2013年6月19日水曜日

街なか居住のすすめ:17

「街なか居住のすすめ」を16回にわたって連載してきましたが、果たして街なか居住は住む人にとって魅力があるのでしょうか?
日本の街なかは、世界でも最も人口密度が高いと言われてきましたし、私たちもそうだと思ってきました。しかし、その実態はある意味正しく、ある意味正しくありません。



これは、約20年近く前に、あるシンクタンクがまとめた人口密度と圏域距離の相関図です。
この図を見ると、東京の都心4区の人口密度は、ほぼ同面積のマンハッタンやパリ市よりも大幅に低く、その外周圏域の人口密度は、逆に東京圏よりもニューヨーク都市圏やパリ首都圏の方が低くなり、東京では周辺部から都心部に通勤している状況が確認できます。
昼夜間人口比も、東京都心4区では6.2、マンハッタンでは2.3、パリ市では1.4と、東京が突出して昼間人口に対して夜間人口が少なく、この状況を裏付けています。

東京都心部に、かなりの人口流入がおこっておりますが、大きく見ると、約20年前のこの状況が変わるほどには至っていないのが現状ではないかと思います。

このように、広域で考えると東京の人口密度は非常に高いものの、都心部だけを見ると、世界の大都市に比べて人口密度は低いという事がわかります。マンハッタンやパリに行くと、都心部に多くの人々が居住していることが実感できます。そして、都市としての歴史の中で、これだけの人口密度を支えつつ、快適に暮らすことのできる文化が成熟している事を実感します。日本の街なか居住は、まだその魅力を十分に感じることができない段階なのかもしれません。

高度経済成長時代、都市への急速な人口流入に伴い、街なかの住環境は急激に悪化しました。それを解消するための方法として、街なかを高度利用する方向ではなく、公共交通機関を整え、通勤する方法で住環境の改善が図られました。

そのことにより、今でも私たち日本人は郊外に住んで街なかに通勤するのがあたりまえであり、街なかに居住するというのは特殊であるというような感覚を持っています。しかし、日本は伝統的に人口密度の高い都市において、すぐれた住環境を確保してきた歴史を持つ国です。明治維新以前の江戸や京都は世界最大でかつ最高密度の都市であり、その都市では多くの市民が居住し、働いており、さらに来日した外国人が目を見張るほど、良好な住環境を整えていました。むしろ、郊外から通勤する職住分離のライフスタイルの方が、近代以後に定着したものであり、本来私たち日本人が長い時間をかけて継承・熟成してきたものでは無いのです。

私自身、兵庫県の県庁所在地である三宮のターミナル駅から徒歩圏で計画したコーポラティブハウス、アンビエンテ北野に約10年近く住み、働いてみ て、街なか居住の魅力を実感しています。日本では、まだ多くの人が、郊外住宅地に住んで公共交通機関を利用して通勤するのがあたりまえだと考えていると思い ますが、実際に街なか居住をして感じた魅力を少しでもお伝えする事ができればと思います。

アンビエンテ北野


何が魅力か?
一言で言えば日々の生活が楽しいということです。
この楽しさは、一度でも街なか居住をしてみないと、なかなか実感できないものかもしれません。


まず、徒歩圏内においしいレストランや、洒落たバーが無数にあります。
おそらく、人生の中ですべての店を回りきることは不可能でしょう。
ミシュランに掲載されている店だけでも20件以上あります。
食事に行って、お酒を飲んでも、家まで歩いて帰ることができます。
街なか居住を経験してから住宅地に住んだことがあるのですが、あまりに楽しくないのに驚きました。
家族で食事に行くにしても、車で行くとなると飲酒はできません。
なかなか家族で電車に乗ってまで食事に行く気がしません。
結果、都心居住していた頃は頻繁に行っていた、家族で外食する事はほとんどなくなりました。
その頃から、もう一度街なかに居住したいとう思いが募り、アンビエンテ北野に取り組む際の原動力になりました。

街なか居住は買い物や通学、通勤に便利なのはもちろん。
人生で移動に費やす時間を大幅に減らすことができ、その時間を余暇に回すことができます。
徒歩圏にジムや映画館もたくさんあり、少しでも時間ができた時に気軽に利用する事ができます。
図書館や美術館、博物館等、様々な文化施設等に行く頻度も高まっています。

