2014年3月7日金曜日

1000年集合住宅第2弾プロジェクト

昨年、敷地全体を一団地とし区分所有法で管理することで、統一感のある街並みの維持と時代の変遷に応じた 変化が両立する環境を整える、「1000年集合住宅」の考え方を取り入れた嵯峨二尊院プロジェクトに取り組みましたが、街なかで同様の手法を取り入れ た第二弾プロジェクトが完成しました。

今回は、我々は直接事業には関与せず、企画の時点で「1000年集合住宅」の考え方を伝えるだ けでしたが、京都大学 高田光雄研究室の基本設計により、郊外型の嵯峨二尊院プロジェクトとは異なる魅力が引き出されているのではないかと思います。

「1000 年集合住宅」は、従来の集合住宅の持つ限界を打ち破る、大きなポテンシャルを秘めていると思うので、これからも大事に育てていきたいと考えています。

http://www.zerohome.jp/higashiyama/index.html

2014年3月6日木曜日

スケルトン定借について:2

前回に引き続き、平成11年に大阪ガスが発行する「ハウジングトレンド」という雑誌で2回にわたって紹介された記事の後半をご紹介させて頂きます。(スペースの都合上、図表は割愛しております。また、記載されている肩書き等は当時のものです) 

スケルトン定借は、日本の集合住宅が持つ宿命に正面から向き合い、これを仕組みとして乗り越えようとした果敢で意欲的な取り組みであり、この記事から10年以上経ちましたが、本質的な部分において、その価値は今なお全く損なわれていないばかりでなく、これから未来に向けて考えるべき重要なテーマを提示していると感じています。

現在、キューブで取り組んでいるプロジェクトは、スケルトン定借に関わることから学んだことを様々な形で取り入れており、本質的な部分では、コーポラティブハウスへの取り組みや、「1000年集合住宅」のコンセプト構築にもつながっています。


ハウジングトレンド No.145

特集・スケルトン定借(つくば方式)2

■第3弾へと続ける必要があるほどスケルトン定借はおもしろい

特集・スケルトン定借の第2弾である。今回は一般定借とスケルトン定借( 建物譲渡特約付定借 ) の違いに焦点を当て、スケルトン定借の事業の本質を解説した。併せて関西第1号の「塚口コーポラティブハウス」と同第2号の「芦屋プロジェクト」 ( 仮称 ) を紹介している。
実はこの特集を第3弾へと続けたいと思っている。2回の特集ではなんとなく尻切れで終わりそうだからだ。スケルトン、ス ケルトンと連発しながら、肝心の躯体構造に話がおよんでいない。例えば、インフィル(間取り・内装設備等)と分離するためにスケルトンをどのように設計す るのか、給排水パイプ、配線をどのようにするのか、など知りたいことは山ほどもある。幸い、住宅・都市整備公団がKSI住宅(公団型スケルトン・インフィ ル住宅)の実験棟を公開した。大手ゼネコンでもスケルトン住宅の研究が進んでいる。それも詳細に知りたい。あるいは、インフィルをどのようにコーディネイ トするのか、インフィルだけの専門業者はいるのか、などの情報もほしい。近い将来に、こうした内容の特集を組みたいと思っている。

■スケルトン定借は都心に長く住み続けつことを可能にする住宅システム

おもしろいと思う理由の第1は、少子高齢化という社会情勢を背景に都市(むしろ都心)回帰をどのように実現さ せるかとい う問題に挑んでいることだ。その最大の問題を解決するには、「都心に、一般の人が住むことが出来る住宅用地」を発生させる必要がある。そのために一般定借 以上に地主にメリットがある「建物譲渡特約付定借」が考案された。
第2の面白さは、長く住み続けることが出来る集合住宅をハードとソフトの両方で考えつくしている点にある。ライフサイク ルの変化に対応可能なインフィルの自由度と100年耐用のスケルトンが、ハード。ソフトは、管理(メンテナンス)の仕組みである。集合住宅は「管理を買 え」とよく言われるが、その管理だ。30年後に借地から借家へ権利変換されるスケルトン定借のシステムが、管理の手抜きを許さないのである。そこが一般定 借と決定的に異なるところだと言える。

■都心のまちづくりを推進するためにもスケルトン定借

さらに、おもしろさがもうひとつある。ちょっと断っておくが、「おもしろい」は関西弁に直すと「おもろい」である。言う までもなく、「おもろい」には敬意がこもっている。前号で紹介したが、住宅金融公庫大阪支店の竹井隆人氏が推進している「大阪まちづくり研究会」という存 在である。今春以降は、同組織は「スケルトン定借普及センター」へと拡大発展していくそうだが、スケルトン定借の可能性をまちづくりという視点から捉え直 した功績は大である。
今後の重要な課題のひとつは、郊外に分散した人口を都心部に呼び戻す都心居住の推進である。スケルトン定借は、その都心のまちづくりと都心居住を推進し、また地域コミュニティを増進させる期待がもてる住宅システムでもある。


スケルトン定借の事業化が進展すれば、不動産ビジネスの発展は大きく様変わりする

本誌の前号(No. 144) では、スケルトン定借の仕組み、地主・入居者双方のメリットについて詳述した。しかし事業化という視点に立っての説明がいまひとつ十分ではなかったので、 本特集ではその面からの考え方、本質を正しく見極めていただくための着眼点を整理したいと思う。そして、併せて具体的な参考資料として、関西第1号プロ ジェクトの事例を紹介することにした。
なお、スケルトン定借は、前号でも詳しく述べたように、関西では住宅金融公庫大阪支店が主宰する「大阪まちづくり研究会」が先頭に立って普及促進に取り組んできた。その事務局を担当されている企画広報課の竹井隆人氏(つくば方式の共同開発者の一人)のご協力とご指導を得て本記事もまとめているが、なお不明な点があれば、直接ご相談されるとよいと思う。

●スケルトン定借の最も重要なポイントは、30年後の権利変換にある。
それがスケルトン定借の可能性を決定づけるキーポイントなのである。

本誌前号(No. 144)のスケルトン定借の仕組み図をもう一度ご覧いただきたい。
建物は最初の30年間は入居者の所有であるが、その後の30年間は地主の所有となり、入居者はそれを賃貸する立場に変わる。強いて言えば、半ば強制的に権 利を変換させている。この意図するところが正しく理解されないかぎり、スケルトン定借の本質は見えてこないのである。
先にお断りしておくが、スケルトン定借(つくば方式)のシステムが、これまではコーポラティブタイプでの実験的な取り組 みを先行させてきたために、主眼がコーポラティブにあるかのような印象を与えているかもしれない。中には、コーポラティブだと聞いただけで後ろ向きになっ てしまった人もいるかもしれないが、そうではない。
論旨の混乱を避けるためにあえて付言しておくが、コーポラティブにするか建売にするかといったことは販売手法レベルの問 題であって、スケルトン定借の仕組みそのものとは別問題である。コーポラティブタイプはその応用展開としてのひとつの取り組み例であって、これにこだわっ てしまうと、スケルトン定借の理解に混乱をきたすことになる。
また、スケルトン定借システムのメリットが地主にとっても入居者にとってもあまりにもたくさんあるために、とかく取っ付きやすい内容ばかりが強調されてきたきらいがあったことも、業界での理解を分かりにくくしてしまったということもあろう。
たとえば、自由設計であること、分譲よりも安く取得できることを前面に打ち出して、これまでの分譲と賃貸の中間的なコス ト負担で取得できる住宅だというようなアピールは、スケルトン定借の可能性の一側面しか伝えていない。それだけのことなら「定借のコーポラティブ」でいい ということになる。スケルトン定借である必要はないわけである。

60年間の定借との違いはどこにあるのか。なぜ30年後の権利変換が必要なのかを、もっと明確にしておく必要があるようだ。地主にも入居者にも、権利が変わっていくことの意味を十分に理解してもらわなければいけないと思う。

●ではなぜ、このシステムでは30年後に強引に権利を変換させようというのか。これは、これまでの住宅供給方式への新たな問題提起として受けとめるべきものである。

ポイントは大規模修繕の問題である。今日、集合住宅における区分所有者の合意形成を前提とした大規模修繕は、非常に無理があることは誰もが認める所であろう。阪神大震災でも、合意形成の難しさはすでに経験済みである。
一般定期借地権付き集合住宅においても、事情は同じである。仮に60年という期限がついていても、60年間何も手を加え ずに住み続けることはできない。ましてや昨今では、集合住宅への永住志向はいちだんと顕著になってきている。転売して、そうした問題から逃げ出すわけにも いかない。

