2012年6月27日水曜日

今までの取り組み(塚口CH)

阪神淡路大震災で明らかになった問題の一つとして、借地権の問題がありました。


阪神淡路大震災以後、地主が土地活用に消極的になっていました。何故ならば、震災で旧借地借家法に基づく借地権が、底地権よりいつの間にか強くなっていたことが一気に顕在化し、そのことに地主が一斉に気づいたからです。その結果、土地は一度貸せば 返ってこないという意識が強くなりました。


平成4年に定期借地権が法制化されましたが、借地期間満了時の建物取り壊しを前提とする定期借地マンションでは、入居者の建物維持管理意識が希薄になりやすく、早い段階でのスラム化を招くおそれがあり、そうなれば不法占拠も発生しやすく、取り壊し時期に占拠者を追い出せなくなることが懸念され、地主の土地活用意欲を低下させる要因となっていました。


そのような地主の懸念材料を払拭する方法として当時話題になっていたスケルトン定借に注目していました。建物取り壊しを前提とする更地返還ではなく、建物存続を前提とし、定期借地⇒借家という段階的に返還する方法が地主の理解を得やすいのではないかと考えていたからです。ただし、定期借地を前提とした取り組みは収益性が低く、地主に土地提供してもらうためには、地主の収益性をいかに高めることができるかが鍵であると考え、様々な方法を検討していました。その中で、「定期借地の等価交換」という手法を見出し、活用できる事業を探っていました。



そんな状況の中、住宅金融公庫大阪支店は1997年10月に、「まちづくりを支援する協同建設型の住宅供給促進研究会」(略称、大阪まちづくり研究 会)を発足させました。座長にはスケルトン定借の開発者・小林秀樹氏(建設省建築研究所(当時))を迎 え、弁護士や建築家などの専門家、地方公共団体、それに有志企業の参加をえて、積極的な活動を展開していました。 キューブも被災地の企業として、本研究会に参画することになりました。



1998年3月、地主と専門家を対象とするシンポジウムが神戸市内で開催されましたが、600名を超える参加申込みがあって 大きな反響を呼びました。スケルトン定借はすでに、大都市で安価で良質な住宅を供給する方式として、社会的にも大きな評価を得ていることをアピールし、この事 業に土地を供給する人には安定した経営と節税効果をもたらすことを知ってもらうよい機会となりました。新聞のパブリシティ効果もあって、後日、活用の申し出の あった土地情報は30件あまりに及んだそうです。


この30件におよぶ土地情報の中から、1998年8月には、のちに関西第1 号のスケルトン定借となる「塚口コーポラティブハウス」プロジェクトが基本計画を策定する公開コンペを実施することになりました。このコンペを地主の了解を得て公開にしたのは、地主の利点やスケルトン定借の可能性を、実際の建設計画の事例に則して興味のある多くの方々に理解してもらおうと考えたからだそうです。


この公開コンペは、研究会に参画していた企業からなる3グループで戦うことになりました。
キューブは単独で参加しました。
このコンペは、最優秀案を地主が採択し事業化するという 仕組みであり、地主のご子息が医院を開業される為に複合化を行いたいというニーズが、今まで活用方法を探っていた、「定期借地の等価交換」にピッタリだったので、「定期借地の等価交換」を採用した提案を行いました。
具体的な事業スキームは下記の通りです。





従前の土地の評価の2 分の 1 を超える権利金を発生させれば等価交換の対象として認められて、立体買い替えの特例が利用できる…というところに着目したスキームです。第三者に貸す定期借地の権利金と、 1 階に設ける医院(店舗床)の建築費とを等価交換する方法です。
この方法なら一般的な等価交換と違って、土地を失うことがありません。60 年 後には土地はまるごと建物付で返ってきます。全部自分のものになります。しかも、医院開業のための店舗床も無償で取得できることになります。こんなにう まい話はないので、提案に自信はありました。ただ、この等価交換の方法は、先立つ事例が無いため、再三、税務署と相談しながら進めました。この事業は、私どもと会計士事務所と不動産鑑定士の3者がチームを組んで、それぞれの知恵をつなぎ合わせてはじめて実現できたもので、それぞれが単独で事業を組み立てていてはと てもできなかったと思います。



このスキームは地主から高い評価を得、キューブの提案が最優秀案として採択され、キューブが担当企業として関西初となるスケルトン定借事業の事業化に取り組むこととなりました。



  塚口コーポラティブハウスでは、施工会社を選定するにあたっても、前例のない方法でコンペを行いました。建築費の上限を提示し、建物の高耐久性と将来的な設備の更新性についてのノウハウを競うというものです。 高耐久性の技術とかその問題 点、あるいはメンテナンスに関しての経験や情報量では、設計事務所よりも施工会社の方が強いので、予算の範囲内でできるだけたくさんの提案を施工会社から出してもらったほうが意味があると考えたのです。



