強制力がきちんと働くようにする。そのうえで金城さんがおっしゃったように、建物の意匠面にも条件を付けるような規制を 行う。そこまで踏み込めば効果はテキ面に出てくる。そうなれば、先程過渡期であると申し上げた『京都らしさが価値を高める好循環』につながることでしょ う」

総括
大局的な"ポリシー"を(巽) 新しい"ミクロ"も必要(金城) "京都づくり"好循環へ(天宅)

――町並み保全などを進めるうえで、行政の関わり方を改めて考える必要があるといえそうです。


(天宅) 「日本では私権の制限は、なにか聖域に踏み込むような雰囲気がある。日本の行政の一種の特徴ですね。景観形成一つとっても西欧では行政が非常に 大きな強権を発動しています。例えば伊では窓枠を替えるだけでも審議会を通さなければならないし、私権が尊重される仏でも町並み維持への公権力が強い。社 会主義国よりも社会主義国らしいといわれる日本では私権は野放図。ここに日本の町並みが雑多になる原因があるのではないでしょうか」「近代以前の日本は、 本当に美しかったのではないかと思います。清潔感も高く、統一感もあり、意匠的にも完成度が高い。文明開化前の京都は、感動するほど美しかったんでは(笑 い)」

(金城) 「行政や首長自体が、まちづくりに対する認識が不足しているように思うし、私権についても何か勘違いしているのではないかと思います」

(巽) 「先述しましたが、まちづくりは強制だけではなく、材料も技量もそこにあるものを使って行われてきた。だからこそ自然に調和が生まれる。そして同 じことを繰り返すことで洗練もされてくる。それが近代化以降、鉄やガラスやコンクリートなど新しい材料が一気に広まり、建築家もまた新しい試みに取り組も うとする。古いものを顧みなかった。これが混乱のもとです」「現実には今後も材料は豊富になるし、工法も次々に新しいものが生まれる。この流れは止められ ないし、それが現実である以上、それを許容しながらも、『この町をこうしていくんだ』という確固たるポリシーをもってまちづくりにあたるべき。それがな かった。ない以上混乱するのは当たり前でしょう」「その意味で行政の怠慢は確かにあったと思う。京都市のような自治体では市長、助役のトップ三人のうち、 少なくても一人はまちづくりの専門家であるべき。空間を計画しデザインしコントロールする担当のトップがいるべきなのです。僕の後輩が新潟市長を三期努め たが、その彼があるシンポジウムでしみじみ話していました。『建築や都市計画を専攻した市長がでてくれば(日本の)都市はもっと良くなる』と」

(天宅) 「日本はもともと美意識の高い国だったんですが…」

(金城) 「戦後の混乱から高度成長の中で、どうもそれを忘れ去った(笑い)」

(巽) 「それは『ミクロの美意識』だったんじゃないか。材料や工法に制約がある中で、それを精一杯使い『ミクロ』を積み重ねて美しいものを創ってきた。 ところが現代では(材料や工法が多様化しすぎて)ミクロを積み重ねても、雑多になるだけ(笑い)。ポリシーが欠如しているためです。マクロの視点でそのポ リシーを構築しなければならないが、しかしそこが弱い。(建築関連や都市計画上の私権制限の考え方などを包括する)法制度面でもそうです。」


――住宅の気密化を推し進めるあまり強制換気を建築基準法で義務付ける。まさに本末転倒。ポリシーのない法制度の典型です。

(巽) 「そうです。これでは換気機器メーカーだけが儲かる。いよいよ雑多になるわけです(笑い)」


――一方では、新しいミクロを積み重ねる試みも出てきました。

(金城) 「エネルギーの自給もそうでしょう。二月に地球温暖化防止の京都議定書が発行される予定ですが、住宅の環境性能の向上も考えていく必要がますま す高まってくる。その中で今最も有力だと考えているのが燃料電池(FuelCell=FC。燃料電池は座談会・気になる言葉⑤参照)。二酸化炭素 (CO2)をまったく排出せず、出るのは水だけ。エネルギー自給は電力市場の行方を考えると不可欠なものになると踏んでいる。価格もあと三、四年経てば一 基五十万程度のものが出るそうです。」「京セラが、発電効率四二、三%のもの燃料電池を開発しているらしく、その話を聞いたときは思わず『ウソやろ』と驚 いた(笑い)が、それだけ進んできたということです」「当社では今『まちなか未来住宅』造っている。次世代のシステムをどんどん取り入れた実験住宅で、京 都のまちなかでどんな住宅ができるのかを考えるためのいわば先行投資です。そこに燃料電池も試そうと。京セラの話はその研究の過程で聞いたものです。とに かくおもしろい時代が来そうです。こうした点も踏まえながら京都のまちづくりを考えていくべきではないでしょうか」