要は、建物を長持ちさせる維持管理の問題をどうするかということである。これは入居者の問題であるが、供給サイドでの抜本的な解決策が打ち出されないかぎり問題は解消しない。
分譲マンションでは築20年を過ぎると建物が老朽化して、一気に賃貸に出されるケースが多くなるという。特にバブル以後 は転売が難しくなっているからであろう。そういう賃貸比率の高い所では、修繕資金も思うように集めることはできない。自分が住んでいないから、借りてくれ る人がいればそれなりの対応でいいということになってしまう。震災後は分譲だけでなく賃貸市場もたいへん値崩れを起こしているため、貸している人は、賃料 が下がっている中で、修繕積立金を積み上げて修繕する必然性をそう簡単に認めたくない。となると、4分の3以上の合意などということは、ほとんど困難に なってくる。
こうして合意形成ができない所は、次第にスラム化に近い状態に追い込まれていく。誠意ある積極的な修繕促進の意図を持つ入居者にとって見れば、たまったものではない。
60年の一般定期借地権付き住宅では、60年に近づくつれてどうせ取り壊すのだからという考えが先に立って、維持管理にも次第に力が入らなくなっていく。これまたスラム化への道を歩むことになる。これが区分所有権というものの限界なのである。
余談だが、今日、特に関西では一般定借マンションは、安くていいということばかりが強調されているように思うが、これは 問題である。住宅金融公庫の竹井氏も、「定借マンションは本来、安ければいいというものではないはずです。期限が限定されキャピタルゲインが発生しにくい のですから、永住型を志向し、建物のグレードを高める必要があると思います。」と、ディベロッパーに警鐘を鳴らされている。いまのような考え方では、一般 定借マンションを転売するなどということが、難しいのは当たり前である。

●スケルトン定借は、こうしたこれまでの集合住宅がかかえている問題を、解決するひとつの方法として開発されたものである。

まず、30年後に建物の所有権を借家権に変換させることによって、区分所有の持っているしがらみを断ち切っているということ。つまり、本来の区分所有に伴う相互間の信頼関係をベースとした合意形成による維持管理を、この時点で終わらせている。
大規模修繕も含めた維持管理を的確にできるようなシステムになっており、それが守れない場合は30年後の建物の買取り価格に反映させて、30年以後の家賃にもそれがそのままはねかえってくるようにしたのである。
こうすることによって、維持管理を徹底させ、建て替えなどしないで、大規模修繕を乗り越えさせて、そのまま補修しつつ使 い続けていく。この仕組みを地主にも入居者にも確認してもらって、納得してもらったうえで、スケルトン定借事業をスタートさせる。そうすることによっては じめて、設計的に100年もつ建物をつくることがソフトにも反映されて、運営されていくと考えられているのである。
100年住宅というハードをつくること自体は難しいことではない。しかしハードだけでなく維持管理を健全にしていくため のソフトが連動しないことには、本当に100年もつ住宅はできるものではない。それを乗り越える方法論が必要なのである。スケルトン定借の開発意図はまさ にこの点にあるのである。

●一般定期借地付のマンションは、今日かなり普及してきてどうにか市民権を得たところまできた。その一般定借とスケルトン定借を比較した場合、どういう違いがあるのか。

スケルトン定借では、本誌の前号で詳しく述べたように、30年後の建物譲渡特約付き 定期 借地権という位置づけをしている。 一般の 建物譲渡特約付借地権では、60年後に借地権は消滅するが借家権は消滅しないということも説明した。この場合は、60年以後は一般市場家賃による賃貸住宅経営は可能になるけれども、実質的には土地は返ってこないことになる。
それはともかくとして、単純に、建物の所有権は一般定借では60年、スケルトン定借では30年と考えてしまうと、入居者の権利が少なくなったと勘違いしてしまうことになる。
そうではないのである。仮に60年の定借にしても、実際には60年も住み続けることはできない。入居者全員の意識が高く てきちんとメンテナンスを続けていけば住めるかもしれないが、60年後に自分のものでなくなる、あるいは取り壊してしまうものに、だれがきっちりとメンテ ナンスをするというのか。たとえお金をかけてもメンテナンスしたことに対するインセンティブがなければ、人のためにお金を払う人はいないはずである。
スケルトン定借では、最初の30年間のメンテナンスにお金を払う人には、メリットが発生する仕組みになっている。30年 以後の家賃にはねかえってくるので、それがインセンティブになる。次の30年については、地主は60年以後にも建物は十分使えるわけだから、その先行きの メリットを考え地主の意志でメンテナンスに費用をかけることになる。つまり、スケルトン定借は、メリットを享受するものに修繕義務があるようにしたシステムだということができる。

●こう考えてくると、このスケルトン定借が、これまでの普通の分譲と同じように事業化に取り組むことができて、なおかつ、新しい住宅供給方法として大きな可能性を内包していることが分かる

長期スパンでのライフステージの変化を考えると、間取りの自由 度ということも考慮しなければいけない。しかし、最初の入 居時点でどれだけプランの自由度が与えられるかどうかということは、たとえ完全なコーポラティブに近いところまでの自由度がなくても、将来の住まい方の変 化に対応していけるだけのハードが当初に用意できていれば、建売タイプでも十分にスケルトン定借は成立する。そういう意味で、もっともっと数多くのディベ ロッパーにも、その可能性を真剣に探ってもらいたいものである。
何といっても長期間、100年はもつ高耐久性の集合住宅を建てるという考え方は、街づくりにも大きくかかわってくる問題 だけに、ディベロッパーに大きな期待がかかっているといっていい。その本格的な参入があってはじめて、スケルトン定借にももっと磨きがかかり、普及が促進 され、街が変わっていくのである。
このシステムはおそらく、今後、地主やユーザーの集合住宅への考え方を大きく変えていくことになるだろう。20年くらい 住めればいいというような入居者意識も変化していくだろうし、地主も定借への不安を払拭していくものと思われる。そして両者が変わっていくことによって、 全体としてもいい方向に進んでいくのではないか。その意味において、少し大げさに言えば、不動産ビジネスの発想そのものが大きく様変わりするような気もす る。いや、そうあってほしいと思う。
とにかく、今までは建物が減価償却していくスピードがあまりにも早すぎた。このシステムなら、維持管理レベルをかなりハ イレベルに保つことが期待できるだけに、長持ちする建物が可能になる。賃貸マンションにしても、これまでは地主の相続対策ということで、短期間で償却でき る建物のほうがメリットが大きかった。次から次へと借入金を起こして建てたり壊したり、これではあまりにももったいない。
やはり、社会的にも本当に価値のある集合住宅にしようと思うと、スケルトン定借のような発想があってはじめて可能になるのではないだろうか。

スケルトン定借の意図するところを表面的にしか見ていないと、「販売が難しそうだからやめておこう」というような印象を 持たれるかもしれない。権利変換についてもマイナスの受けとめ方になると、権利がたいへん小さいように感じて、これなら一般定借よりももっと安くて当たり 前という感想を持たれるかもしれない。
それが間違った受けとめ方であることは既に見てきたとおりである。一般定借と同じ仕組みでつくっていくわけであり、価格 も一般定借なみで、地主としても入居者としても同じような負担割合になっている。それでいて双方にメリットになる形でメンテナンスが行われ、これまでの供 給方式ならゼロ以下の価値評価になってしまう建物を、より長くプラスのストックとして残すことができる。それがスケルトン定借なのである。
そういう意味では、このスケルトン定借は、公共団体や半ば公共的な民間企業の社有地における事業化にも、積極的に活用できるシステムと言えるかもしれない。

●地主にも入居者にも、なぜ権利変換をするのか、その意図するところを十分に理解してもらう必要がある。

地主と入居者には何をアピールしていく必要があるのか。具体的なメリットについては本誌の前号で詳しく述べているのでそれを改めて復習していただくとして、本質的なところをいまいちど確認しておきたい。
一般定借で地主が懸念していることは、契約終了時点で建物を解体できないかもしれないということである。最後の10年くらいになって、一気にスラム化が進 むのではないかとか、占有者が居座って排除できないことがあるかもしれない、といったことを心配している。
先に延べたように、確かに契約上では土地が確実に返ってくることになっているが、居残った占有者を追い出せるだけの強制 力がどれだけあるかということは、非常に微妙な問題である。だから地主は、土地が返ってこないのではないかという不安を持つのである。確実に返ってくると 信じていないのである。だから、土地が出てこない。
スケルトン定借は、その点、最終的に確実に戻ってくることが納得できるシステムになっている。入居者の区分所有権は30 年で断ち切られて、それ以後は借家だから、権利関係としては大変クリアな状態になっている。所有権の売買が前提にならないので、占有者との紛争が起こる可 能性が少ない。
それになにより、スケルトン定借は、建物を壊さないことに意義がある。60年後には土地は優良な建物つきで返ってきて、それをまだまだ利用できるようにしているシステムだから、非常に理解しやすい。
一方、入居者の立場ではどういうことが言えるのか。一般定借の場合は、60年後に一気に資産価値ゼロということになるので、それを考えると、家の維持管理に費用をかけるのも次第にばからしくなって、居住性が悪くなるということも考えられる。
しかしスケルトン定借では、段階を踏んで地主・入居者ともに納得しながら維持管理に費用をかけ、それ相応のメリットがあるから、ライフスタイルに合わせて、あるいはライフステージに合わせて、快適な生活を営むことができる。
しかも、所有権のある最初の30年間も、それ以後の借家としての30年間も、実質的に負担はほとんど変わらない。借家に変わってはいても、一般的な借家と違って、家賃は相殺されるし、リフォームも自由にできる。そして30年間の利用権が約束されている。
登記上の名義の位置づけは借地から借家に変わるため、何となく権利が減ったような印象を受けるかもしれないが、住み続けることには何ら支障はないのである。
また、一般分譲マンションや一般定借マンションとの比較で言えば、大規模修繕の合意形成に伴う煩わしさがない。そういう心配をする必要がないということである。

●事例研究①/塚口コーポラティブハウス

基本計画の公開コンペで、土地を100%失わない等価交換による定期借地権設定プランが当選!(提案企業:株式会社キューブ)

