神戸北野から発信する持続可能な集合住宅 フォーラム
「集合住宅の持続可能性」
・・・・・・明治学院大学教授 弁護士 戎 正晴様
阪神淡路大震災後の復興に関連して、マンションの復興に関する法律問題を中心として活躍。マンション建替え円滑化法の立法などにも関与
ご紹介に預かりました戎でございます。
私からは、先程、天宅さんからお話のあった事について、法律的な裏づけというか、どんな仕組みで区分所有法を使ったらこういうことができるんだろうか、そのあたりのお話を少しさせて頂ければと思っております。
マンションの建替えや団地の再生が難しいというのは天宅さんがおっしゃった通りです。ただ、昨年初めて都市再生特別措置法の改正があって、その中で、団地あるいはマンションの建替えを含む再生が、再開発事業として実施できるように法律が変わりました。従って、これからは、マンション建替え・団地再生のやり方としても、再開発事業の手法が使われるようになるかも知れません。最近は、そこまで変わってきているということを、最初にご紹介させて頂きます。
そこで、本日は、街づくりの中で、区分所有法を使った再生手法と言いますか、街の再生をしていくお話をしようと思います。
街づくりといっても、原野を切り開いて新しく街をつくるという街づくりと、既存の市街地がちゃんとあって、そういった所でもう一度街づくりをするというのは、やはり違うわけです。既成市街地における街づくりとは、街「つくり」というか、「つくる」というよりは「変える」というのが、その街づくりの意味だと思います。ではどう変えるのかという話なのですが、それまで歴史的に蓄積されてきたコミュニティーや景観、そういったものがもう既にそこにあるわけです。そういうところでの街づくりは、一切全てそういったものを無くしてしまって、全く新しいものを作るという街づくりは、基本的にはありえません。つまり、「変わらぬもの」と「変わるもの」をちゃんと分けて、その位置づけのもとに、変わりつつ、変わらずに更新していく、こういったことが、やはり求められているのだろうと思います。
では、残しつつ更新するという事をどうやって実現するのか? 具体的にどうするのか? という話だと思うのですが、「神戸ハウス北野」の計画は、そういうことを可能にする仕組みの一つを提示しているのではないかと思います。
「神戸ハウス北野」は集合住宅として計画されておりますが、その集合住宅の形は、実はマンションです。しかも、マンション団地ということになります。建物がテラスハウス風で二戸からなる区分所有の建物なので、見た目はマンション団地に見えないかもしれないですけども、法的には国交省から出ている標準管理規約の「団地型」、あれと同じなんですね。全く同じです。
どういうことかといいますと、今回、マンションでなければ、この計画が出来なかった。しかし普通マンションというと、敷地をまっ平らにしてしまって、大きなものをドーンと建てる、こういう風なイメージですから、北野のように歴史の中で形作られてきた街にマンションを建てるということになりますと、当然ですが、反対運動も出るし、なかなか難しいです。ところが、マンションであるがゆえに、今回こういうことが出来たという、このパラドクスというか、ここが面白いところです。
ポイントは三つです。
一つは、土地を共有化すること。共有地にするということ。一つ一つの敷地にして、一つ一つの建物を建てると言うのでは、これは出来ない。
それから、建物を区分所有化するということが二つ目です。これも、戸建てだとだめです。最低限二戸。要するに、区分所有登記をすることで、建物自体を区分所有登記の建物にしないと、この計画は出来ません。
それから、最後は、建物を規制するということを実現するために、団地管理組合を作って、そして一括管理の規約を定めるということです。区分所有法の68条に、建物についても団地管理組合が、色々と規制をすることが可能になると定められているのですが、それが出来る対象は区分所有建物に限定されます。一戸建ての戸建て団地だと、団地管理組合が土地に関しては、色々ルール化できますが、建物に関しては、一切口出しが出来ない。そこで、区分所有化することによって、建物についても規制をすることが出来る。先程の建替えルールという話がありましたけれども、そういう建替え、あるいは改修についてのルール化をすることが可能になる。こういうことです。
実はこの三つの要件を満たしたマンション団地というのは、一括建替えも理論上は出来ます。ただ、二戸一ですから、全ての棟が全員同意でないと、5分の4以上にはなりませんから、実現は難しいですが。しかし、全棟がやり変えようと思えば、一括建替えもできる。そこがミソなわけです。
では、こういうことをするメリットがどこにあるかですが、一つは敷地を全体として、有効に活用することができる。たとえば、一団地認定などとも関係してきますが、一団の土地として有効利用を図ることが出来るということです。
もう一つは、ゲート化ですね。戸建てを作って道路をつくりますと、当たり前ですけれども、道路にゲートは作れません。ところが団地にしてしまうと、敷地内通路にゲートを作ることができますから全体としてのセキュリティー性が高まる。こういうことも団地にするからできるわけです。
それから先程言いました「土地の共有化」「建物の区分所有化」「建物の一括管理化」この三つで、建物についてルール化することが出来ます。
先程、建替えについてのルール化という話がありましたけれど、厳密に言いますと建替えではなくて改修です。建替えと言うのは、建物を全部つぶして建替えるということですから、建物の一部をやりかえるのは、これは改修ということになります。
そして、改修までは、実は団地管理組合でルール化することが出来るんです。建替えのルールを規約の中で作ることは出来ませんが、改修のルールは規約で作る事が出来ます。そこで、そういった規約を整理することによって、例えば、コンセプトに合わないような改修は認めないとか、そういったことが可能になる。
それと、逆に改修を認めることで、全部建替えてしまわなくても、その部分・部分を改修するという形で、持続可能な団地にしていける。こういうメリットがある。それから、当たり前ですけれども、団地敷地の利用方法についてもルール化することも出来ます。
以上の様に、あるコンセプトに基づいて作られた「神戸ハウス北野」のような団地を、そのままの形で、コンセプトを維持していく方向で団地管理組合でルール化し、それを実践していくということで「1000年集合住宅」というものが実現する。こういうことになります。
さらに、街並みその他を保存して方法には、公法的なやり方と、私法的なやり方があります。例えば公法的なやりかたには地区計画のように法令に基づくものがあります。しかし、区分所有法を活用すれば、私法的にも、それを縛ることが可能になります。
各建物の区分所有者は、団地管理規約で縛ることが出来る。従って、団地の全区分所有者が、「こんなんやめてしまいましょう」みたいな話になったら終わりですけれども、そうでない限りはルールが維持できる。そして、私法上のルールですから、それに従わなければ、区分所有法上、共同利益背反行為ということになり、団地管理組合から措置を発動することも出来る。要するにルールを私法上強制する仕組みもそこには出来ているということです。公法と私法の両面から縛ることによって、持続可能な、変えようと思ったら変えられる、しかし、変えられぬものは残せる、そういった持続可能性のある集合住宅ができる。このような仕組みが実現します。
マンション法、区分所有法と言うと、普通、管理法だと皆さんお考えになると思います。でも、開発法なんです。開発手法としての区分所有というのが、ここでは本当に有効に活用されている。先程、天宅さんのお話にもありましたように、「区分所有法はややこしい」と言うのは、その通りなのですが、しかし、使い方によっては、マンションであるがゆえに、あるいは区分所有法を使うがゆえに出来ることがあるんだと、このように思います。
以上でお願いいたします。
■戎 正晴/明治学院大学教授 弁護士
■戎 正晴/明治学院大学教授 弁護士
阪神淡路大震災後の復興に関連して、マンションの復興に関する法律問題を中心として活躍。マンション建替え円滑化法の立法などにも関与。
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