(巽) 「住み手(のニーズ)も多様化し、町家に住みたいという人も増えてきている。しかし、冬は冷えるし、町家が必ずしも住みやすいというわけではな い。でもニーズが増えているということは、性能が高く快適で便利であればいいという住宅に対する一方向だけの価値観には満足できない人が増えている証明で しょう。多少住みにくくても、京都の中でそして町家に住みたい。少々の不便も楽しむ。そうしたニーズが確かに広がっている。」「最高の性能確保を目指して 住宅づくりを行う。しかし、どこも同じものができる。これは一種のグローバリズムであると言えようが、それに反するように古いものに価値を見いだす、京都 の価値を再評価する流れも確実に生み出されてきています」「従って、京都のまちづくりを語るときには、性能や、利便性だけを積み重ねるのではなく、そこに 育まれた歴史・文化の集積を考えなければならない。そのうえで、まちづくりの方向性やポリシーを構築し、その実現に必要だと思われるコントロールも併せて 行い、実践していく。行政も遠慮せず、本当のまちづくりのあり方を考えて、それを貫く姿勢が必要でしょう」

――長時間にわたり、ありがとうございました。


まちづくり座談会・気になる言葉


① 京都の都市景観の再生に関する提言


歴史都市・京都の景観は近代建造物の出現で破壊されつつある。京都の歴史的景観の美を後世に向けて継承していくために、九八年、日本建築学会が中心となっ て「都市景観特別研究委員会」を設置、四年間の調査研究をもとに報告書を提出した。その成果を踏まえて国をはじめ各方面に、①ナショナルプロジェクトとし ての京都の都市景観の創造的再生②京都らしい都市景観のデザイン原理の解明③都市景観を育む生活・文化の継承と教育④都市景観を支える技術の継承と開発⑤ 市民のイニシアティブを生かした都市景観デザインの推進⑥京都景観研究センターの設置⑦急速に進む景観・環境破壊―の提言を行い、その上で具体策を打ち出 した。


② 京都市都市部の新建築ルール

京都市では近年、共同住宅の建設による日照やプライバシー阻害などの居住環境問題やまちなみ景観の喪失など大きな問題が発生している。
これらの問題に対応するため京都市では学識経験者からなる「京都市都市部のまちなみ保全・再生に係る審議会」を発足、同審議会の提言をもとに具体化した同 市独自の新建築ルール案を作成、平成十五年四月一日から施行した。同ルール案の適応区域は京都市内の都市再生の先導地区である職住共存地区(四条通・烏丸 通・河原町通など東西三本、南北三本の幹線道路沿い街区)。主な内容は①特別用途地区の指定②美観地区の指定③新しい高度地区の指定―など三つの新ルール により規制強化することでマンション建設を抑制し、京都の伝統的な町並みを保全するのが狙いだ。中でも、職住共存地区を新たに美観第四種地区に指定し、高 さが十二mを超える建物(新築・模様替えなど)には承認が必要としたほか、新しい高度地区の適応で隣地の通風や採光条件を改善するため隣地斜線制限を採 用。通りの景観を整えるため建物の高さの最高限度について、道路に面する高さとセットバックした絶対高さを段階的にさだめる項目を盛り込んでいる。これに よってマンションを建設しても採算が取れないなど、結果的にマンション建設が排除されている。