○従来の賃貸住宅と競合しないからという地主の考え方

さて、いよいよ本特集のテーマである事例研究に入るわけであるが、最初に紹介する「塚口コーポラティブハウス」(仮称)は、関西第1号のスケルトン定借(つくば方式)、純然たる民間のプロジェクトとしては全国初ということになる。
塚口コーポラティブハウスの建設予定地は、神戸と大阪の間、阪急塚口駅徒歩4分という最高の立地。買物にも便利で、住みやすさでは評判の閑静な住宅地にある。
地主は、他にも隣接地で2棟の賃貸住宅を経営されているが、氏との出会いを公庫の竹井氏は次のように話しておられる。
「H10年3月、公庫主催のスケルトン定借による土地活用公開シンポジウムにお誘いしたら、たいへん関心をお持ちになっ て、すぐに土地を提供してもいいというご返事をいただいたわけです。ご子息が医院を開業される予定もあるので、それを加味したプランにしたいということで した。私は早速、簡単なシミュレーションをしてこれくらいの収支になりますというような話もしましたが、そういう収益性とか相続対策ということ よりも、“安定した経営”を第一に考えておられたようです。」
そこでまず、地主に直接お会いして、そのあたりの事情とスケルトン定借についての印象をお聞きしてみた。
「同じような賃貸住宅にすると競合もしますし、何かいい土地活用の方法がないかと考えている時にお誘いを受けたんです。 スケルトン定借とはどういうものかを知って、おもしろいなと思いました。30年で権利変換が行われて、地主はそこでもういちどの選択の余地が残されている そうですね。といって、それで決めたわけではありませんが…。
今回はコーポラティブタイプということで、入居者が自分の好きなように設計できるということや、高耐久性の建物ができる ということ、それに、先にも言いましたように、これなら他の賃貸住宅とも競合しないだろうといったことを考え合わせて、スケルトン定借にしようと決めたの です。」
増田氏は、土地というものはできるだけたくさんの人に利用していただくべきものだ、という考えをお持ちになっていた。竹井氏はそれを知って、スケルトン定借をより多くの人に知ってもらうためにも、できることなら基本計画選定のコンペを公開にしたいと考えたという。思い切っ てお願いしたところ、快く承諾して下さったとのこと。その結果、のちのパブリシティ効果は大きなものとなり、スケルトン定借の啓蒙にたいへん役立つところ となった。

○スケルトン定借への地主の期待と不安

塚口コーポラティブハウスにおける全体設計および収益計画を選ぶ公開コンペは、H10年8月29日に行われた。参加企業は、キューブ、ヘキサ+アタカ工業+金山工務店JV、佐藤工業の3グループである。
このコンペの運営は、大阪まちづくり研究会が行っているが、どの提案を選定するかはあくまでも地主の問題だ。コンペの印象を地主は次のように語っておられる。
「皆さん、すばらしいプランをご提示下さって感謝しています。その中で一番印象の強かったのは、キューブさんのご提案 で、友弘会計事務所さんとタイアップした計画が財務的に有利だなと思いました。とてもよく工夫されたプランだったと思います。他社さんのは通常の預り金方 式でした。
キューブさんは震災の建て替えなどで煩わしいことをいろいろ経験されてきたという実績があることや、管理も管理会社に業 務委託してくださるというので、お任せしようと思ったのです。私にとっては、スケルトン定借は初めて経験する方式ですし、普通の賃貸住宅と違って予期せぬ トラブルも起こるかもしれないという不安もありましたから…。」

その後のスケジュールについては図表3の通りだが、公庫の的確な支援がすべての面で行われており、社会的にも大きな意義を持つスケルトン定借を、軌道に乗せようという意欲の強さが感じられる。
以下、事業化の経緯を紹介していくが、その前に、スケジュールの5月20日のところに記載している「事業参加の条件書」について、少し説明しておきたい。
これは、大阪まちづくり研究会の参加企業の、いわば申し合わせ事項を取りまとめたものである。公庫の支援を多分に受けて いることでもあり、コーディネイト費用を抑さえ、その利益分を入居者メリットに還元できるようにするため、事業決定した場合には、入居者より徴収するコー ディネイト費用は総事業費(建築費+ 実勢地価の20%)の5.5% + 広告実費とし、設計費用は建築費の9%以内とすること。また、つくば基金として総事業費の 1.5 %を供出することなどを定めている。この点を踏まえて、事業費等を参考にしていただきたいと思う。
また、この研究会事業は、コーポラティブ方式により公庫の個人共同住宅建設資金融資の適用を受けることを条件とするということも、この申し合わせ事項の中にうたわれている。

○立体買い替えの特例を利用した財務的なユニークな提案

さて本論に戻って、「塚口コーポラティブハウス」基本計画コンペの当選案の内容を見ていくことにしよう。株式会社キューブの代表取締役天宅 毅氏に、参加に至るまでの経緯と企画のアピールポイントを伺ってみた。
「私どもキューブは阪神大震災後に設立したまだ新しい会社です。被災地の長屋などの共同再建をコーポラティブでやったり している中で、住宅金融公庫の竹井さんにいろいろとご相談に乗っていただいたりしていたのですが、私どもの財務的な新しい提案に関心を持たれて、その話を 大阪まちづくり研究会でぜひ紹介してほしいという話になり、それがきっかけで研究会に参加させていただいたのです。
なにしろ震災では、様々な矛盾が一気に顕在化して、問題点がいっぱい出てきましたからね。通常の対応ではどうにもならな い。借地や借家等の入り乱れた、様々な権利関係を解消する方法論が必要でした。私どもは具体的な案件において、その方法論をいろいろ研究していました。例 えば、土地における< つくば方式 > みたいなものを考えたりして、竹井さんのところへ相談に行っていたのです。
コンペに参加するにあたっては、一般的な定期借地権事業では収益性は低いので、ひと工夫して収益性の高い安定感のある事業にしないことには興味を持っていただけないだろうと考えました。
私どもは、定期借地についてはかなり以前からいろいろ研究していました。当社の顧問でもある友弘正人公認会計士事務所と いっしょに、これまでにもいろいろな商品開発をしております。そんな中で今回の塚口コーポラティブハウスのコンペで打ち出したのが、等価交換による定期借 地権設定プランでした。従前の土地の評価の2 分の 1 を超える権利金を発生させれば等価交換の対象として認められて、立体買い替えの特例が利用できる…というところに着目したものです。第三者に貸す定期借地の権利金と、 1 階に設ける医院(店舗床)の建築費とを等価交換する方法です。
この方法なら一般的な等価交換と違って、土地を失うことがありません。60 年 後には土地はまるごと建物付で返ってきます。全部自分のものになります。しかも、医院開業のための店舗床も無償で取得できることになりました。こんなにう まい話はありません。自信はありました。ただ、この等価交換の方法は、事例も少ないため、再三、税務署と相談しながらやりました。この事業は、私どもと会計士事務所と不動産鑑定士の3者がチームを組んで、それぞれの知恵をつなぎ合わせてはじめて実現できたもので、それぞれが単独で事業を組み立てていてはと てもできなかったと思います。
それから、私どもはこのコンペの提案の中に、スケルトン定借という新しいシステムを地主さんが採用されるについては、い ろいろとご不安も多いだろうと考え、安心していただくために、管理を管理会社に委託するご提案をしています。その方が、バランスの取れたコミュニティを継 続させることができる、という考えもあったのです。」

○建築費の上限を決めた、前例のない施工会社選定コンペ

このスケルトン定借ではスケルトンとインフィルとが別々に、供給が2段階になっている。また、コーポラティブ 方式なの で、入居者による建設組合が主役となる。しかし、素人集団でありすべてに対応するには無理があるところから、スケルトンに関しては地主が、インフィルに関 しては入居者が、それぞれ事業コーディネーターといっしょに検討し決定することにしている。したがって、施工企業の選定コンペも大阪まちづくり研究会に よってセットされているが、選定はあくまでも入居者がすることになっている。
塚口コーポラティブハウスでは、施工会社を選定するにあたっても、前例のない方法で行われた。建築費の上限を提示し、建物の高耐久性と将来的な設備の更新性についてのノウハウを競うというものである。
事業コーディネーターとしての立場から、天宅氏は次のような考え方を述べておられる。
「施工価格の上限を決めての施工会社選定コンペというものも前例のないことですが、あれはあれで意義があったのではないでしょうか。
私どもとしては、あの予算の範囲内でできるだけたくさんの提案を施工会社から出してもらったほうが意味があると考えたのです。高耐久性の技術とかその問題 点、あるいはメンテナンスに関しての経験や情報量では、施工会社の方が圧倒的に強いわけですからね。」
施工会社選定コンペで当選した不動建設は、こういう考え方をどのように受けとめていたのだろうか。神戸支店営業部長・永田洋之氏に伺ってみた。
「前例のないコンペでしたから各社一様に戸惑いがあったようですね。しかし、設計事務所さんが方向性を出されて建築費の 上限も決まっているわけですから、私どもとしてはむしろやりやすかったですね。あとは条件として出されている建物の高耐久性、将来的な設備などの更新性に ついて、どれだけ行き届いたものにできるか、そしてなおかつ、判断される素人の入居者の皆さんに、それをどれだけ分かりやすく説明できるかが問われている だけですから…。
提示された建築費は厳しかったですけれども、いいものをつくろうという意味では、これもひとつの方法かなと思います。私 どもとしては、関西の第1号、民間では全国初となるスケルトン定借のプロジェクトをやらせていただいただけるのは意義深いことだと受けとめています。本社 でも神戸からこういう案件が出てきたことに、驚きつつも注目しているようです。これを機会に、スケルトン定借をじっくり勉強させていただこうと考えています。」

