2012年6月4日月曜日

スケルトン定借事業の実例(塚口CH:1)

スケルトン定借とは

 2010年、キューブの手掛けるスケルトン定借事業としては2物件目となる「宇多野コーポラティブハウス」が完成しました。
関西におけるスケルトン定借事業第1号として、2000年にキューブが手掛けた「塚口コーポラティブハウス」が完成して以後、芦屋、京都でスケルトン定借事業が事業化されましたが、キューブとしては約10年を経ての事業化となりました。

「塚口コーポラティブハウス」が完成した時に、スケルトン定借が普及していく為には土地所有者の理解が不可欠であると考え、土地所有者向けセミナーでお話させていただきました。
その内容を振り返ってみると、10年経っても状況はあまり変わっておらず、現在でもお伝えしたい内容はほとんど変わっていない事に気づきました。
そこで、当時セミナーでお話しした内容を、最小限加筆修正した形で公開することに致しました。
他でご紹介した内容と重複する部分もありますが、出来る限りセミナーで話した内容をそのまま掲載していきます。
皆様方の今後の土地活用のご参考になれば幸いです。



 まず総論として「塚口コーポラティブハウス」を事業化して、コーディネーター及び設計者としての率直な感想は、非常に良い事業に取組むことが出来たということでした。
当初、イメージしていたよりも、スケルトン定借事業の意義ははるかに高く、様々な可能性を感じさせるものでした。
そして、スケルトン定借について説明される際にあまり触れられていない部分に、むしろ「よかった」と感じるポイントがあったので、そのあたりを中心にご説明させていただきたいと思います。

 では、まずスケルトン定借とは何かということですが、簡単に申し上げると、定期借地権の一種である建物譲渡特約付定期借地権を応用して100年以上の耐久性を持つスケルトン住宅を建てる仕組みです。
茨城県筑波市の旧建設省建築研究所で開発されたため「つくば方式」とも呼ばれています。



定期借地権には3種類あります。
一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用定期借地権の3つです。
その中には今お話した「建物譲渡特約付定期借地権」という借地権はありません。
これは造語で、一般定期借地権に建物の譲渡特約付借地権を組合わせた借地権の事を指します。

(集合住宅の問題点をスケルトン定借が解決)

 ではなぜ旧建設省が、こういう仕組みを10年もの歳月をかけて開発したのでしょう。
それは日本の住宅寿命が非常に短いからです。
これを何とかしたい、それがそもそもの発端だと伺っています。
アメリカは100年以上、イギリスでは140年以上、日本と同じく大いに戦争被害を受けたドイツでも80年以上の住宅寿命があります。
それに比べて、日本では平均して大体30年くらいしか建物がもたない。
もちろん木造住宅でスクラップアンドビルドが繰り返されてきたという日本固有の風土に基く長い歴史がありますから、ある程度はいたしかたないのですが、問題は戦後になってRC建築という非常に堅牢な建物が建ち続けているにも拘わらず、これくらいしか建物寿命がないということです。
特に問題なのが、区分所有という細分化した所有形態をとる分譲マンションです。


 マンションの寿命の短さの一番の理由は一体何にあるのでしょうか。
マンションを良好な状態で維持していくには、多額の修繕費用を要します。
どれだけ最初にきっちり設計したとしても、例えばエレベーターなどの機械物あるいは各種配管排水設備等は年月と共に老朽化します。
いつかは更新しなくてはいけなくなる。だいたい30年目くらいでその時期がやってきます。
しかしながら、その時点での修繕費用が非常にかさむことから、実態として補修がなかなか進まないのが現実です。
そこに建物寿命の短さの大きな理由があると考えられます。

 その費用が必要となる30年くらい経った日本のマンションは一体どういう状況になっているのかと言いますと、住宅金融公庫等金融機関が一般的に築後20年までの建物しか中古マンションの融資をしないということもあって、築20年を過ぎた建物では中古マンションとしての流通性が低くなり、賃貸比率がどうしても上がってきます。
部屋を貸している元の居住者は、貸していくらの世界ですから、修繕維持費をたくさん掛けて建物を良好に保とうという意識はどんどんと落ちていく、というよりそのような意識はほとんどありません。
そうしますと30年目頃に非常に重要な大規模修繕を行わなければならないとなった時でも、必要なお金が集まらない。
これは仕方がないことですが、結局、大規模修繕が行えず、水漏れ雨漏りが起こっても、ごまかしながら対処するしか方法がないわけです。

 ですから、普段から補修なり維持管理をちゃんとしていれば十分長持ちする建物であっても、それよりもかなり早い段階でスラム化が進んでいく。
そういう事情が今の日本の集合住宅の短命化を促進していると言われています。

