2012年6月30日土曜日

テラスハウスの可能性について


デュプレックス宝塚千種でテラスハウスの計画を行い、テラスハウスの持つ可能性を再認識しました。ここでは、テラスハウスの可能性について考察してみたいと思います。 

日本の住宅の寿命が短いというのは周知のことです。
では、住宅の寿命が長いのは、どの国かと調べてみるとイギリスであることがわかりました。
なんと、住宅の平均寿命は、日本の約3倍とのことです。

その、イギリスでは、住宅はどんな形式で建設されているかと調べてみると、その多くが低層で各戸が地面に接している連続建ての集合住宅であることがわかりました。
接地型で連続建ての 集合住宅をテラスハウスと言いますが、イギリスでは、セミデタッチドハウスという2戸1住宅も多く、この2つを合わせると、現在でも全住宅のおよそ6割を占めるそうです。
上の写真は、イギリスのありふれた景色ですが、すべてテラスハウスです。
テラスハウスもセミデタッチドハウスも、戸建ではなく集合住宅であるという意味では同じと考えて差し支えないと思いますが、なぜこのような集合住宅が200年以上前から建設され、今もまだ利用され続けているのでしょうか?

イギリスのテラスハウスは、レンガ造か石造等、耐久性の高い構造で作られています。
元々イギリスの住宅もほとんどが木造でしたが、17世紀後半にあったロンドン大火によって、およそロンドン市内の家屋の85%が焼失し、その後木造住宅の建設が禁止された結果、レンガ造と石造の街並みが形成されたそうで、そもそも建設時点で長期耐用性を想定して建設されたわけではありません。
イギリスには地震がほとんどないので、耐震性が建物の寿命を決定しません。
従って、現在でも戦前に建てられた、レンガ造や石造のテラスハウスが利用されています。
ローマに行けば紀元前に建設されたレンガ造や石造の建物が現存するように、耐震性を考慮する必要がなければ、レンガ造や石造は長期耐久性を持っています。
さらに重量があるので遮音性等にも優れ、各戸の独立性が確保されているので、築年数が古くなっても建替えず、 構造部分を生かしたまま、内部を改装して利用することができるのです。


もう一つに、接地型という建物形状が大きく作用しているのではないかと思います。
200年前というと、イギリスにおいても現在と設備関係は全く異なります。
当然家庭はまだ電化されておりませんし、インターネット等に関しては想像することもできなかったことと思います。 
そんな時代のストックが、なぜ今でも利用できるのでしょうか?
テラスハウスは、戸建と同様に、共用配管は建物外部の地下に埋められ、設備更新を個別にすることができます。このことで、設備の近代化に容易に対応する事ができたのではないかと思います。

このように、構造の耐久性と設備更新のしやすさが、結果としてライフスタイルや時代の変化に対応することが出来、超長期にわたって社会的耐用性を持続させることに繋がったのではないかと思います。イギリスでも戦後、テラスハウスをマンションに建て替えて高度利用を図る動きが進められた事があるそうです。しかし、テラスハウスの魅力の方が高く、日本のようにマンションが一般的な居住形態の一つとなるような大きな動きになりませんでした。イギリスでは今でもマンションは「フラット」と言われ、テラスハウスやセミデタッチドハウスのように「ハウス」とは呼んでもらえません。




それでは、日本におけるテラスハウスの状況はどうでしょうか?
日本でも1970年頃から導入されましたが、現在ではあまり見られません。
その理由は何でしょうか?

大きな問題として、当時供給されたテラスハウスの構造耐久性が低いことが上げられます。
テラスハウスは集合住宅です。
集合住宅である以上、基本的に維持管理運営には合意形成が必要です。 
集合住宅が建替えに向けて合意形成を得ることは非常に困難です。
耐久年数が短く、築20年~30年程度で建替えを検討しなければいけないようでは、合意形成の困難さがすぐに顕在化し、問題となります。
集合住宅である以上、長期耐久性は必要条件ですが、日本のように地震国において耐震性を維持するには工夫が必要です。

また、当時供給されたテラスハウスは隣接住戸間の遮音性が低く、住戸の独立性が十分に確保されていませんでした。隣の家の話し声が、そのまま聞こえてくるようなものもあったと聞きます。このような住まいではプライバシーが確保できず、長く大事に使おうという意識も生まれません。

さらに、当時テラスハウスは戸建のイメージを装って販売されたようです。
テラスハウスは実際には集合住宅であり、維持管理運営には合意形成が伴うにも関わらず、戸建のように独立したものとして販売されたようです。
実際に建築確認は複数戸からなる連続建ての1棟として申請されているにも関わらず、敷地を区画ごとに分筆し、それぞれが独立性を担保しているように装って登記されているものが存在します。

こんな問題だらけのテラスハウスが普及するはずがありません。
しかし、イギリスのテラスハウスがそうであるように、これらの問題はテラスハウスが本質的に持っている問題ではありません。



一方、元々日本にはなかった建築方式で、同じように日本に導入され一般化したマンションはどうでしょうか?日本のテラスハウスのような問題は何も無いのでしょうか?

築30年を超えると必ず必要となる配管等設備の更新を行う大規模修繕の合意形成が難しく、未だにイギリスのテラスハウスのように長年にわたる居住ができないのが現状です。
結果として建て替えを検討されることが多いのですが、それには大きな困難を伴います。
これは日本の集合住宅が共通して持つ、根本的問題であり、この問題を乗り越える事なくして日本の集合住宅が持続可能性を持つことはありません。

そして、この問題は現在急増している超高層マンションでも全く同じなのです。



イギリスの実績を参考に、日本独自の長寿命なテラスハウスを実現することができれば、持続可能な集合住宅に繋がる道が見えてくるのではないかと考えました。

その為には、従来の日本のテラスハウスが持っていた問題を解消する事が必要です。

まず、長期耐久性を持つ構造を採用する事が必要です。
デュプレックス宝塚千種は、耐久性の高い構造を採用するという方法を取りました。
宇多野コーポラティブハウスや1000年住宅では、各戸を構造的に独立させ、耐震性が損なわれるような状況になった時に、戸別に耐震性を回復する措置を取ることができるように計画するという方法を取りました。


また、住戸ごとの独立性を確保する事が必要です。
テラスハウスは上下に他者が住まないので、隣接住戸間の独立性が確保できれば、一般のマンションよりも独立性を高く保つ事が可能です。
デュプレックス宝塚千種では、 鉄筋コンクリート造により、一般のマンションと同等以上の独立性を確保しました。
宇多野コーポラティブハウスや1000年住宅では、各戸を構造的に独立させ、2枚壁により鉄筋コンクリートと同等以上の遮音性能が確保できるように工夫しました。


そして、長期的に必要な維持管理運営を行うことが必要です。 
これは、管理組合が自立し、第三社の専門家として管理会社を上手に利用すれば可能だと思います。





このように、工夫次第で日本独自にテラスハウスの持つ可能性を広げることは可能だと思います。
デュプレックス宝塚千種で気付いたテラスハウスの可能性を、宇多野コーポラティブハウス、1000年住宅と展開してきましたが、 これからもさらなる可能性について検討し、具体的な事業の中で展開していきたいと考えております。


















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