○コーポラティブにおけるプランの自由性と価格設定の考え方

今回のスケルトン定借は、コーポラティブタイプということで、プランの自由性が強調されているが、販売価格はどのように設定されているのだろうか。天宅氏に伺ってみる。
「当初に分譲マンション並みの仕様で総額を想定し、それを各戸に振り割った価格を予定価格として出しています。この間取 りでこの仕様でいくらという見積りを起こし、これを基準にしました。最終的には、各戸とも自由な設計になるわけですが、その価格差を戸別に精算する形を とっています。総額が変動した場合には、戸別の精算とは別に精算します。」
販売に関して、ひとつ付け加えておきたい。この塚口コーポラティブハウスの事例では、権利変換の時期を35年としている。公庫融資が30年の償還期間とな るため、一般の分譲マンションの35年の償還期間に比べ相対的に不利になってしまうからである。

次に、水回りの自由性について聞いてみた。
「技術的に問題のない範囲内においては自由度を持たせていますが、正反対のバルコニーに浴室をもってくるとか、排水経路が極端に長くなるようなものについては、問題があるとして理解が得られるように指導していきます。
基本的には、私どもは住宅における耐久性の高い設備とは、新製品や新規手法よりも、むしろ、評価の確立した手法をできる かぎり用い、将来における技術革新に対応できる順応性を持たせることだと考えています。頭でっかちな新奇性は、むしろ建物の寿命を縮めると考えていま す。」
無制限に自由にしてしまうと、居室の上にトイレがきたり、リビングの上に浴室があったりというプランになる可能性もあり ます。そんなことが住環境としていいことだとは思われません。水回りは利用時間や生活スタイルが様々なので、あまりバラバラにしたくない。ある程度、技術 的に問題のない範囲内に制限しておくことが、ひいては入居者がお互いに気持ちよく住めることにつながるはずです。こういうことを入居者に説明すると、皆さ んよく分かってくださいます。
これに限ったことではありませんが、極端にわがままな注文についてはコーディネーター側の判断でお断りすることもあるということを伝えて、事業の進歩を妨げることがないようにしています。」

○当初はシステムの説明に四苦八苦 真価を思い知らされたときの感動

最後に、販売にあたっての苦労についても伺ってみよう。
「当初は、スケルトン定借という新しいシステムをどういうふうに説明すればよいのかということに、たいへん苦労しまし た。仕組みが複雑なので、説明をすればするほど、聞いてくださっている方が引いていかれるように感じたものです。公的な色彩の濃いものだから一民間人が話 しても説得力がないのかなと思ったこともありました。そういう意味では、住宅金融公庫さんの支援は非常に大きかったですね。地主さんもユーザーさんも安心 されたでしょうし、私どもとしても、このバックアップ体制がなかったら、もっともっと苦労していただろうと思います。
しかし、今回の震災で建て替えをすることになり合意形成の難しさを経験された方が、入居者の中に2人おられますが、こう いう方は、最初にこのシステムの説明をしたときに、すぐに理解してくださった。だからこれを選んだのだと、その時ばかりは、スケルトン定借の真価を思い知 らされたような感じがしたものです。
それから地主さんのことでもう少しお話しておきたいことがあります。
地主さんは、建物に関してはあまり注文をおつけになりませんでした。とにかく入居者が入りやすいものにしてくれればいい と。ですからバルコニーなども当初は閉鎖的なものだったのですが、入居者から明るいほうがいいという意見が出て、中に光を取り込める開放性の高いものに変 更したりしています。決して地主さんとの打合せだけで固めて、一方的に募集していったというような形にはしていません。
余談になりますが、1階に開業される医院のスペースも、先に述べたようにうまく無償で確保できたのですが、いま、その開業計画までやってほしいという希望があって、どちらかというとファイナンシャルプランナー的な世界まで入り込んでいる感じになっています。また、チームの友弘公認会計士事務所の方でも、今後、地主さんの全体の税務対策のご相談までお受けすることになりました。」
信頼が思わぬ方向にまで進展しているようである。これからは、事業推進者側がこうした総合的な提案力をもたないと、定借 の事業化も難しいのかもしれない。建物だけを建てるのではなくて、新しい価値を創るというか、地主がそういう話ならのってもいいかなと思うような提案、それがあってはじめて事業が動き出すということになっていくに違いない。
キューブという会社は阪神大震災の中から生まれてきただけに、土地の有効利用には自信を持って取り組んでいる。そういう ことをまとめあげるスタッフが揃っているからこそ、全体の事業コーディネイトにも独特のプランを創出できるのであろう。今回のスケルトン定借についても、 天宅氏は“住宅ストックとして長持ちさせるための、ひとつのソフト提案として考えれば非常におもしろい、一般の分譲方式そのものをくつがえすほどのラジカ ルな発想転換を提起している”とおっしゃった。そして、公共団体や半公共的な民間企業にも、積極的にノウハウを提供していきたいと意欲を示されている。

●事例研究②/芦屋プロジェクト(仮称)

大手ディベロッパーによるスケルトン定借プランも現在進行中!
(提案企業:阪急電鉄株式会社・三井建設株式会社JV )

スケルトン定借の関西第1号となる「塚口コーポラティブハウス」と並行して、第2号となる「芦屋プロジェクト」も現在進行中である。
こちらの方の地主は、つくば方式の開発者である建設省建築研究所の小林秀樹氏の著書「新・集合住宅時代」(つくば方式マンションの衝撃、というサブタイトルがついている)を読まれて、早速、住宅金融公庫の竹井氏に電話をかけてこられたお方だ。
建設予定地はこれまた、阪神芦屋駅より500m ( JR 芦屋駅より800 m )という好立地である。別荘として使われていた邸宅が震災で倒壊したため、今回、スケルトン定借による事業化を思い立たれたという。
地主は、建築デザインにたいへん関心が高く、H 10年10月28日の基本計画コンペでも、最優秀に選ばれた阪急電鉄・三井建設 JV の作品が、ご本人のイメージにぴったり合致したことを高く評価されたらしい。

この芦屋プロジェクトの詳細は、現段階ではまだ打合せが進行中ということで紹介できないのが残念であるが、阪急電鉄という大手ディベロッパーが、スケルトン定借の事業コーディネーターとして登場してきたことの意味はたいへん大きなものがある。
竹井氏は、次のようにおっしゃっている。「従来は、コーポラティブといえば、小さな設計事務所が労力を惜しまずに取り組 んできたというのが実態です。大手のディベロッパーの参入がなかった。そのためにあまり普及しなかったと言えます。今回、阪急電鉄という大手ディベロッ パーがコーポラティブに取り組むことに、業界も注目してほしいと思っています。」
そこで、ディベロッパーとしてコンペへの参加の意図などをお伺いすることにした。

○従来の分譲展開の、ひとつの手段として活用できないか

さて、大手ディベロッパーとして阪急電鉄は、スケルトン定借のどういう点に関心を持たれたのか。今回の芦屋プロジェクトを推進されている都市開発室の担当者に伺ってみた。
「個人的な意見ですけれども、私は二つの点に着目しています。一つは、定期借地権住宅というものが、不動産市場でやっと 受け入れられるようになってきましたけれども、私どももディベロッパーとして今後どういう形で参画していけばいいのか、それを見極める機会にしたいという こと。
もうひとつは、スケルトンとインフィルに分けて建築すれば自由設計への対応が容易になる、という考え方があるわけですけ れども、これを従来の分譲の展開のひとつとして活用していく方法はないだろうかということですね。これまではセレクトプラン方式といったことをやってきま したけれども、高額な物件であればあるほど選べる範囲をできるだけ多くしてほしいという声があり、今後そうしたことへの対応をどうしていくか、ということ が課題としてあるわけです。
先の問題についてもう少し説明を付け加えておきますと、今日、定借については50年、60年後の解体もしくは無償譲渡に いたるまでの時期に、スラム化する可能性が高いということが言われていますね。定借マンション事業に参画していくについては、この問題を軽く考えるわけに はいきません。これまでに、自社が所有している土地についての定借マンションは事業実績もありますが、これは将来の解体とか更地返還を目的としておりませ んから問題はない。しかし、一般の定借マンションにも取り組むとなると、将来に予測される問題について、慎重に検討する必要があると思っています。」
「今回は、大阪まちづくり研究会の中での公庫融資を前提としたコンペでしたから、コーポラティブ方式を採用しながら、私どももその役割を担いつつスケルトン定借を勉強させていただく機会にしよう、と考えて取り組んでいます。
しかし正直なところ、ディベロッパーの発想でこのスケルトン定借事業に取り組んでいくとなると、やはり建売方式を最終目標においた形の供給の仕方を目指したいというのが本音です。」