 日本の集合住宅の歴史はまだ浅くて、一般的な普及は昭和30年代に住宅公団の供給が本格化してからです。
昭和40年代に入ってからは長谷工さんなどの民間会社が大量供給されましたが、技術的に未熟だった時代のものが今、丁度築30年を迎えつつあります。
ということで、修繕しても使い続けるだけのものに元々なっていなかったという状況もあったと言えます。

 そういう反省から、建物自体が長く使えるものでなければならないという社会的要請が起こり、そしてまた修繕も円滑に行えるようなスキムが出来ないかということから、このスケルトン定借という事業形態が開発されました。

(スケルトン定借とは)

 ではスケルトン定借のベースになっているスケルトン住宅とはどういうものか。
従来の集合住宅は居住部分であるインフィル部分が老朽化すると、それに合わせて何ら問題ないスケルトン部分も壊され、建物自体も長持ちしませんでした。
そこで、その問題をクリアするために、まず共用部分と専用部分とを空間的に完全に分離させると同時にその区分をルール化させました。
そうすることによって、共用部分であるスケルトン部分を残したままインフィル部分だけを完全にリフォームできるようにしたのです。
このような住宅をスケルトン住宅といいます。


 ただ、建物がそういうように分離して造られたとしても、先ほど申し上げた修繕維持が円滑になされるスキムがなければ、実際には建物を長持ちさせることはできません。
スケルトン定借は、建物を長持ちさせる仕組みをハード面だけではなく、修繕維持といったソフト面までも包括したシステムです。


 簡単にスケルトン定借の仕組みをご紹介しますと、まず最初に地主さんに土地を提供していただいて、その土地の上にマンションを建てますが、そのマンションに住みたい方を建物を建てる前に集めます。
そして、その方々の資金でスケルトン住宅のマンションを建てます。
その時に60年の一般定期借地権を設定しますが、同時に30年後に建物を地主に譲渡するという建物譲渡特約も合わせて締結します。

 従って、マンション入居者は当初30年間は借地権上の建物の区分所有者となります。
30年後に建物を譲渡した後は借家人になります。
ただし、建物を地主に譲渡する金額と30年後から60年目までの賃料(家賃)を相殺しますので、60年目までは地代相当の負担だけで住み続けることができます。



 このことを地主サイドから見れば、建物を買い取る資金を必要とせずに30年後に自分のものになる建物が建ちます。
しかも60年目以降も賃貸マンションとして貸せる建物を出資ゼロで取得できるわけです。
しかしその一方で、30年後世の中がどうなっているかわからないという心配もありますので、地主にリスクがかからないよう、30年目時点で建物の譲渡を受けるか受けないかの選択権を地主に与えています。

 もしその時、建物を買い受けないとすれば、単純に60年の定期借地権だけです。
建物を買い受ければ30年目以降は地主の賃貸マンションになりますが、60年目までの賃料と相殺されますので、地主が得る収益は従前の地代相当額と同額です。
しかしながら、建物本体は100年以上もつスペックで造りますので、60年後以降も一般の借家と同様、市場家賃で賃貸マンションとして利用していただける事になっています。

(大規模修繕を乗り切る仕組み)

 なぜ30年後にスケルトン部分をわざわざ買い戻すようなややこしいスキムが必要なのか。
それは30年後に必要とされる大規模修繕を強制的に乗り越える仕組みを、そこに組み込みたいからです。
その為の方法として30年目に地主が建物のスケルトン部分を買取ります。
そこにこのスケルトン定借の最大の意味があると思います。

 どういうシステムを組み入れたかというと、30年後のスケルトン部分の買取価格に修繕状況が反映されるような契約を、当初の「譲渡特約付定期借地権契約」の中に入れて締結します。
具体的には、買取り価格は修繕維持積立金の積立て状況にあわせて個別に精算されるようになっています。
即ち入居者が修繕維持積立金をキチンと納めなければ、その分買取り価格が安くなります。
買取り価格が安くなるということは、30年目から60年目までの賃料が高くなるというように反映されます。
つまり、修繕維持積立金をキチンと払わなかった人はその分家賃が高くなるのです。

 そのため、30年目までは30年以後の賃料に対するインセンティブ、すなわちちゃんとお金を納めた人はその分賃料が安くなるというインセンティブが働きますので、入居者の修繕維持積立てが積極的に行われると考えられます。