③ スケルトン定借

定期借地権の一種である建物譲渡特約付き借地権を活用、集合住宅の一戸分を百年間の長期耐用が可能な基本構造のまま供給し、間取り・内装・設備など住戸内 部(インフィル)を入居者自身が自由設計できるスケルトン(骨組み)方式と定借メリットを活用。さらに全入居者が集まってから事業化するコーポラティブ方 式も融合させ地主の経営リスクも回避する。この三手法の組み合わせで住宅を低価格で供給する一方、良質なストック形成を促進する手法として開発された。九 六年に茨城県つくば市で第一号が完成したことから「つくば方式」と呼ばれる。最大の特徴は、全期間を六十年としたうえで、建物譲渡特約に基づいて借地期間 を三十年とし、借地期間終了時に地主が建物を買い取り残り期間を借地経営するか、そのまま借地として経営するか選択できるようにした点が挙げられる。さら に、従来の一般定借と違って借地期間満了時の土地返還に伴う建物取り壊しを前提としないので、保証金が不要。三十年以降、地主の建物買取価格と入居者家賃 を毎月相殺する契約を締結するため、借家に移行しても月々の賃料は通常の賃貸マンショより割安になるメリットがある。建物修繕や維持管理コストの地主・入 居者間での負担ルールの設定や入居者による自主的な維持管理の仕組みも内包、長期にわたって建物の資産性を保ち、マンションで問題化しやすいスラム化も防 ぐことができる。つまり、持続性のあるマンションづくりが可能になる。関西では二〇〇〇年に都市コーディネーター、キューブが尼崎市で初めて事業化した。


④ 住宅性能表示

二〇〇〇年四月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の三本柱の一つ。住宅性能表示制度は国指定の評価機関により、住宅性能評価 書の交付申請によって行われる。(交付は設計と設計段階の二種類)。幾世代にもわたって快適に利用できる住宅づくり、時代の要請である良質ストック形成の 促進が狙いで、法全体で欠陥住宅の防止やアフターサービスの充実、消費者保護を制度化した。国の定めた性能表示項目は①構造の安全②火災時の安全③劣化の 軽減④維持管理への配慮⑤温熱環境⑥空気環境⑦光・視環境⑧音環境⑨高齢者等の配慮―の九項目。これらが等級数値別に評価される。


⑤ 燃料電池

従来の石油依存の経済から脱却するため、わが国でも広い分野で新エネルギー開発の取り組みが本格化している。中でも水素をエネルギーとする燃料電池の発電 システムの研究開発が進み、一部では燃料電池自動車や家庭用の小型燃料電池として実用化されている。燃料電池は「水の電気分解」と逆の原理で水素と酸素を 化学反応させて、電気エネルギーを作り出す仕組み。その特徴は①化学反応によって電気エネルギーを作り出し直接変換できるため、燃料の熱エネルギーを利用 する火力発電と比較しても発電効率が高い②廃熱利用が可能③水素と酸素が反応して発電した結果、水素と二酸化炭素を放出するが、従来の電気・熱を利用した 場合の発熱量と比較しても少なく、環境汚染が心配ない④水と水素を供給し続ければ発電機として利用―などあげられる。燃料電池は新エネルギーとして経済産 業省が中心となってその開発・実用化のために計画を立てて、各研究機関を支援している。



「出席者プロフィール」


巽 和夫(たつみ・かずお)さん

1962年(昭和37年)京都大学大学院工学研究科博士課程を修了、68年に京大工学部教授。93年(平成5年)同名誉教授。旧建設省住宅宅地審議会委 員、(社)都市住宅学会会長などを歴任し、現兵庫県住宅審議会、京都市建築審査会会長。住宅・まちづくり研究の第一人者で、「町家型集合住宅」(学芸出版 社)など著書も多数。日本建築学会賞、建設大臣表彰など。29年、京都府生まれ。


金城 一守(かねしろ・かずもり)さん

1981年(昭和56年)京都市北区にゼロ・コーポレーションの前身、京都住宅販売を創設、96年(平成8年)現社名に。大手住宅メーカーなどが踏み入る ことのできなかった京都・まちなかでの新築住宅事業に着手する一方、都市型住宅やまちづくりの研究開発にも取り組む。99年狭小敷地を対象にした新建築工 法「ゼロ工法」で大臣認可を取得。2004年に意欲作「北大路まちなか住宅コラボレーション」でグッドデザイン賞を受賞。
神戸市生まれ、56歳


天宅 毅(あまやけ・たけし)さん

89-96年(平元―8年)にリクルートコスモスで企画・設計監理などに従事。90-91年に竹中工務店への出向を経て96年、キューブを設立。神戸大学工学部建築学科卒、神戸大学大学院工学研究科建築学科修了。日本建築家協会会員、スケルトン定借普及センター委員。
京都市生まれ、40歳。