○芦屋プロジェクトの基本的な方向づけについて

それでは、芦屋プロジェクトは、どのように方向づけていかれるのであろうか。
「まずユーザーに対しては、やはり、定借のメリット、スケルトン・インフィルのメリットを前面にアピールしながら、スケルトン定借の持つ、将来における維 持管理の不安を払拭できるという特徴、そして、60年間の快適な利用が約束されていることを強調したいと思います。
新しいシステムで不安もあるでしょうから、そのあたりのことを事前にきっちりと整理したうえで募集に入りたいと考えています。」
「プランとしては、コーポラティブの自由度を最大限に生かすことを基本においていますが、建物規模を考えると中の間取り もある程度限られてきますので、こちらでかなりたくさんのプランを提示し、その中から選んでいただいて、また設備や仕様も変更できるようなシステムを、い ま考えているところです。なおかつ、分譲マンション並みのグレードを標準において入居者の負担を算出していきますが、その場合、コーポラティブと言えど も、その追加負担額が当初告知したものと大きく変わらないような形にしたいと思っています。」
144号、145号と、2号にわたってスケルトン定借を取り上げてきた。これまでの住宅供給方式にこだわった目で見てい ると、システムがやたらと複雑に思えるかもしれない。しかし本質さえおさえれば、実によく考えられたシステムであることがよく分かる。メリットがいっぱい ある。業界をあげて育てていただきたいものだと思う

スケルトン定借(つくば方式)普及センター: http://www.skeleton.gr.jp/index.html

2014年3月5日水曜日

スケルトン定借について:1

キューブが取り組んだ、「塚口コーポラティブハウス」「宇多野コーポラティブハウス」は旧建設省建築研究所で開発された、スケルトン定借というスキムを採用しています。

スケルトン定借は首都圏を中心に実績が積み重ねられていますが、「塚口コーポラティブハウス」は関西第一号 、「宇多野コーポラティブハウス」は環境共生型の木造テラスハウスとしては初となる事業でした。

スケルトン定借は我が国のマンションが持続可能性を持つ為に非常に重要な視点をいくつも示唆していると思います。しかし、一般の分譲マンションが持つ問題を根本的に解消するかもしれない可能性と革新性を持ち、その功績に対して建築学会賞等様々に評価されているスキムであるにも関わらず、まだ一般化するには程遠い状況です。

 ここで、改めてその内容を確認する意味で、平成11年に大阪ガスが発行する「ハウジングトレンド」という雑誌で2回にわたって紹介された記事をご紹介させて頂きます。(スペースの都合上、図表は割愛しております。また、記載されている肩書き等は当時のものです)


ハウジングトレンド No.144

特集・スケルトン定借(つくば方式)1

■「つくば方式」は定期借地権マンションの一種か

新しいタイプの住宅は、人をいつも幻惑させる。「つくば方式マンション」もその例に漏れない。このマンションは、「スケルトン+ 建物譲渡特約付定期借地権 + コー ポラティブ」という新しい方式の集合住宅である。では、これは定期借地権マンションの一種なのか。「つくば方式マンション」を話題にすると、マンション業 界の人々は定借の枠内で議論し続けようとする。しかしそれでは、肝心の考え方の転換点に到達できないのである。核心を捉えないまま、小さな話で終わってし まいかねない。
「つくば方式マンション」は、別名「スケルトン定借」という。端的に定義すれば、スケルトン(構造躯体)を60 年間利用する権利を購入し、自由にインフィル(内装設備等)を設置して住む方式の集合住宅ということである。目的は、あくまでもスケルトンという建築理念 であって、定借は手段にすぎない。そこがスタートポイントだ。

■ではなぜスケルトンなのか

スケルトンに注目する理由は、省資源のためである。資源を無駄づかいしない長期耐用性住宅の実現という考え方だ。これまでのようなスクラップアンドビルド ではなく、省資源・廃棄物抑制に繁がる 100 年 耐用の良質なストックの形成という目標を実現するために、スケルトン住宅は有効だとする考え方である。いわば西洋流の「品質の確かなものを選び、それを時 間をかけて、ゆっくりと愛着を持って使いこなす生活」にそろそろ転換しませんかという提案である。日本もそういう質実精神を優先しなければならない時代に 突入しているのである。
前号でリサイクル、廃棄物抑制、循環型社会のモノづくりを特集した。その対策のひとつが住宅の長寿命化であった。そういう意味でスケルトン住宅の実現と、その実現を誘導するための公的助成措置が今後の重要な施策になる。

■多様な発想があっていい

スケルトン定借は、地主・入居者ともにメリットの多いよく考えられた方式である。この方式はもっと注目されてよい。今回は、スケルトン定借の仕組みを紹介 した。次号では、実際の事業例を数字入りで取り上げる予定である。しかし、この方式にこだわる必要はないのである。もっと多様に発想すべきである。
ス ケルトンを軸にして下記のような多様な組み合わせも発想できるはずだ。たとえば、長寿命スケルトンのコストアップ分を 許容できる高級分譲マンションは実現可能である。現在の所有権型の高級分譲マンションは、建て売りとしながらも購入者の要望を受け入れてフリープラン化し ているのが実態である。スケルトン住宅という考え方が欠落しているだけだ。誤解を恐れずに言えば、スケルトン住宅という考え方を導入すれば、旧タイプは新 タイプに変身可能となる。
・スケルトン + 定期借地権 + コーポラティブ ・スケルトン + 所有権分譲 + 建て売り
・スケルトン + 定期借地権 + 建て売り ・スケルトン + 賃貸 + コーポラティブ
・スケルトン + 所有権分譲 + コーポラティブ ・スケルトン + 賃貸 + 建て売り

価格の低減と百年住宅を両立させた、スケルトン定借(つくば方式)への期待

「つくば方式マンション」と呼ばれるユニークな住宅供給方式への関心が高まっている。正式には、「スケルトン型定期借地権住宅」という。略して、スケルトン定借。
これは建設省建築研究所が長年研究開発を続けてきたものだが、 1996 年 8 月に、その第 1 号プロジェクトが茨城県つくば市内に完成した。また、住宅金融公庫大阪支店が主宰する「大阪まちづくり研究会」の活動によって、関西でも普及しつつある。 しかし、その実態はまだまだ十分に知られてはいないのが現状ではないだろうか。
私 たちは、スケルトン住宅と言えば、「スケルトン」という構造躯体と、「インフィル」という内装設備等を分離して考える 住宅供給方式だということくらいは知っている。そして、定期借地権住宅という言葉も今や市民権を得た存在になってきたので、これも理解しているつもりでい る。しかし、この二つの言葉を単純に言葉どおりにつないでみても、実際の姿は何も見えてこないのである。
た とえば建築的なことでも、スケルトンとインフィルの間の給排水竪管などがある部分に、「共用インフィル」と呼ばれる独 自の概念を取り入れた。どこまでを共用部分とみなし、どこまでを専用部分とみなすのか。また、「専用インフィル」も、将来ライフステージに合わせて間取り の変更も自由にできるように、できるだけ更新しやすいようにしておかなければいけないので、「共用インフィル」との関連も十分に考慮しておく必要がある。 こうしたつなぎの部分にどれだけの自由性をもたせるかによって、コストも大きく変わってくる。とにかく、スケルトンの範囲の定義が難しいのである。
また、定期借地権との組み合わせにしても、ことはそう簡単ではない。単純に「建物譲渡特約付借地権」を設定しただけでは、のちに述べるように問題が残る。そして、その譲渡価格の算定方法も、当初の契約時点で決めるのはなかなか難しい。
こうしたいくつかの問題点をクリアするために、スケルトン定借には独自の工夫が盛り込まれている。少なくとも 60 年間は、地主は満足のいく土地活用ができ、入居者も安心して住み続けることのできる仕組みになっている。本特集では、その詳細をレポートしてみたいと思 う。

●一般定期借地権は地主にとってもまちづくりにとっても、現実的には問題点があると考えられている。

一般定期借地権は、社会的な意義も大きい土地活用の方式としてかなり普及してきたが、次のような問題点が指摘されている。
まず、何よりも集合住宅に適用しにくいということが問題である。どういうことかというと、集合住宅を一般定期借地権だけで建てた場合には、 50 年後に建物を壊して土地を返すことが難しいのだ。また、これからは省資源という観点から 100 年住宅が求められているというのに、定期借地権だからと 50 年後に取り壊すというのではあまりにも不合理である。
しかし最大の問題点は、 40 年くらい経過すると、建物修繕の合意形成が難しくなるということ。どうせ壊すのだからとスラム化する恐れが大きい。
そのほか、定期借地とはいえ、長い期間にわたって土地利用が凍結されると考えている土地経営者が多いようだ。
それから、これまでは相続時の底地評価が路線価の 8 割 と高いため、地主が土地を提供しにくいという事情があった。あまりにも市場価格とかけ離れていると指摘する声が高かった。しかしこの問題は、昨年夏に普通 借地権なみの評価に改定されている。これによって、定期借地権は土地利用者にとって選択しやすい土地利用方策となり、今後は最も必要とされる「便利な場所 での住宅供給手法」としても大いに活用できることになった。
スケルトン定借はいよいよこれから出番を迎える。仕組みもほぼ確立し、これから普及段階に入っていく。完成した事例も、まだ、建設省建築研究所のスタッフ が直接支援して実現した 3 つの研究モデル事業しかない。しかし、すでに関東・関西でそれぞれ 5 つほどのプロジェクトが進行中である。
先の 3 つのモデル事例を紹介しておく。詳細は、日経アーキテクチュア誌 1996 年 11 月 4 日号に紹介されているので参照されるとよい。ここでは同誌から要点のみを抜粋させていただく。