キューブでは、設計にあたって、 住宅における耐久性の高い設備とは、新製品や新規手法よりも、むしろ、評価の確立した手法をできる かぎり用い、将来における技術革新に対応できる順応性を持たせることだと考えています。頭でっかちな新奇性は、むしろ建物の寿命を縮めると考えていま す。 無制限に自由にしてしまうと、居室の上にトイレがきたり、リビングの上に浴室があったりというプランになる可能性もあり ます。そんなことが住環境としていいことだとは思えません。水回りは利用時間や生活スタイルが様々なので、あまりバラバラにしたくない。ある程度、技術 的に問題のない範囲内に制限しておくことが、ひいては入居者がお互いに気持ちよく住めることにつながるはずです。こういうことを入居者に説明すると、皆さ んよく分かってくださいます。
これに限ったことではありませんが、法的、技術的に問題のある希望に関してはコーディネーター側の判断でお断りすることもあるということを伝えて、事業を進めるようにしています。



このような考え方も、スケルトン定借に取り組み、真剣に建物の長期耐用性をつきつめて考えていく中で見えてきました。そして、今まで「何でもあり」のようにして取り組まれてきたコーポラティブハウスの問題点も見えてきました。
マンションは、その存在自体が公共性を持っており、簡単に建替えができない以上、長持ちさせなければならない社会的責任を負っています。その社会的責任を負っている自覚のもとに、マンションの設計はなされなければなりません。それはコーポラティブハウスでも同じです。


本事業の参加者募集にあたり、当初は、スケルトン定借という新しいシステムをどういうふうに説明すればよいのかということに、たいへん苦労しまし た。仕組みが複雑なので、説明をすればするほど、聞いてくださっている方が引いていかれるように感じたものです。公的な色彩の濃いものだから一民間人が話 しても説得力がないのかなと思ったこともありました。
しかし、阪神淡路大震災で建替えを経験された方が塚口コーポラティブハウスの参加者の中に2人おられますが、こう いう方は、最初にこのシステムの説明をしたときに、すぐに理解されたそうです。だからこれを選んだのだと。その時ばかりは、スケルトン定借の真価を思い知 らされたような感じがしました。


スケルトン定借事業に実際に関わってみて、スケルトン定借は、合意形成に対する絶望の上に構築されたシステムであると感じました。そういう意味では一般的にコーポラティブの持つイメージと対極の可能性を内包していると思います。スケルトン定借は、日本の集合住宅に持続可能性を持たせるための一つの方法を提示しており、一般の分譲方式そのものをくつがえすほどのラジカ ルな発想転換を提起していると感じました。


建物は、スケルトン定借の主旨を踏まえ、スクウェア六甲で取り組んだスケルトン・インフィルの分離をさらに進め、徹底しました。そして、インフィル設計の自由度も、かなり幅広く対応するようにいたしました。



1階診療所の待合室

1階には診療所が入りました。
70坪以上の広さがある、ゆったりとした診療所です。




防音仕様にした、18畳大のオーディオルームを作られた住まいも実現しました。
この住まいは、この部屋以外は広いワンルームとなっており、通常のマンションではありえない、オリジナルな間取りと仕様になりました。




トップハウスのこの家は、高い天井高さを生かした大空間を感じる事のできる住まいとなりました。
海外居住の長かったご家族で、海外で購入された家具が大きく、日本の住まいには合わないということで、その家具に合わせて設計を行いました。




こちらの住まいも海外に良く行かれる方で、海外で購入されてきた小物が活きるようなインテリアをイメージした住まいとなりました。




こちらは壁面収納を多く確保して、すっきりと暮らすことができる住まいです。
右側の個室は2つの扉を持ち、将来子供の成長過程に応じて2部屋に仕切ることもできるように、可変性を持たせています。




以上のように、個々の設計内容も、よりバリエーションの幅の広いものになってきました。
塚口コーポラティブハウスでは、間取りの可変性にこだわられた方々が多くおられました。
スケルトン定借という、基本的に永住志向の住まいを取得するにあたり、個々のライフステージに応じた暮らし方をイメージすると、自ずから可変性のある、柔軟な住まいに辿りついたようです。



実際に個別設計を進める中で、従来のnLDKという間取りに対する問題意識を持たれている方々も少なくない事を実感しました。現在世の中で問題視されている家族関係の希薄化や個々のコミュニケーション能力の低下は、今や一般的であるnLDKという間取りの影響もあるのではないかと教えられました。


「住まいに住み方を合わせるのではなく、住み方に応じた住まいを作る。」



これができるのはコーポラティブハウスの大きな魅力の一つです。
一つ一つ、新たな事業に取り組むごとに、コーポラティブハウスの持つ可能性に気づかされます。



さらに、本事業では、マンションの持続可能性について深く考えさせられました。
スケルトン定借を知れば知るほど、一般の分譲マンションの限界と向き合うことになります。
そして、一般の分譲マンションが、唯一持続可能性を持つための命綱である合意形成が、積極的に機能しない方向に向かってマンション分譲事業が行われている現状も見えてきます。



そんな中で、合意形成を担保する方法としても、コーポラティブハウスの持つ可能性が見えてきました。コーポラティブハウス事業を進める際の合意形成手法は、入居後のマンションの維持管理運営にも活かすことができるはずです。そういう意味では、コーポラティブハウスはマンションの維持管理運営における合意形成を円滑に図るためのシミュレーションであるという見方も可能です。このような視点を自覚して、コーディネーターとして事業運営に関わることが、コーポラティブハウスの持つ可能性を、より大きくしていくことに繋がるのではないかと気づきました。

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