ゼロ・コーポレーション

1981年(昭和56年)設立。本社は京都市北区紫野上野町。資本金は8,000万円で、社長は金城一守氏。前期(2004年3月期)連結決算で売上高 128億円、経常利益9億円。今期(05年3月期)は売上高130億円、経常利益9億円を見込む。主な事業は、まちづくり・市街地の再生・高品質住宅の供 給など。
従来の建売住宅とは違う感性で地域とのかかわりを重視した街並みデザインを建売住宅に取り入れ、市街地再生や新しいまちづくりを次々に提案。同社が手掛け た代表的な案件「北大路まちなか住宅コラボレーション」は8人の建築家が手を組み、京風町家をイメージした団地に仕上がった。

キューブ

1996年6月設立。本社は神戸市中央区北野町。社長は天宅毅氏。阪神・淡路大震災で被災した当事者(天宅氏)として携わった被災マンションの建て替え・ 再建事業をきっかけに、自らコーディネーターとしてコーポラティブ方式を軸とするコンサルティングおよび事業計画、設計監理をおこなう。代表作「塚口コー ポラティブハウス」事業では関西で初めて「スケルトン定借」(つくば方式)の手法を導入したことでも知られる。
神戸市長田東地区復興まちづくり型分譲住宅設計コンペで最優秀賞を受賞。京都市のゼロ・コーポレーションの「北大路まちなか住宅コラボレーション」プロジェクトにも参加。

2012年12月3日月曜日

鳥取西町コーポラティブハウスモデル事業について



キューブがバックアップしてきた、鳥取西町コーポラティブハウスモデル事業に関して、11月末に計画戸数5戸すべての完成にあたり、事業者主催の竣工式が下記日程で行われます。

日時:平成24年12月9日(日)9時~9時45分
場所:事業地内
内容:事業者あいさつ、市長あいさつ、モデル事業銘板の除幕式、記念撮影


本事業は完成して終わりではなく、これからがモデル事業としての真価が問われる所です。
モデル事業としての成功は、これをきっかけとして民間所有地の事業が1つでも成功してはじめて成功と言えます。
その為には、この事業をモデルとして、地主向けフォーラム等の開催が必要であると鳥取市に提案しています。
その際には、一般地主が本事業を行った場合のメリットの説明を中心にする必要があります。
本事業を進めるうえで、鳥取市はファイナンシャルプランナーに相談したりしていたようですので、その方達に分り易くメリットをプレゼンテーションしていただくようなフォーラムが良いのではないかと考えています。
ランニング収益だけでなく、相続効果等も加味すれば、駐車場経営との比較でも競争力を持ちうると思います。
出来る限り様々な形でマスコミ等に働きかけて今回の竣工式典等をニュースにしてもらうことで認知度を高め、フォーラムへの参加誘導ができればと考えています。

大都市圏ではスプロールした街が縮小に向かう動きがすでに活発になっておりますが、鳥取市のような地方都市は今でもドーナツ化が進んでいます。最も大きな理 由は、中心市街地の土地所有者が土地を手放すことを忌避し、土地の流動性が著しく低下している事にあります。土地を保有し続ける中で行われているメインの 土地活用方法が駐車場経営ですが、車通勤の郊外居住者の利用に供されることで需要は旺盛で、そのことがドーナツ化をさらに加速させる要因ともなっていま す。
インフラ整備を含む行政サービスは街がコンパクトであるほど効率的で、スプロールして広がる程に非効率になります。このようにドーナツ 化が加速する状況は地方行政の財政を圧迫し、長く続く社会・経済状況の悪さとも相まって、国土交通省は将来支えきれなくなるのではないかという非常に強い危機感 を持っています。そこで、県庁所在地の中でも最も危機的な状況である鳥取市でモデル事業を行うことになったわけです。

昭 和40年代に全市人口の2割を占めていた鳥取市の中心市街地の人口は、平成18年には6%にまで落ち込んでいます。また、特に近年袋川以北で住宅が解体さ れ月極め駐車場化しており、平成15年から平成19年までの4年間で、約2haも月極め駐車場が増加しています。唯一の中心市街地居住に向けた受け皿で あった中高層の分譲マンションは地元からの反発も強く、工事費上昇等により事業環境も著しく低下している為、中高層の分譲マンションとは異なる中心市街地 居住に向けた選択肢が期待されています。それを担うことが本モデル事業の目標でもあります。

このような状況は、実は日本中の地方都市で進んでいます。鳥取市で成功させることができれば、すべての地方都市における中心市街地活性化に向けたモデル事業として展開することができると期待されています。

http://www.tanaka-kougyou.jp/coope.html