住んでみて意外だったのが、とても静かであることです。
アンビエンテ北野は、北野町の高台に位置するので窓から三宮の街並みが一望できるのですが、街の喧噪が一切聞こえません。おそらく暗騒音は高いと思うのですが、暗騒音のマスキング効果かどうかわかりませんが、夜になっても街の喧騒が全く聞こえません。住宅地に住んでいた時に聞こえた、遠くで鳴る救急車等のサイレンの音も聞こえません。

ある程度の喧騒は覚悟していたので、これは非常に意外でした。
逆に、山が近いので、朝は野鳥の声が街を覆います。
最初はどこかで野鳥の声を録音して放送しているのかと感じたぐらいです。
実は、本当に野鳥が住まいの周りまで来ていました。
これほど自然を身近に感じることができるとは、全く期待しておりませんでした。

また、地域活動が活発である事にも驚きました。
神戸は明治の開港以後開けた、150年程度の歴史の街ですが、北野・山本地区という異人館街の住民は土着性が高く、戦前から住まれている方も大勢おられることを知りました。
神戸の住宅地は基本的に戦後発展した所が多く、住宅地に住んでいる時にはマンション等に住む新しい住民ばかりが見えていたのですが、街なかに住むと、長らくこの町に住まれている方々とのつながりがたくさん生まれました。大都市の中心地なのに、まるで田舎に引っ越してきたかのようなこの感覚は、全く期待していたかったものですが、とても住み心地のよいものだと感じています。

明治の開港以後開けた街で、元々住まれていた方がほとんどおられなかったという事もあるのでしょう、住まれている方々が社交的で明るいのも特徴的です。外国人も非常に多く、神戸に土着化している外国人も多いので、多様性があたりまえのような感覚があります。地域内に神社やお寺だけでなく、イスラム教会、ユダヤ教会、カトリック教会、バプテスト教会、東方正教会、ジャイナ教会他、様々な宗教施設が仲良く共存しています。この事が、この地域への外国人の土着化を促進しているのかもしれません。

外国人だけでなく、日本人も含めてライフスタイルも多種多様です。新興住宅地では、大企業会社員等、偏った属性の人々が集まる傾向があります。一気に街ができることで入居者の世代も偏り、結果として居住者とともに街が老いていくような状況が生まれます。しかし、街なかには様々な世代、様々な仕事をしている方々が住んでいます。この事で生まれる多様性も、他者を受け入れるおおらかな価値観に繋がっているのかもしれません。

さらに、どこに行くにしても交通利便性は至便です。
新幹線の新神戸駅にも歩いていく事ができます。
三宮駅には、JR、阪神、阪急、山陽、地下鉄様々な電車が乗り入れています。
神戸空港も近く、車で行っても2日間無料の駐車場が便利です。
阪神高速道路にも近く、新神戸トンネルを経由すれば山陽道や中国道にも出る事ができます。
これ以上、求めようが無いほど利便性に恵まれており、行き先に応じて選択することができます。

夜でも人が出歩いているので怖くありません。

女性の一人歩きも全然大丈夫です。
むしろ、住宅地の方が、夜になると道から人がいなくなるので怖いと思います。
セコム等セキュリティ会社に入っている家も多いので、警備員が巡回しており、何かあるとすぐに飛んできてくれるのも安心です。

大人の目にさらされるからでしょうか、夜のコンビニで子供を見かけることもありません。
いわゆる繁華街の中であれば別でしょうが、繁華街以外では、健全な環境が保たれているように思います。


また、驚くほど山にも近いです。
北野町の登山口に足を踏み入れると、途端に峡谷になります。
登山道を経由して、布引の滝や市章山・錨山、様々な所に行く事ができます。
まさか、こんな街なかに住みながら、徒歩でハイキングに行く事ができるとは思っていませんでした。

私はこの街に住んで、本当によかったと感じています。
キューブでは、今後とも継続して、この地域でコーポラティブハウスを事業化したいと考えています。
現在も、アンビエンテ北野、ル・パッサージュ北野につぐ、第三弾目となるコーポラティブハウス、神戸北野山本通コーポラティブハウスⅡの参加者を募集しています。

街なかに住むのは本当に楽しいです。
この楽しさを、もっと多くの方々にも知って頂きたいと考えています。

是非、街なか居住を一度経験してみてください。
今後もキューブは街なかでの事業化にこだわり続けます。


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