○スケルトン定借(つくば方式)第1号
「メソードつくばⅠ」 
設計・施工/竹中工務店

竣工/1996年8月
構造・階数/RC造・地上5階
敷地面積/1364㎡
延べ面積/2278㎡
住戸数/住戸12戸+地主経営の店舗2戸
各住戸の専有面積/80㎡~117㎡
「在来型の大スパン工法+ツインシャフト」によって設備の可変性を確保している。階高2900mm、スラブ厚220mm、建物四隅の耐震壁は厚さ 220mmを確保。設備はゾーニングと交換性に工夫をこらしている。パイプシャフトを住戸内部ではなく、廊下とバルコニーの両方に取る事で、更新のしやす さと水回りのフレキシビリティ(住戸の約半分のゾーンの中ならどこでも水回り設備が配置できる)を確保しているのが特徴。

○スケルトン定借(つくば方式)第2号
「メソードつくばⅡ」 
設計・施工/東急工建・アタカ工業JV
竣工/1996年10月
構造・階数/RC造・地上3階
敷地面積/392㎡
延べ面積/355㎡
住戸数/4戸(2戸は地主経営の賃貸)
「PCラーメン構造+逆スラブ工法+内装の部品化」を図っている。この方式は大きな床下空間をもつスケルトンを実現できる。階高を3200mmとし、すべての住戸に床下収納を設けた。さらに横引き方式の配管も床下に設置。これにより住戸内のどこにも水回り設備を設置できるフレキシビリティを確保している。

○スケルトン定借(つくば方式)第3号
「松原アパートメント」
基本計画/高市 都市・建築・デザイン
設計・施工/佐藤工業
竣工/1998年5月
構造・階数/RC造・地上4階
敷地面積/約740㎡
延べ面積/約1200㎡
住戸数/11戸
各戸の専有面積/57㎡~126㎡
工法は高耐久性コンクリートを用いた「純ラーメン構造の逆梁+乾式二重床」を採用し、プランの自由度を最大限に確保できるようにしている。また、住機能を維持しながら更新作業ができるようにするため、設備面ではツインシャフトに加え、階高3200mmを確保し、床下に横引き配管を行うなど無理のない設備計画を実現している。

●スケルトン定借は、先に述べた一般定期借地権の現実的な問題点を解決するために、工夫をこらし、新しい土地活用法として実用化された。

つくば方式は、もともと定期借地権住宅として開発されたものではない。土地を「定期借地」するのではなく、長持ちする建 物のスケルトン部分を「定期利用」するという発想から生まれたものである。このことを知っておくと、スケルトン定借の仕組みはぐんと理解しやすくなるはず である。
では、その新しい工夫のポイントを箇条書きにしてみよう。

1. 30 年後に建物を買い取ることで、確実に借地を終了する方法を採用した。
(この場合、買い取る資金も必要としない工夫も盛り込まれている)

2.  30 年後の時点で建物を買い取らずに、さらに 30 年間借地を延長すること ができるという選択肢をつくった。

3.  60 年後には建物が無償で戻ってくるので、建物の買い取りが子孫の世代の負担にならない。安心して土地経営ができる。

4. 100 年近く有効利用できる長期耐用性のあるスケルトン住宅を建てるので、建物の早期老朽化による経営失敗の危険を避けることができる。また、60年後も有効利用できる。

5.  事業コーディネーター(企業、建築事務所、公団公社等)が入居者を集めて から建物を建てる建設組合方式(コーポラティブ方式)を採用すれば、建設資 金も入居者負担で、地主は土地を貸地として提供するだけ。失敗のない土地経営ができる。

要するに、地主は資金ゼロで100 年住宅を建て、土地は当初の 30 年間貸すだけ。 31 年目からの 30 年 間は入居者に一括借り上げしてもらう賃貸マンション経営をするような形になるということである。入居者は自分で設計した住宅に住むことになるため、永住志 向は強い。したがって、空き家の心配がなく、途中での転居も少なく、安定経営をすることができ、なおかつ、相続税対策にもなる。

スケルトン住宅は、何度も言うように、建物をスケルトン(構造躯体等)とインフィル(内装設備等)とに分けて、両者を別 々の仕組みで設計・供給するという考え方に基づいたものである。その狙いは、建物(スケルトン)の長期耐用性と、内装設備(インフィル)の可変性にある。 内装や設備は短期間で老朽化していくので、極めて合理的な考え方と言える。
スケルトン住宅は3 つのケースが考えられる。すなわち、スケルトン賃貸、スケルトン分譲、スケルトン定借である。それぞれの問題点を知っておくと、スケルトン定借は一層理解しやすくなる。

スケルトン定借は、簡単に言えば、スケルトンが建つ土地に定期借地権(建物譲渡特約付)を設定、建物は当初はスケルトン分譲という形になるが、30 年後にはスケルトン賃貸に変わるという仕組みである。ここには 30 年後に土地所有者が建物を買い取ることによってスラム化を防ぐ工夫が施されている。
この方式は、スケルトン賃貸、スケルトン分譲の欠点を補って、なおかつ、有利な点が数多くある。
まず第一に、定期借地権と組み合わせることで、住宅価格が下げられるということ。スケルトン住宅では長期耐用性のある構造体にする必要があるが(定期借地 権を活用するため最低でも60 年以上の耐用年数が要求される)、そのコスト上昇分を吸収できる。そればかりでなく、長期耐用性のあるスケルトンは、 60 年後に定期借地権が消滅したあとの利用メリットもある。
第二に、スケルトン賃貸で問題となる所有権や融資に関する問題点も、スケルトン定借では建設時に分譲という形をとるので解消される。30 年以降はスケルトン賃貸という形になるが、この段階では地主も入居者も新たな資金を用意する必要がない。
第三に、スケルトン分譲と同様の完了検査の問題は残るが、設計段階から入居者を確定する方法(コーポラティブ方式など)をとれば、十分に対応できる。
第四に、入居者が退去するときはインフィルはゼロ査定となるが、長期間にわたって使用できる権利をもつことができるので、入居者への影響は比較的小さいと思われる。

●スケルトン定借の法律的な位置づけについて

スケルトン定借は、「建物譲渡特約付定期借地権」をベースにしている。あえて誤解のないように断っておくが、単なる「建物譲渡特約付借地権」ではない。 「建物譲渡特約付借地権」(借地借家法23 条)の条項だけでは、特約が実行されなかったときの権利関係が不明確であるということで、期間 50 年以上の「一般定期借地権」(同法 22 条)を併せて設定しているのである。
建物譲渡特約付借地権を単独で設定した場合は、図表2 で見るように、 30 年後に譲渡特約が行使されても行使されなくても、借家権あるいは借地権がほぼ永続することになり、地主は土地を返還されても実質的には自由に処分すること ができない。したがって、真の意味での定期性のある借地とはなりえないのである。
このことが建物譲渡特約付借地権のネックとなって、地主の承諾を得ることが難しくなっているのであり、他の一般定期借地権や事業用借地権に比べて普及しない一因になっている。
図表3 を見ていただきたい。これは、存続期間が 60 年の一般定期借地権に、 30 年後の建物譲渡特約を設定した場合である。このように、建物譲渡特約付借地権は、一般定期借地権と併せて設定した場合において初めて定期性を有し、 60 年後に地主への実質的な返還が確保される。
つくば方式は、一般定期借地権のうえに建物譲渡の特約を重ねるというハイブリッドな形態といっていいだろう。
建物譲渡特約付定期借地権契約を行ううえで、もうひとつ問題になるのは、買い取りの対象となるスケルトンが建物のどの範囲となるかを明確にしておかなければならないということである。
この定義がないと、譲渡価格や譲渡後の家賃の設定方法、再建築費や増改築の取り扱い、修繕費の負担方法などを決めることができない。
つくば方式では建物を構成する部位を3 段階に区分して、定期借地権の契約内容や建物の維持管理の分担などを取り決めている。しかし、現実には、建物の工法によって各区分に属する部位は変化することになる。

●3段階区分の定義

* スケルトン
原則として、建物の基本性能にかかわる共用部分を「スケルトン」と定義し、地主の合意がなければ、リフォームできない部分とした。これが地主の買い取り対象となる部分である。

* 共用インフィル
原則として、住戸外周部など専有部分と他の部分を区分する境界的部分にある内外装や設備を「共用インフィル」という。リフォームに当たっては管理規約に定めるルールに従う。地主の買い取り対象には含まれない。

* 専用インフィル
原則として、専有部分にある内装や設備を「専用インフィル」という。居住者が自由にリフォームできる部分。地主の買い取り対象には含まれない。(図表4 参照)

●この「建物譲渡特約付定期借地権」に、長期耐用性のあるスケルトン住宅と、家賃相殺契約を組み合わせたものが、スケルトン定借の仕組みの骨格をなしている。

ポイントとなるところを整理してみよう。

1. 建物譲渡特約の地主としてのメリット
賃貸人(地主)は、30 年後に建物を買い取って借地権を消滅させてもよいし、また、買い取らずに一般定期借地権を継続させてもよいとした。その代わりに、将来発生する建物の取り壊し費用を負担することになる。

2. 建物譲渡特約付行使期間の限定
地主が建物譲渡特約を行使するか否かを決める期間を、30 年後 1 年以内とした。こうすることによって、賃借人(入居者)が不安定な立場に置かれることを避けている。なお、 31 年が経過すると、地主は建物を買い取る権利を失う。