 30年目から60年目までは地主側に修繕維持を行う責任が移りますが、建物は性能的には100年以上もつように作られていますので、修繕維持さえ行っていれば60年目以降も賃貸マンションとして利用することができます。
このことが、建物を良好に保とうとする地主の意識を修繕維持に積極的に向かわせるのではないかと考えられます。

 日本の感覚からすれば、建物が本当に100年もつのかという不安がありますが、ヨーロッパでは100年以上建っている集合住宅は一杯あります。
日本では、集合住宅に住むという居住形態がたかだか3040年の歴史しかありませんので、そういうイメージが湧きにくいだけだと思います。

 実際にはこれだけの集合住宅が都心部に蓄積され、今では技術的にも西洋のものと遜色がないものになってきています。
ただ、大規模修繕を乗り越えるスキムが分譲時点でなされていない為に、3040年経ったときに必要なお金が集まらなくて、建物本来の性能があるにもかかわらずスラム化していく心配が出てくるのです。
そのような事を起こさせない一つの方法が、このスケルトン定借だと思っています。

 こういう話をしますと、西洋ではなぜそういう問題が起こらないのかという疑問が出てきますが、まず西洋では地震があまり起こらないので、年月を経ることで建物の耐震性能が劣化することによる建替えの問題が顕在化することがありません。
建築後数百年を経た建物が、町のストックとして今でも普通に利用されています。
さらに、日本のように普通の人々が建物を平等に分かち合って持つ区分所有という所有形態は、西洋では非常に希有なのです。
実質的に階級性がある中で、貴族が都心部に作ったストックを、みんなが利用権みたいな形で利用している。
ですから、建物のスケルトン部分の修繕義務は建物所有者に一本化されているようです。
日本で言うところのスケルトン賃貸という形態に近い所有形態がヨーロッパでは一般的です。

 本当は、日本でもそういう事が可能であればいいのですが、インフィル部分の利用権を取得するだけでは担保価値がないということで融資が付かないという問題があり、買うことができません。
そこで、今の日本の融資制度のままで西洋のスケルトン賃貸に近い所有形態を作り出そうとして開発されたのが、このスケルトン定借ではないかと私は理解しています。

 地主にとって、このスケルトン定借の一番重要なポイントは、権利返還が段階的で確実であるという部分にあると思います。
更地返還を前提とする一般定期借地権では、権利返還前のスラム化により不法占拠などが発生した場合、本当に解体出来るかどうかが危惧されます。
それに対して、このスケルトン定借は解体を前提としないので60年目以降も市場家賃で住み続けることが出来る為、権利返還が確実に遂行されると考えられます。
要は不法占拠したところで、出ていくことによる退出金などのお金に結び付かないので、そういうことをしても意味がないのです。
定期借家権を利用することで、地主サイドとしてはより安全な条件での事業化が可能になっています。


 また、30年後の社会状況にあわせて、地主が建物を買取るか買取らないかの判断を下せるようになっていますし、さらに60年以後は地主単有の建物となるため、耐震性能保持が建物の安全性を確保する上で非常に重要な我が国において、遠い将来において耐震性能低下により建物の解体、補修を決定しなければばらない時も地主単独の判断で行えます。

 それに対して、区分所有建物である分譲マンションはどこまでいっても何をするにも入居者全員の合意を必要としているため、何事も進みにくいのです。
「建物が老朽化してきたので建替えたい」と多くの人が思っても、合意形成ができないと基本的にはできません。
それではと、「補修だけでも」とみんなで話し合っても、建替えの話が出てくると、どうせ解体する建物に対して「一円のお金もかけるのはもったいない」という事になって、結局、補修さえもできない。
そのまま何も出来ないまま放置されて、建物が本来持っている寿命以上の早い段階で老朽化が進んでいっているのが、現状ではないかと考えられます。

 それを、このスケルトン定借は60年という限られた期間ですが、誰が、どういう責任を持って、どう維持していくかということを最初に決めますので、そういう一切合切の問題を解消した事業手法だと思います。

 この辺の話は、当時から10年経った今に至るまで、あまりされていません。
それは、国土交通省がそういうようなことを言うと、一般の分譲マンションをある意味で否定することになるからではないかと推測しています。
しかしながら、こういう方式を考え出したというのは、本音ではこういうことが大事であるという意識があったからではないかと、私は思っています。

このようにスケルトン定借の仕組みを見ると、いかなる目的でスケルトン定借の仕組みが構築されているか理解できるようになるのではないかと思います。

スケルトン定借住宅を中心とした新しい住宅によるまちづくりを支援していくことを目的として、1998年7月6日に「スケルトン定借普及センター」が設立されています。
http://www.skeleton.gr.jp/





 

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