3. 建物譲渡特約が行使されない場合の対応
この場合は、入居者はさらに30 年間、持家の状態が続くことになるので、入居者のメリットは大きい。一般定期借地権がそのまま継続することになるわけで、期間満了後は建物を無償譲渡して 退去することとした。住宅・都市整備公団の定借マンションは、これと同じ考え方をしている。

4. 建物の譲渡価格について
譲渡価格の算定は、新借地借家法では「相当の対価」としているが、30 年後の「相当の対価」を当初の契約時点で決めるのは難しい。つくば方式では、スケルトンのみを地主が買い取ることとし、スケルトンの再建築費の 40 %に設定した。インフィル建築費はゼロ査定、借地権価格も含めていない。
40 %というのは、建物を 60 年で償却する場合の 30 年時点での償却割合を考慮して求めたものである。
なお、30 年後に再建築費の算出が難しくなった場合は、最初に建てた時のスケルトン建築費の 40 %に、 30 年間の消費者物価上昇分をのせて再建築費とする、と取り決めている。物価に連動して引き上げられるので、それなりに高い価格になる。
但し、建物修繕が十分に行われていなかった場合は、相当額が減額される。このことが大きな意味をもつ。これがインセンティブとなって、先に指摘したような建物維持管理が行き届かなくなりスラム化するという問題が克服できるのである。

5. 31 年目からの建物の賃借料
建物譲渡特約が行使された場合は、建物の賃貸借契約に移行することになる。つくば方式ではスケルトンだけを借りる形にな るので、内装や設備のリフォームは自由にできるとした。このときの賃借料は地代相当分程度の少額だが、予め決めておき、スケルトン家賃の算定式を標準約款 に盛り込むこととした。

6. 建物譲渡金と家賃の相殺契約
31 年目からスケルトン賃貸になるわけだが、その場合の家賃を建物譲渡金と相殺していく方式を取りいれた。これは地主と入居者双方にとって魅力的な仕組みである。
建物譲渡金を受渡しないで、そのまま地主に預託し、その返済金と家賃を毎月相殺していくのである。税法上は、店舗建設などで広く行われている建設協力金と同じ扱いになり、課税関係は発生しない。
この家賃相殺契約の導入によって、地主は、建物譲渡を受けるに当たっての資金を準備する必要がなくなり、同時に借地権をも消滅させることができる。また、 入居者も、31 年目以降は基本家賃を前もって払い込んである形となるため、残りわずかの家賃(地代相当分程度)と維持管理費の負担だけで住み続けられる。

7. 建物の増改築について
スケルトン定借では、構造躯体(スケルトン)は増改築することはできない。内装設備等(インフィル)は自由に改築できる。ただし、退去するときには、原状復帰(除去)を原則としている。

8. 30 年未満の持家期間における転売について
この期間の転売については、地主に優先買受権を設定し、地主が希望すれば契約書に定めた算定式の価格で買い取ることができることとした。地主が買い取らな い場合は、第三者に売却することになる。つくば方式のスケルトン定借は、一定の資産価値が保証されているのである。

●地主・入居者がそれぞれの権利関係とメリットを分けて考えてみよう。

これまで述べてきたことと重複する部分も多いが、いまいちど内容を地主と入居者それぞれの立場にたって分けて考えてみよう。

○地主の権利

1. 30年間土地を貸すだけで、30年後には土地が戻ってくる。(定期借地権契約)

2. 建物は入居者が集まって建てるため、地主はいっさい建築費を負担する必要がない。

3. 30年後に入居者から建物を買い取る場合(建物譲渡特約の行使)は、60年後まで賃貸マンション経営ができる。(入居者には借家権が残っている)

4. この場合、建物の買い取り費用は、入居者に60年後までの賃貸を保証する(基本家賃受取済み)ことで相殺されるので、資金を準備する必要はない。

5. 61年目以降は、建物を取り壊して更地に戻すこともできるし、リフォームをして新たに賃貸事業を行うこともできる。

6. 30年後に建物を買い取るか否かの選択は自由。買い取らない(建物譲渡特約の不行使)場合は、貸地経営をそのまま60年まで続けることになる。(定期借地権契約の継続)

○地主のメリットと収入

1. スケルトン定借なので、地主は土地を貸すだけ、建物は入居者が建ててる。その建物の構造体(スケルトン)は100年 の耐用性があり、インフィルは入居者が自前で改築・更新する。要するに、地主は手間がかからない。その上、①建物の長期維持、②入居者の長期居住、が可能 となる。

2. 自己資金ゼロで賃貸マンション経営ができる。入居者が集まってコーポラティブ方式でマンションを建てる場合は、地主は建築費を負担することなく、30 年後には、それを買い取って賃貸マンション経営をすることができる。しかも、その買い取り資金も準備する必要がない。

3. 当初の30年間は貸地経営だから、一般的な賃貸マンション経営と違って、不安となる空き家リスクもない。また、30年以後60年までの賃貸マンション経営も、基本家賃受取済みの貸家となるので安定した収入が約束されている。

4. 30年後に、建物を買い取って賃貸マンション経営に切り替えるか、それとも定期借地権契約を継続してそのまま貸地経営を続けるかという選択ができるので、土地利用の自由度が高い。

5. スケルトン住宅は可変性があるため、用途の変更もできる。入居者が転居した場合や60年後の契約完了後には、店舗や事務所、貸家などと複合化して多角経営もできる。また、自宅を併設することもできる。(図表6参照)

6. 定期借地権の設定により、相続時の土地評価額が下がる。前項に述べるような複合化プランにすると、相続税対策効果はさらに大きなものとなる。(図表7参照)

7. スケルトン住宅の建設は、アパート経営と異なり、高級分譲地なみの良好な住環境の実現につながる。特に、自宅併設の場合は効果的と言えよう。

8. 長期的に見れば、街の質をよくし、土地の価値を高めることにつながる。入居者にしてみれば、インフィルが自由設計なので建物への愛着も生まれ、住環境にも費用をかけやすくなるからである。

●地主の収入

スケルトン定借を採用した場合、どれくらいの収入になるのか。下記の数字は一例にすぎないが、土地を価値あるものにできるということと、将来を見据えた土地活用ができるというところがポイントである。

*地価が坪当たり100万円の100坪の土地に、10戸のマンションを建てた場合の目安。

当初の30年間(貸地経営)
保証金 3000万円(@300万円)
地代月額 20万円(@ 2万円)

30年以降60年まで(基本家賃受取済み貸家経営)
地代相当月額20万円(@約2万円)
維持管理費 実費

○入居者の権利

1. 借地契約をして、入居者が共同でマンションを建設する。(定期借地権契約)

2. 入居後の30年間は、建物は入居者の持家である。建物と借地権を転売する こともできる。土地所有者に買い取りの優先権があるが、買い取らない場合は自由に転売できる。

3. 31年目以降は、建物を土地所有者に譲渡することになるので借家住まいとなる。入居者は土地所有者と建物の賃貸借契約を締結する。借家権は法律で保護される。

4. この場合、入居者は建物の譲渡金と基本家賃を相殺する契約を締結するため、以後は、残りの家賃の一部と維持管理費の支払いだけで、そのまま住み続けることができる。

5. 30年後に、土地所有者が建物を買い取らない(建物譲渡特約の不行使)場合は、定期借地権がそのまま60年後まで続くので、ずっと持家の状態となる。

6. 30年後に、土地所有者に建物を譲渡し退去する場合は、スケルトン再建築費の40%相当額を受け取ることができる。

7. 31年以降60年までの途中で転居する場合は、預託金を精算して、インフィルを除去(または無償譲渡)する必要がある。

8. 1年後には、インフィルを除去(または無償譲渡)して建物を土地所有者に引き渡す。

○入居者のメリットと費用

基本的には、インフィルを60年間専有する権利あるいはスケルトンを60年間利用する権利を購入し、自分の暮らしに合わせ、自由設計の家を作ることができる、と考えればよい。

1. 土地を購入しないで、60年間の定期借地権付マンションを建てることになるので、購入価格が安い(一般分譲の5~8割程度)。その分広めの住戸にすることもできる。(図表9参照)

2. インフィルは、入居者のライフスタイルやニーズに合わせて、間取りや内装、設備などを自由に注文設計できる。なおかつ、60年間、自由にリフォームができる。

3. 一般分譲マンションの場合は、30年前後で入居者が大規模修繕や建て替えを検討する必要に迫られる。それが新たな負 担を強いられることになる。そのうえ、所有者全員の合意形成も難しい。ところがこの方式では、大規模修繕が必要になる30年後には建物を地主に譲渡する契 約を締結するので、そういう心配はいらない。

4. 30年後には建物(スケルトン)を地主に譲渡することになるので、定期借地権付の持家ではなくなる。しかしその譲渡金で以後の30年間、つまり31年目から60年目までの家賃を前払いしたことになり、安い家賃負担で老後も安心して住み続けられる。

5. コーポラティブ方式の場合、安心感のある永住型のコミュニティができやすい。インフィルの注文設計の過程で、建物を大切にする仲間意識が生まれ、維持管理が円滑にすすめられる。

○デメリット

建設組合の発足から建物が完成して入居するまでに、平均1年半~2年の時間がかかること。(自由設計の期間として半年~1年、工事期間1年)

1. 60年後には原則として契約の更新ができないという、期限付きの権利であること。

2. 31年目以降は持家でなくなり、それ以後は借家となる。契約期限の60年目には借家権もなくなり、インフィルもゼロ査定、資産としては何も残らないこと。
2項と3項については、60年間の利用権を購入してその期限が切れたわけだから、短所と見るかどうかは考え方しだいである。

●入居者の費用

地価が坪当たり100万円の土地で、専有面積約100㎡のマンションを取得した場合の目安(金額は一例、立地や経済情勢により異なる)。一般的な分譲マンションでいえば、販売価格が5000~5500万円相当のものを想定している。

当初の30年間(持家)
当初の建築費 約2700万円
当初の借地保証金 約 300万円
地代月額 約 2万円

30年以降60年目まで(借家)
スケルトン賃料月額(地代相当額) 約 2万円
維持管理費月額 約 2万円

住宅金融公庫大阪支店のスケルトン定借による「まちづくり」支援活動

一昨年から住宅金融公庫大阪支店の業務運営方針に大きな変化が見られる。「関西のまちづくり支援」を全面に打ち出し、住民が自主的に共同して住宅を建設する事業への融資に力を入れているのである。
大阪支店では、現在、大阪まちづくり研究会を設けて、特に、スケルトン定借のコーポラティブタイプの普及に積極的に取り 組んでいるが、これが大きな注目を浴びている。もともと関西は全国的に見ても、コーポラティブ住宅の活動が盛んなところであり、それに比例して、公庫の 「個人共同住宅建設資金融資」も多くなっているのだが、「まちづくり」をもっと積極的に支援しようということで、その最も有効な手段として、関西ではまだ 実績の少ないスケルトン定借(つくば方式)の早期実現・普及に意欲的に取り組むことになったのだそうだ。

推進者は、企画広報課の竹井隆人氏である。スケルトン定借(つくば方式)の共同開発者の一人で、1997年4月に大阪支店に転勤してこられた。同氏に、これまでの経緯と今後の展開について伺ってみた。
「結論が先になりますけれども、最終的な理想としては、住民が主体となって地域のコミュニティを向上させる形で、自分たちの家も直接つくっていくようなま ちづくり、そういう民間の非営利団体ができて、そこへ公的な支援をしていくという姿が一番望ましいわけです。
その理由は、これまでの住宅政策が個々人の持家促進にかたよりすぎて、各戸バラバラな住宅供給になってしまっていたきら いがあり、まちづくりという発想がない。そういう反省も踏まえて、今後はもっと、まち全体に対する融資に力を入れていくべきだと考えています。たとえば神 戸には、官民協働のまちづくり協議会がありますね。ああいうところで住宅の供給開発を目指すようなコミュニティづくりができればと思っています。
話は変わりますが、スケルトンというのは、いわば人工地盤と言ってもいいかと思いますが、土地所有者がそれをつくって、 その上に入居者が家を建てていくというのが本来の姿です。ところが現行の法制度では入居者がつくらざるを得ない。ですから、こういうスケルトン定借のよう な形での家づくり、まちづくりが大きな意味をもつと言えるのではないでしょうか。
それに、これからの高齢社会では郊外の一戸建てよりも都心の集合住宅がますます求められるようになります。しかし、そう いう住宅は、今日では定期借地権を活用しないかぎり、とても実現は難しくなっている。高齢化ということで、安全で快適な生活へのニーズは一層高まってい く。分譲マンションでは価格的にも高いものになるし、コミュニティの形成はあまり期待できない。私たちがコーポラティブ方式のスケルトン定借を推進してい るのは、そういうことへのひとつの答えだと考えているからなのです。コーポラティブ住宅は初動期においてコミュニティ形成が前提となるだけに、より本来の まちづくりにつながります。しかも、地主・入居者双方にとってもメリットが大きいですからね。
これは私の個人的な研究に基づく意見ですが、これからは住宅をもっと政治的な意味で、住民の政治参加を促すものとして、 新しい視点で見直していく必要があるのではないか、と思っています。その意味では、コーポラティブ方式なら住民参加やコミュニティへの発言にもつながりま すから、地方分権の原点として位置づけられるものだということができます。」
こういうことで、定期借地権とコーポラティブ住宅を融合させたスケルトン定借が、脚光を浴びることになったわけである。

●大きな反響に応えて、事業支援活動も軌道に乗ってきた。

大阪支店は1997年10月に、「まちづくりを支援する協同建設型の住宅供給促進研究会」(略称、大阪まちづくり研究 会)を発足させた。これは竹井氏の企画によるもので、自ら事務局を引き受けておられる。座長にはつくば方式の開発者・小林秀樹氏(建設省建築研究所)を迎 え、弁護士や建築家などの専門家、地方公共団体、それに有志企業の参加をえて、この1年、積極的な活動を展開してきた。(図表10参照)
まちづくりに貢献すると考えられるコーポラティブ住宅の普及促進が目的である。入居者が集まって設計から建設までを自分 たちで共同して行うこの方式は、入居者によるまちへの参加を促進し、また、コミュニティを増進させる期待がもてるというわけだ。1棟だけならそれだけのコ ミュニティでしかないが、竹井氏が先に述べられたような視点で、まちづくりを進めていくことができれば、長期耐用性のあるスケルトン定借は、将来、地域コ ミュニティの向上に大いに役立てることができる。

(注)スケルトン定借には建売方式もあるが、公庫大阪支店では、住民が主体となるコーポラティブ方式に限定して支援活動をしている。

まずは、この優れた住宅供給手法を広く周知させ、地主にも事業への土地提供を促すことが先決であると考えられた。これまでの経緯を見てみよう。
1998年3月、地主と専門家を対象とするシンポジウムが神戸市内で開催されたが、600名を超える参加申込みがあって 大きな反響を呼んだ。スケルトン定借はすでに、大都市で安価で良質な住宅を供給する方式として、社会的にも大きな評価を得ていることをアピールし、この事 業に土地を供給する人には安定した経営と節税効果をもたらすことを知ってもらうよい機会となった。新聞のパブリシティ効果もあって、後日、活用の申し出の あった土地情報は30件あまりに及んだという。
研究会はまた、こうした活動を実りあるものにするために、事業化支援にも力を入れている。これまでコーポラティブ住宅の 立ち上げには、入居者同士の相互調整を図るコーディネーターの労力が莫大で、それが普及のネックになっていた。そこで特に負担の大きい、地主との交渉が成 立するまでの初期リスクを研究会が引き受けることにした。
そうした努力が次々と実を結んでいる。先の30件におよぶ土地情報の調査の中から、1998年8月には、のちに関西第1 号のスケルトン定借となる「塚口コーポラティブハウス」プロジェクトが基本計画を策定する公開コンペを実施するところまでこぎつけた。このコンペを地主の 了解を得て公開にしたのは、地主の利点やスケルトン定借の可能性を、実際の建設計画の事例に則して興味のある多くの方々に理解してもらおうと考えたからで ある。
続いて10月には、芦屋プロジェクトの基本計画及び事業コーディネート公開コンペが実施され、阪急電鉄と三井建設のJV のプランが優秀作品に選定された。従来のコーポラティブ事業では中小の設計事務所や建築事務所がボランティア的に取り組む場合が多かっただけに、阪急電鉄 という大手ディベロッパーの参画は注目すべきことといえよう。
さらに、このほか阪神間で誕生した5つの計画プロジェクトを支援するために、11月には、入居者向けの公開セミナーが企画された。200人以上の参加者を 集める盛況ぶりで、スケルトン定借のしくみやメリットの解説、実際の居住者の体験談に熱心に耳を傾けていた。
12月には、先の塚口コーポラティブハウスの施工企業を選定する技術コンペを行っている。基本計画のコンペ同様、この時 も地主の了解を得て公開された。これは通常の価格入札方式ではなく、限られた設計・上限の定まった建築費を前提に、建物の高耐久性、将来的な設備の更新性 を競技するという、珍しい業者選定方式で行われた。

研究会活動としては、ほかにコーディネーター養成講座の後援などもあるが、スケルトン定借が特に都市部に良質・低廉な住宅を供給する方法として優れている ので、震災地や密集住宅市街地における再建にも活用できるとして、その種の事業を積極的に支援しようとしている。
なお、大阪まちづくり研究会は、本年度いっぱいで一応活動を終了する予定で、あとは1998年7月に東京で発足した「ス ケルトン定借普及センター」の関西支部を設置してそこに引継ぐことを志向している。本年4月以降は、よりオープンな形で普及活動が展開されることになりそ うだ。

スケルトン定借(つくば方式)は、いよいよ研究段階から民間事 業として普及する段階に入ったようである。スケルトン定借 普及センターへのバトンタッチもそれを物語っている。この特集では、スケルトン定借のしくみやメリットの解明に多くのページをさいた。そして、住宅金融公 庫大阪支店の先導的なまちづくり支援の実情を追いかけながら、コーポラティブタイプの意義も考えてみた(ここまでの実例は全てコーポラティブタイプで行わ れている)。今後はディベロッパーが参入するようになると、建売タイプの(つくば方式)も普及していくものと思われる。まだまだ勉強すべき材料はたくさん ある。
次号は、スケルトン定借特集の続編として、ケーススタディを取り上げ、もう少し具体的な数字で掘り下げてみたいと思っている。

(注)ス ケルトン定借普及センターは、民間の非営利組織である。普及段階への移行に伴い、事 業者の育成やトラブル相談などの役割を担う。つくば方式の意義に賛同するものはだれでも加入できる。相談窓口は、下記に記す通りである。


スケルトン定借(つくば方式)普及センター: http://www.skeleton.gr.jp/index.html